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万能「村づくり」チートでお手軽スローライフ ~村ですが何か?~ 作者:九頭七尾
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第1話 ギフトは『村づくり』です

「ルーク=アルベイル様のギフトは……む、『村づくり』です……」


 神官が告げた言葉に、大聖堂が静まり返った。


 アルベイル領内で最も大きな教会の大聖堂には、大勢の人たちが集まっている。

 領主であるアルベイル卿の二人の息子が同時に祝福を受けるというのだから、領民からはもちろんのこと、他領地からも注目を浴びる重要な儀式だった。


「む、『村づくり』ですか……? それは一体、どんなギフトなんですか……っ!?」


 思わず声を荒らげ、聞き返す僕。


 そう、ルーク=アルベイルとは僕のことだ。

 アルベイル卿の長男として生まれ、いずれは父上から領地を継ぐべく、幼い頃から周囲に期待されてきた。


 そんな僕にとって、この祝福で授かるギフトは何よりも大切なものなのだ。


「わ、分かりません……。聞いたこともないギフトですので……。ですが、戦闘に役立つようなものではない、ということは確かであるかと……」


 神官が言い辛そうにそう口にする。


「そ、そんな……」


 ギフトというのは、すべての人に与えられるわけではない。

 選ばれた人だけが、十二歳になった際に神々から授かることができるのだ。


 特に今の世の中に求められているのは、戦いに役立つギフト。

 王家の力が弱まり、諸侯たちが互いの領地の奪い合いをしている動乱の時代だからだ。


 とりわけ、領兵を率いて戦うことの多い領主やその一族ともなれば、なおさら戦闘系のギフトが求められた。


 父上は『剣聖技』というギフトを持っている。

『剣技』の上位ギフトで、自ら先陣を切って敵陣に飛び込んでいく勇猛さも兼ね備えた父上の強さは、今や国中に知れ渡るほど。


 元々は子爵位でしかなかった父上が、たった一代で他の有力諸侯たちに肩を並べるほど領地を拡大できたのは、このギフトのお陰と言っても過言ではない。


 ギフトは遺伝の影響を強く受けるので、僕も父上と同じ『剣聖技』ギフトを授かると期待されていたのだ。

 特に僕の場合、母上が『剣技』ギフトを持っている。

 この場合、八割以上の確率で子供は『剣聖技』ギフトを授かると言われていた。


 僕は恐る恐る父上の方を見た。


 つい先ほどまで僕に期待の眼差しを向けていた父上が、今や完全に関心を失ったような無表情と化していた。

 そのすぐ隣にいる母上は、呆然自失と言った様子で天を仰いでいる。


「邪魔だ、兄貴。次は俺の番だぞ。とっととそこをどけ」

「っ……」


 僕を押し退けたのは、弟のラウルだった。

 といっても、僕が正妻の子であるのに対し、ラウルは側室の子だ。


 ラウルの母は、元々お城のメイドだったため身分が高くない。

 ギフトも持っておらず、これだと子供が『剣聖技』を授かる確率は一割以下、『剣技』でも五割程度だ。


 だから僕と違って、ラウルはあまり期待されていなかったのだけれど――


「ラウル=アルベイル様のギフトは……な、なんと! 『剣聖技』です!」


 そんなラウルが授かったのが父上と同じ『剣聖技』だったのだから、僕のときとは真逆で、大聖堂が大きく湧いた。


「「「おおおおおおっ!」」」


 父上がラウルの元へと駆け寄り、満面の笑みでラウルを抱き締める。

 ラウルの母が涙を零して喜ぶ一方で、僕の母上は絶望の表情を浮かべていた。


 一変した世界の中で、僕はただ茫然と突っ立っていることしかできなかった。






「……行ってきます、父上、母上」


 僕は寂しくそう呟いて、馬車を発車させようとする。


 父上と母上はもちろんのこと、家臣からの見送りもない。

 期待を裏切り、次期領主どころか、僻地へ追いやられることとなった僕なんて、もはや見送る価値もないのだろう。


 結局、今まで周りが僕に奉仕してくれていたのは、僕が領主の息子で、僕が未来の領主だったからだ。

 分かってはいたけど、なんて虚しいんだろう。


 これから僕が向かう先は、アルベイル領の北方に広がる無人の荒野だ。

 周辺に危険な魔境がある上に、土地がひどく痩せていることから、ずっと放置され続けている不毛の地。


 僕はその開拓を命じられたのだった。


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