東京・渋谷のスクランブル交差点をマスク姿で行き交う人たち。東京都で1日当たりでは過去最多となる、224人の感染者が確認されたニュースが大型ビジョンに流れた=9日午後
東京都の新型コロナウイルス感染者数が9日、224人に達し、過去最多を更新した。7月になって連日100人を超えたが、一気に急拡大。それでも政府は10日のイベント制限緩和の方針を維持し、緊急事態宣言の再発令は否定する。だが、感染者の対応に当たる現場からは「第2波と言える状況だ」との声も。専門家も政府の姿勢を疑問視し、感染拡大防止の具体策を求めている。
▷楽観論
「陽性者数だけを見れば、今後も増えていく可能性はある。一方で、都の重症者数は6人にとどまり、この2週間死亡例はない」。9日、報道陣の取材に応じた小池百合子都知事は警戒感を示すとともに、都の対策に自信も示した。これまで1日の感染者数が最も多かった4月17日(206人)と比べ、PCR検査数は大幅に増えたとアピール。人数が増えたのは、検査が拡大した結果との考えをにじませた。
政府も都内の空き病床数に「まだまだ余裕がある」(官邸筋)ことなどを根拠に強気の姿勢を崩さない。ある高官は「検査数が伸びている以上、感染者数が増えるのは当然だ」と楽観論に立つ。
10日にはイベントの制限が緩和され、コンサートやプロスポーツは、一定数まで観客の入場が認められる。記者会見で是非を問われた菅義偉官房長官は「予定通り行う考えに変わりはない」と淡々と答えた。
▷変化
都内の新規感染者は6月中旬以降、増加傾向が続く。ホストクラブなど「夜の街」関連の感染者が多く、都の担当者は「発生地域は限定され、経路は捕捉できている」と強調してきた。ただ7月に入り、友人同士の会食や、家庭内、職場内での感染事例も目立ち、様相は変わりつつある。
「先週までは飲食店など特定の業種の関係者が多かったが、今週はそうでない人が増えた。友人との会食で感染したと思われるケースもある」。東京都北区保健所の前田秀雄所長はそう語る。
6月下旬以降、20~30代を中心に感染者が増え「4月のピーク時とほぼ同じ水準で、区内だけで考えれば第2波と言える状況」と言い切る。
前田所長は「このまま広がれば、高齢者が感染して重症者が増える。医療機関で一般患者に使う病床をコロナ用に空けてもらわないと、再び病床が逼迫してしまう」と危機感を強めた。
▷地方に波及
専門家にはさらに厳しい見方もある。「ここまで早く人数が戻るとは想定していなかった」と話すのは東京医大の浜田篤郎教授(渡航医学)。「市中感染が広がりつつあると考えた方がよい。緊急事態宣言時ほどではなくとも、外出自粛を考えるべきだ」と指摘する。
現時点では医療体制に問題はないとの見方もあるが、浜田教授は「その前に感染拡大を止めなければいけない」として、都内ではイベントの制限緩和は見送るべきだと主張する。
東京にとどまらず、隣接する埼玉県では8日、緊急事態宣言解除後で最多となる48人の感染が判明した。千葉県も9日、解除後最多の22人に。沖縄県では、旅行で訪れた東京都在住の20代女性の感染が新たに分かった。
政府は経済活動とコロナ対策の両立を進めるが、感染は東京から地方に波及しているとみられる。浜田教授は「第2波は近づきつつある。待ったなしの状況だ」と懸念を示した。
(共同通信社)