■謎の無人鉱山を探る
1987年6月、夏を予感させる暑さの中、上有住から日鉄大洞鉱山へ向かって歩いた。上有住からは石灰石輸送用の引込線が延びていて最奥のホッパー近くにスイッチャーが休んでいた。駅から鉱山まではさほど遠くないが、夏の日差しが砂利道を照り付けていてとにかく暑い。
鉱山の入口まで来ると「日鉄鉱業大洞鉱業所」の看板が出ていたが、守衛さんなど誰もいないので誰か現れるまでズカズカと進入した。
ホッパーの上段まで登ると軌道があったが、相変わらず誰も現れない。とりあえず写真を撮りながら進む。山神様があった。静まり返った鉱山は少し不気味でもある。機関車も本線上に停まったままだ。
坑口があり鉄の扉は開いているが、近付く気になれず離れたところから写真だけ撮った。
ホッパー付近にも人影がなく静かに時間だけが過ぎる。誰にも会わなかった施設はいくつか経験があるが、これほど人気がないのは他になかった。従業員の車が停めてあったり、洗濯物が風になびいていたり、焼却炉から煙があがっていたりと何かしら人の気配を感じるのであるが、ここは全くない。
廃車になった?鉱車があった。そう言えば鉱車の姿が見えない。何処にしまってあるのだろうか?坑口の中にでもあるのだろうか?
山の向こうに露天掘りの鉱山(ヤマ)が見える。鉱石も整然と積上げられている。確かに鉱山は稼動しているのだ。しかし…、
結局、誰に会うこともなく鉱山を後にする。上有住駅まで戻り再び列車に乗った。
その後、軌道は廃止されたという噂を聞いた。鉱山は稼動しているのか不明である。
今となっては幻ではなかったか?と思うほどである。
《データ》
■㈱日鉄鉱業 大洞鉱業所
◇岩手県気仙郡住田町◇上有住 歩5
◇区間:鉱業所内◇動力:DC?V◇軌間:762mm◇敷設日:不明◇廃止日:不明
◇参考資料:RM18BESTトロッコp51・全国鉱山鉄道p65
[調査日:1987.06.14]