畳を模した啓発用パネルを畳堤の枠に設置する作業員ら=兵庫県たつの市龍野町川原町で2020年7月7日午後5時10分、幸長由子撮影

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 梅雨の長雨時期を迎え、今年も九州を中心に水害で大きな被害が出た。兵庫県西部を流れる1級河川・揖保川では、たつの市の堤防に、景観と治水のバランスに配慮した全国でも珍しい水防設備「畳堤(たたみてい)」が備わる。増水時、流域住民が自宅の畳を持ち出してでも越水を防ごうという覚悟で設置されたという。どんな仕組みなのだろうか。

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「川の風景守りたい」住民の声で

 国土交通省姫路河川国道事務所によると、畳堤は増水に備え、堤防上に設置された欄干状のコンクリート枠の溝に、上から畳を差し込んで河川の越水を防ぐ。横長にした畳を差し込むと、堤防を約90センチ分かさ上げできる。畳が水を吸収して膨張するため、強度が増すという。堤防自体をかさ上げすることに比べ、普段の景観を保てるのが利点だ。

 全国でも他に、岐阜県の長良川、宮崎県の五ケ瀬川にあるだけ。たつの市では約60年前、洪水が頻発していた揖保川の治水対策として、3地区計約3・1キロに設置された。当初はコンクリートの壁のような堤防を造る案もあったが、「美しい川の風景を守りたい」との住民の声があり、非常時には各世帯の畳を提供する覚悟で畳堤が設置された。

いまは市が備蓄

 実際に住民が畳を持ち寄る場面はなかった。いまでは市が近くの防災倉庫に畳を備蓄し、自治会が管理する。消防団などが設置訓練を実施。2018年の西日本豪雨の際、初めて一部で実際に設置した。水は畳の約20センチ下まで迫ったという。

 地元の正条自治会では、09年の兵庫県佐用町の水害を機に毎年、設置訓練をしている。自治会の円尾和也会長(69)は「自分の住むエリアにどのような災害のリスクがあるかを訓練で伝え、災害に備えたい」と話す。

 姫路河川国道事務所は7日、防災啓発用の「畳パネル」を正条など3自治会に2枚ずつ寄贈。龍野城近くにある観光駐車場前の畳堤にも10枚を設置した。パネルは、劣化しにくいアルミニウム枠で、畳を模したウレタン樹脂シートを貼った。地元への周知のほか、たつのの古い町並みにひかれて訪れる観光客にも畳堤を知ってもらう狙いがある。

 寄贈式で、同事務所の磯部良太所長は「畳堤は、水を防ぐだけでなく、子供たちが訓練を見ることで水防への意識を高める効果がある」と話した。【幸長由子】