(可愛いだと? どんな感性をしているんだ! 黄金自身が化け物だから、化け物に対してそうなるのかっ!)
ジルクニフは、ありえないラナーの発言に驚く。普通の感性ではありえない。
実際普通の·····いや優れた支配者である彼自身は、やはり恐怖を感じていたが、身につけているアイテムの作用で動揺は抑えられている。それがなければ平静を保って居られたかはわからない。命ある者を全て憎むようなそんな殺気がモヤになって漂っているようにさえ感じる。それほどの存在なのだ。
そんな化け物を可愛いと言ってのけるラナー。隣国の第三者王女は平然としているどころか、どこかこの状況を楽しんでいるように見えた。
(誰もが恐怖を感じるシチュエーションだぞ? 何故そんな楽しそうに·····)
考えられるとしたら、安全を確信している。または、頭がおかしいかのどちらかだ。
(ある意味人と違うという意味ではおかしいとは思うが·····この場合は安全を確信しているという事か?)
ジルクニフはラナーの隣に立つナザリック候モモンこと、悟に目をやる。
(まさか·····な)
この間に十人ほどの勇気を振り絞り、恐怖を気合いの声でうち払った兵達が襲いかかったが、呆気なく蹴散らされ一瞬にして全員戦闘不能になっている。
「やはり逃げるべきでは·····」
なおも逃げようとする"重爆"。
「さっきみただろう? 逃げようとした兵が狙われたのを·····」
十人が飛び掛る前に、パニックに陥り逃げ出した兵がいたのだが、彼は五歩目を踏み出す前に追いつかれ盾で殴り飛ばされたのだ。逃げ出すものを追う性質があるのかもしれない。
「でも!」
「逃げようとしたらやられる。こっちからいくしかないんだ」
「仕方ありませんわ·····」
二人の騎士が覚悟を決め、攻撃態勢に入った。すでに部屋に駆けつけた兵で戦えるものはいない。この二人を残すだけだ。帝国四騎士のうち、一人は非番で一人は軍の演習に同行している。つまり、もう援軍は望めない。
「ぬおおおおっ!」
"雷光"バジウッドがその名のごとく、素早い一撃を右側から繰り出す。普通の相手ならば、一瞬で斬り飛ばすであろうその剣だが、死の騎士にはスローモーションに見えたのだろうか。あっさりと左腕の大型の盾で受け止め·····いや、盾でカウンター!
「ぐあっ!」
バジウッドの身体はお手玉のように軽々と中に打ち上げられ、剣は弾き飛ばされた。
「きゃああっ!」
ほぼ同時に左から重い一撃を繰り出していたレイナースだったが、こちらもいつの間にか壁まで吹き飛ばされている。
「ば、バカな·····四騎士の二人が一撃だと!?」
さすがのジルクニフもこれには驚いた。
「あらあら、アンデッドさん強いですね。それとも、四騎士さんが弱いのかしら?」
ラナーがかるく爆弾を投下してくる。軽くても爆弾は爆弾なのだが。
「ガゼフならこんな事にはならないだろうな」
悟もそれに乗った。実際王国戦士長ガゼフ・ストロノーフは、以前の戦争で当時の帝国四騎士を一人で相手にし、うち二人を討ち取っている。もっともそのガゼフが、このアンデッドに勝てるかどうかは分からない話なのだが。
「くっ、あの時ガゼフ・ストロノーフをスカウトできていれば·····」
ジルクニフは歯噛みしたくなるのをこらえるが、思わず下を向いてしまいアンデッドから目を切ってしまった。
「ジル!」
白髪白髭の魔法使いフールーダの声にハッとなる。
「しまっ·····」
すでにジルクニフの目前に盾が迫っていた。
(こ、こんなところでっ!)
ジルクニフは死を覚悟し、目を瞑ったが何もおきない。
「大丈夫か、
この声に目を開くと、いつの間にか悟が割り込み盾の一撃を右手一本で受け止めていた。
いつもありがとうございます。
何故か月初から月末レベルの業務量。うーん、進まない。
せめて倍は書きたい·····。