実践主義! 高橋庄太郎の山道具コレクト
リーズナブルなのに切れ味も使い勝手もバツグン!

“折る刃”で有名なナイフメーカーが手がけた「オルファワークス」の替刃式アウトドア用ナイフ


アウトドアに「ナイフ」は、つきものだ。用途によってあまりにも種類があり、人によってはハンドルに鹿の角などできれいに装飾されたハンティング系の芸術的ナイフをイメージするかもしれない。だが、実際に活躍する“実用品”といえるものは、シンプルで武骨なデザインのものも多い。

今回紹介するのは、この春に登場した新ブランド「オルファワークス」のナイフ3種(正確には、ひとつはノコ刃)である。このブランド、新登場のナイフメーカーではあるのは間違いないのだが、どこかで聞き覚えはないだろうか?

男っぽいデザインのパッケージに入れられたオルファワークスの製品。大きい箱のものは長さが30cmもあり、店頭で目立ちそうだ

交換するという発想のアウトドア用ナイフ

実は、オルファワークスの親会社的な存在は、大阪に拠点を置く日本の刃物メーカー「オルファ(OLFA)」。同社を代表的する製品と言えば、何と言っても、「折る刃」で有名なカッターナイフであり、この会社の製品を使ったことがない人はいないのではないかと思われるほど、文具、工作の場では非常に大きな存在だ。日常生活に溶け込みすぎていて、改めて社名を考えたことすらないかもしれない。そして、このオルファがアウトドア分野に進出するために、満を持して立ち上げたのがオルファワークスというわけなのである。

デビュー作となるのは、「替刃式フィールドノコギリ FS1」「替刃式フィールドナイフ FK1」「替刃式ブッシュクラフトナイフ BK1」の3種。いずれも「オリーブドラブ」と「サンドベージュ」の2色を用意している。

上から順に、「替刃式フィールドノコギリ FS1」(販売価格2,000円/税別)、「替刃式フィールドナイフ FK1」(販売価格1,400円/税別)、「替刃式ブッシュクラフトナイフ BK1」(販売価格1,300円/税別)。中央の替刃式フィールドナイフ FK1がサンドベージュで、残り2製品がオリーブドラブというカラーだ

興味深いのは、これらの製品はいちからオリジナルとして作られているわけではなく、“母体”となるモデルが、オルファのシリーズ内にあることだ。僕の自宅の工具入れや机の引き出しをガサゴソとひっくり返してみると、今回紹介する3種の内、2種類と似た製品が見つかった。このような定番品をブラッシュアップさせることで、アウトドアで使いやすいモデルへ進化させた結果が、新ブランド「オルファワークス」の3種なのであろう。

では、どのように進化しているのか? 僕が私有していた定番ナイフと比べると、わかりやすい。

まずは、「替刃式フィールドナイフ FK1」(以下、フィールドナイフ)だ。どちらもスリップしにくい素材のハンドルながら、ひと目見ただけでハンドルの形状が異なるのがわかる。フィールドナイフのほうは刃と反対側の末端にボリュームがあり、力を入れやすくなっているのだ。また、金属の爪のようなパーツも取り付けられている。

上は僕の自宅にあった「ノンスリップ AL型」で、下がフィールドナイフ。フィールドナイフは末端に金属の爪のようなパーツが追加されている。これら2製品は似ているが、フィールドナイフの正式な母体は「ハイパーL型」のようだ

そして、なにより刃がまったく違う。そもそもオルファという会社名の由来は「折る刃」であり、刃の切れ味が損なわれてきたら、折り目に合わせて折り取ることで再び切れ味を取り戻せる“機能”がもとになっている。そのため、刃自体はだんだん短くなっていくが、最終的には別の替刃に変更することができるのが最大の特徴だ。だが、フィールドナイフは刃を替えることはできるものの、短く折りながら使うことはできない。つまり「オルファ」でありながら、「折る刃」ではないということなのだ。

従来の刃が先端から5mmくらいずつ折りながら使えるのに対し、フィールドナイフの刃は折る構造にはなっていない

その代わり、フィールドナイフは刃のエッジが波形に研磨されている。一般的なストレート状の刃よりも切ろうとする素材に引っかかりやすく、切れ味はなめらかだ。

ちなみに、フィールドナイフの替刃(OWB-FK1)は、3枚で500円(税別)。同サイズのカッターナイフの一般的な替刃(大)は10枚で200円程度なので、価格の差からもフィールドナイフの高品質ぶりがうかがえる。

次に、「替刃式ブッシュクラフトナイフ BK1」(以下、ブッシュクラフトナイフ)を見てみよう。僕が所有している「クラフトナイフ L型」と比べると、ハンドルには大きな違いはない。しかし、刃のエッジの形状は異なっている。だが、それ以外は……。今回登場した3アイテムの中で、従来製品ともっとも変更点が少ないのが、このブッシュクラフトナイフのようである。

僕が愛用してきた「クラフトナイフ L型」(上)と、フィールドナイフ(下)

僕が愛用してきた「クラフトナイフ L型」(上)と、フィールドナイフ(下)

フィールドナイフの刃は、従来の刃を少し加工して進化させた印象だ

フィールドナイフの刃は、従来の刃を少し加工して進化させた印象だ

とはいえ、刃の根もとの部分の形状は、たしかに異なる。この部分をどのように使うのかは、また後ほど説明したい。

最後に、「替刃式フィールドノコギリ FS1」(以下、フィールドノコギリ)である。繰り返すが、これはナイフではなく、ノコギリ。ナイフ以上に刃を前後させて使うものだけに、力を入れやすいよう、もっとも大型になっている。以前から販売している小型ノコギリを、アウトドア仕様に変更したのだろう。僕はこのサイズのオルファのナイフやノコギリを所有していないため、前述の2アイテムのように従来のものとの比較はできないが、お許しいただきたい。

衝撃焼入により強度を増した刃は、簡単には折れない。刃渡りは106mmである

衝撃焼入により強度を増した刃は、簡単には折れない。刃渡りは106mmである

オルファワークス製品の中ではもっとも大きいが、一般的なノコギリとしては小型。そんなユニークな立ち位置だ。

ここまで見てきたように、オルファワークスの3種のナイフとノコギリはハンドルもアウトドアらしい形状やカラーになっているが、それ以上のポイントはやはり「刃」にある。オルファの一般的製品のように“折る”ことはできないものの、刃が欠けたり、摩耗した際にはカンタンに“替える”ことができるのは、これまでのアウトドア用ナイフにはなかった特徴なのである。

フィールドノコギリの替刃(OWB-FS1)は1枚入りで800円(税別)、フィールドナイフの替刃(OWB-FK1)は3枚入りで500円(税別)、ブッシュクラフトナイフの替刃(OWB-BK1)は1枚入りで600円(税別)

一般のナイフは刃が劣化してきたら研ぎ直す必要があったが、オルファワークスの製品なら交換するだけなので気軽に使え、めんどうさを感じない。もちろん、ナイフとしての機能をきちんと果たす力を持っていれば、の話だが……。

切れ味や使用感をチェック!

ここからはこの3種のアイテムを実際に使った様子をお伝えしていく。ただ切れ味を試してもつまらないので、木の枝を使って箸を自作してみることにした。

はじめに使用するのは、フィールドノコギリ。おそらく桜と思われる樹皮を持つ木の枝を手ごろな長さに裁断していく。

箸に使えそうな枝をフィールドノコギリでカット。刃渡りが10cmほどなので、あまりに太い枝を切るのには適していないが、箸向けの太さの枝にはちょうどいい

完全に乾燥している枝が見つからなかったので、いくぶん水分を含んだ枝をカットしたが、スムーズに切ることができた

フィールドノコギリの目立ては細かく、切断した枝の断面はとてもきれいだ。目が細かいとその分、太い枝を切る時は少し時間がかかりそうだが、もともと刃渡りは10cm程度。切断できるのはおそらく直径5cmほどの枝が限度となるものの、小型ノコギリとしては十分ともいえる。今回切断した枝はそこそこ太く、3cmほど。箸の太さを考えれば、これを縦割りに2分しても十分な太さだ。

次は、ブッシュクラフトナイフの出番である。

枝の断面へ縦に刃を入れる。写真では少し危険な持ち方に見えるが、わかりやすくするため、あえてこのような位置にしている

かなり乱暴な方法だが、枝を岩の上に立ててから刃の背中へ石を打ち下ろし、枝を縦に割った

かなり乱暴な方法だが、枝を岩の上に立ててから刃の背中へ石を打ち下ろし、枝を縦に割った

ブッシュクラフトナイフの刃の厚みは1.2mm。この厚みは木を割るのに有効で、少し無茶をしてハンマー代わりに石で打つと、枝はきれいに真っ二つに割れてくれた。また、これくらいの厚みがあれば刃が折れる心配がなく、安心感も高い。なお、ナイフの背を石で打つような使い方をメーカーは推奨していない。念のため。

ここから、箸らしい形状に整えていく。そのままブッシュクラフトナイフを使ってもよさそうだが、“削る”ことに関しては、より刃が薄いフィールドナイフのほうが便利そうなのでナイフを持ち替えて箸作りを進める。

やわらか木質だったので、波形の刃は切れすぎるほど。あっという間に作業が進んでいく

やわらかい木質だったので、波形の刃は切れすぎるほど。あっという間に作業が進んでいく

フィールドノコギリ、ブッシュクラフトナイフ、フィールドナイフはどれも刃の長さを調整できるが、フィールドナイフで行ったような作業ではできるだけ長くしておいたほうがスムーズ。実際、あっという間に箸らしい形状になっていった。

ここで思うのは、フィールドナイフの刃が「オルファ」のように“折れる”刃だったら、木を削る作業が難しかっただろうということだ。“折れる”刃は先端の切れ味を保つためには有効だが、刃を長くして使っていると強い圧力がかかった際に折れやすい。それも、強いテンションがかかった刃はただ折れるわけではなく、折れた瞬間に弾き飛び、とても恐ろしい存在になる。だが、一般のオルファの刃と違って折れ目が入っていないからこそ、フィールドナイフの安心感は非常に高く、ケガをする心配も減るのである。

試しに、ブッシュクラフトナイフでもフィールドナイフと同じように削れるかをテストしてみた。ブッシュクラフトナイフは刃に厚みがあり、より安心感が高い。親指で刃を押し出すようにして削り出すような作業もしやすく、ますますタフな使用に耐えうる。ただ、刃の厚みには一長一短があり、やわらかな木質の枝をただ薄く削るだけならば、フィールドナイフのように刃が薄いほうがラクである。

ブッシュクラフトナイフでもスムーズに削ることはできたが、使い心地は大きく異なる

ブッシュクラフトナイフでもスムーズに削ることはできたが、使い心地は大きく異なる

3種のナイフとノコギリを使い分けて作りながら、短時間で箸は完成した。

表面がだいぶボコボコしているが、これも「味」というものである

表面がだいぶボコボコしているが、これも「味」というものである

箸作りで使用したオルファワークスの製品は、どれも申し分ない切れ味を見せてくれた。傷んだら替えられるという、本格的なナイフに比べれば簡易的ともいえる刃ではあるが、実用性は高そうである。

今回使用した3アイテムのハンドルはよく手になじみ、作業中にすべることはなかった

今回使用した3アイテムのハンドルはよく手になじみ、作業中にすべることはなかった

使用後のフィールドノコギリ。何度も押し引きしたので、刃の上には横向きの線が付いた

使用後のフィールドノコギリ。何度も押し引きしたので、刃の上には横向きの線が付いた

箸作りでは出番は少なかったブッシュクラフトナイフだが、日本の伝統的ナイフである“肥後守”のような存在感があり、携行性も高い

もっとも活躍したフィールドナイフは一般的なストレートな刃に比べ、波刃の切れ味はさすがのものであった

もっとも活躍したフィールドナイフは一般的なストレートな刃に比べ、波刃の切れ味はさすがのものであった

使っていて少し気になったのは、カラーリングだ。オリーブドラブ、サンドベージュという色合いは自然の中になじむのだが、反対に言えば埋没してしまう。地面や草の中に落とすとわかりにくく、なくしやすそうなのである。今後、新しい製品を出す際には、赤やオレンジなどの派手なカラーリングのものもあるとよいかもしれない。

ナイフに施された付加機能

基本的な使い勝手と切れ味を試したあとは、それぞれの付加的な機能をチェックしておこう。

はじめに、フィールドナイフのハンドルの末端に付いている金属の爪。これは、缶などのフタをこじ開けたりする際に役立つ。

爪の末端は丸みを帯びているので、力を入れて作業しても傷つきにくい

爪の末端は丸みを帯びているので、力を入れて作業しても傷つきにくい

続いては、ブッシュクラフトナイフの刃に付けられたくぼみ。ここに熱いものをぶら下げたり、ガス缶に穴を空けるのに使える。ただのくぼみでしかないのに、思いのほか有用だ。

火にかけた飯ごうの持ち手を引っかければ、グローブなしでも運ぶことができる

火にかけた飯ごうの持ち手を引っかければ、グローブなしでも運ぶことができる

くぼみをガス缶の底部に引っかけて力を加えれば、サイドの壁に穴が空けられる。廃棄する前に簡単にガス抜きができ、とても便利だ

残るひとつ、フィールドノコギリには残念ながら付加的な機能はない。フィールドナイフのように金属の爪を付けるわけにはいかなかったのだろうか? 少しもったいない気がする。

ところで、3アイテムに共通しているのは、水洗い可能だということ。僕はこれまでオルファのナイフをアウトドアで使ったことがある。野菜を切ったり、レトルト食品を開封したりと調理で活用したのだ。だが、やはりアウトドア向けに作られたものではない。濡れたものを切るとすぐにサビてしまうのである。もちろん、すぐに水気を拭き取ればサビはしないが、あとまわしにした結果そのまま忘れてしまい結局サビさせてしまった。

そんなことを思い出しながら、フィールドノコギリ、ブッシュクラフトナイフ、フィールドナイフをあえて濡らしたまま数日間放置してみた。

箸作りで付いた汚れを流水で洗い、濡れたまま放置しておく

箸作りで付いた汚れを流水で洗い、濡れたまま放置しておく

濡れた状態で数日置いておいた3アイテムを見てみると、一部にうっすらと茶色いサビが浮き出ていた。しかし、布でぬぐい取るとサビはほぼ取れ、フィールドナイフの波形の刃のエッジ部分の一部に斑点のような跡が残っただけだった。使い込めば表面に擦れや傷みが生まれ、いくらかのサビっぽさは出るのだろうが、これだけの防錆力があれば十分に安心して使えそうだ。

アウトドア用ではないオルファのナイフであれば、布で拭いてもこれほどサビが取れることはない

刃の近くに付いている丸い跡はサビの跡。カンタンに拭き取ることができた

山行を終えて

オルファワークスの3アイテムは、どれも必要十分な機能を持っていた。これまで日常生活でオルファのナイフを使ってきた人には特になじみやすいに違いない。本体価格も数千円と安いうえに、切れ味の鋭い刃は傷んだら交換できるのだからリーズナブルである。

なお、オルファワークスに使われている刃は、従来のオルファのナイフと互換性があり、一般製品のハンドルとも組み合わせられる。アウトドアではすべりにくい専用ハンドルのほうが使いやすいのは言うまでもないが、手っ取り早く刃の機能性を味わってみるのなら、替刃だけ購入してみるのも一手だ。

日本が世界に誇るナイフメーカーが、ついに進出したアウトドア用ナイフ。その実力を一度は試してみてほしい。

高橋庄太郎

高橋庄太郎

テント泊での登山を中心に1年の半分近くは野外で過ごす、山岳/アウトドアライター。好きな山域は北アルプス。「山道具 選び方、使い方」など、著書も多数。

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