第七話:世界最強の暗殺者、護衛任務を開始する【六】
ルインは背筋を伸ばしてピンと立ち、アイリスは生徒会長専用のデスクに着く。
「「……」」
無言のまま、互いに視線を交わす中――先に口を切ったのはアイリスだ。
「――ルイン=オルフォードくん。『昨日の一件』、あなたよね?」
「昨日の一件……? いったいなんのことです?」
「とぼけないでもらえるかしら。これでも全校生徒の顔と名前は、しっかり暗記しているの。もちろん、新入生の情報も漏れなくね。それに――たった今、その声を聞いて確信したわ。昨日、私を守ってくれたのは、間違いなくルインくんよ」
アイリスの目には、強い確信の色がありありと浮かんでいる。
とてもじゃないが、言い逃れはできそうにない雰囲気だ。
「えぇ、会長のおっしゃる通りです」
「へぇ……意外にあっさりと認めるのね」
彼女は「まぁいいわ」と呟き、ルインへ鋭い目を向ける。
「それで……?」
「『それで』とは?」
「だから、昨日の一件についてよ」
アイリスは、あえて多くを語らない。
言葉数を少なくすることで、相手からより多くの情報を引き出そうとしているのだ。
「……なるほど……」
アイリスがあえて明言を避けた『昨日の一件』――ルインの優れた頭脳は、すぐにその『答え』を導き出す。
「昨日の一件、会長がパッドを付けていたことについてですが――」
「――そ、そそそ、そっちじゃない! それもとっても重要な話だけど、『昨日の一件』はそっちじゃないの!」
予想外の一撃を食らった彼女は、勢いよく立ち上がり、顔を真っ赤にしながらペシペシと机を叩いた。
「あぁ、俺のことでしたか。これは失礼しました」
「む、ぐぐぐぅ……っ。もしかして、あなた……わざとやってるんじゃないでしょうね……?」
プルプルと小刻みに震え、ジト目で睨み付けてくるアイリスに対し、ルインは「まさか」と首を横へ振る。
「と、とにかく……ぱ、ぱぱぱ……パッド……のことは後! 後回し! まずはルインくんの話をしましょう! あなたには、聞きたいことが山ほどあるんだから!」
「承知しました」
随分と感情表現の豊かな人だな。
ルインはそんなことを思いながら、言われた通りにパッドの件を後回しにした。
「こ、コホン……!」
アイリスはどっかりと椅子に座り、照れ隠しに咳払いをした後、真剣な表情で口を開く。
「単刀直入に聞かせてもらうわ。――ルインくん、あなたはいったい何者なの?」
「
世界最強の暗殺者ルイン=レグルス。
国防軍特別派遣魔法小隊所属のルイン=オルフォード
私立ロンドマルス高校の学生ルイン=オルフォード。
ルインが
「……そう。あくまでも口を割るつもりはないのね」
この展開を予想していた彼女は、机の中から一枚のプリント用紙を取り出した。
「悪いけど、あなたのことを少し調べさせてもらったわ。ルイン=オルフォード、レベル2の特質系魔法士。得意魔法は<
「何がでしょうか?」
無駄だとわかりつつ、ルインはひとまずシラを切ってみる。
「昨日ルインくんが見せた<
「……火事場の馬鹿力、では通りませんか?」
「通りません」
「残念です」
淡々と答えるルインへ、アイリスは手元のプリント用紙を見せ付けた。
「ここにある情報は全て、
禁書庫――全国民の氏名・年齢・住所・本籍地・家族構成から、最新の魔法研究・未発表の論文・国土防衛要綱、果てには国家機密プロジェクトまでが網羅された、国営の超巨大データベースだ。
「その前に、何故会長が禁書庫のアクセス権限を持っているんですか? あれを自由に閲覧できるのは政府の重役、もしくは七大貴族の当主のみのはずですが?」
「それはもちろん、『七皇』の生徒会長権限よ」
七大貴族の出資により設立された七つの魔法学院――
そこの生徒会長には、国から特別に禁書庫のアクセスキーが貸与されている。
しかし当然ながら、これには大きな制限がかけられており、禁書庫のデータを全て閲覧できるわけではない。
生徒会の円滑な運営に必要な在校生の情報・魔法研究に資する未発表の論文など、極一部のデータにのみアクセス可能となっている。
(今回のような『アクセスキーの私的利用』は、法律で固く禁じられているんだが……。まぁいろいろと『真っ黒』な俺が、指摘できる筋じゃないか……)
ルインはそんなことを考えながら、ポリポリと頬を
「それにあの凄腕の暗殺者――『暴虐の殺し屋』ことランページ=ボロス。あんな化物をたった一人で圧倒するなんて、『どこにでもいる普通の学生』にできることじゃないわ」
「よくご存知ですね」
まさかアイリスの口から『ランページ=ボロス』の名前が出ると思っていなかった彼は、ほんの少しだけ驚いた。
「これでも私は七大貴族ロンド家の娘。裏社会のことについても、人並み以上に知っているつもりよ」
少し得意気にそう語った彼女は、椅子から立ち上がり、ルインの目を真っ直ぐに見つめた。
「レベル4の操作系魔法を超高速展開する魔法力。禁書庫のデータを操作しうる謎の力。ランページ=ボロスを単独で撃破する武力。もう一度だけ聞くわ。――ルインくん、あなたはいったい何者なの……?」
アイリスはこれまでの話を整理し、再び冒頭の質問を繰り返す。
その瞳には緊張・疑心・恐怖など、強い警戒の色が浮かんでいた。
そんな彼女に対し、ルインは率直な答えを返す。
「申し訳ありませんが、その質問にはお答えできません」
「ちょっと、さすがにそれは通らな――」
「――会長。既にお気付きかと思いますが、俺は少々『訳あり』です。あまり
ルインは自身の言葉を裏付けるため、普段は隠している本当の魔力を解き放つ。
すると次の瞬間、
「な、何よ……
平和な生徒会室は、まるで地獄のような空間と化した。
室内を満たすルインの魔力は、闇のように暗く、泥のように重く、氷のように冷たい。
一般的に『魔力の性質』は、その人物がこれまで辿ってきた
つまりこのおぞましい魔力は、彼がこれまで歩んできた暗殺者の道――血と死に塗れた人生そのものだ。
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