「セグメンテーションとは何か?」と問われたら、あなたはどう答えるだろうか?
セグメンテーションは、いざ紐解こうとすると「市場細分化」「マーケットセグメンテーション」「消費者セグメンテーション」「顧客セグメンテーション」など、似て非なる専門用語が居並ぶ。また、マーケティングの初心者においては「セグメンテーション」と「ターゲティング」の違いを理解していない人も多い。
このブログの執筆者であるk_birdは、ある時期は外資系コンサルティングファームのコンサルタントとして、そしてある時期は広告代理店の戦略ディレクターとして、長年ブランディングやマーケティングの現場を歩いてきた。
これまで多くのマーケティング担当者と出会ったが「セグメンテーション」に対する一般的な認識は、下記のようなものが多い。
- セグメンテーションとは「男女」や「年代別」などの市場セグメントに消費者を分けることだ。
しかし一方でセグメンテーションの「そもそもの目的は何か?」あるいは「用途は?」に対する深い理解がないまま「なんとなくセグメンテーションを行っている」という現場も目撃する。
しかしここではっきりお伝えしておこう。
セグメンテーションは、あなたのマーケティング活動の成否を決定的に左右する極めて重要な要素だ。
もしあなたがこの解説を最後までお読みになれば「セグメンテーションの意味」や「重要性」あるいは「効果的なセグメンテーションのやり方」が理解できるようになる。そしてこれまでの「ただなんとなく消費者を性・年代別で分けていた」という浅はかなセグメンテーションを終わらせることができる。
ただ単に「消費者を性年代別に分けてみた」だけでは、それは一時の「作業」に過ぎない。しかしもしあなたが「セグメンテーションの本質」や「方法論」を理解できれば、それらは「いつ何時でも応用可能な」一生モノのスキルとなる。
もしあなたが「一生もののスキル」を手に入れたいなら、ぜひ最後までお付き合い頂きたい。
お知らせ:このブログから書籍化。発売1か月で3刷決定
ターゲティングとは|戦略的なターゲット設定の方法と3つの成功事例
ポジショニングとは|戦略的ブランドポジショニングの手法と事例
ペルソナ設定とは|ブランド戦略を成果に導くペルソナ項目と設定手法
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セグメンテーションとは?セグメンテーションの意味
セグメンテーションとは-1:セグメンテーションの背景と目的
マーケティングにおけるセグメンテーションとは「ターゲットを決めるために、市場や消費者をセグメント(一定の塊)に分類する方法」を指す。その背景にあるのは「市場の成熟化」と「消費者のニーズの多様化」だ。
市場が成熟化し生活者のニーズが多様化している現在、万人向けの商品を開発し販売することは効果的とはいえない。なぜなら全てのニーズを一度に満たそうとすればするほど商品コンセプトは「平均」に近づく。そして多くの市場が成熟化している状況下で商品コンセプトが「平均的なもの」になれば、待っているのは価格競争だからだ。
そこでまず求められてくるのが「セグメンテーション」だ。
戦略的に市場や消費者のセグメンテーションを行い、適切な市場セグメントにフォーカスしてブランディングやマーケティングの資源を集中投下できれば、より効果的にビジネス成果を得ることが可能となる。
セグメンテーションとは-2:STP戦略におけるセグメンテーションの役割
もしあなたがブランディングやマーケティングの担当者なら、どこかで「STP分析」や「STP戦略」という言葉を聞いたことがおありだろう。マーケティングの成否を決定づける重要な考え方だと言ってよい。
そのSTP戦略のスタートである「S」こそが、まさに今回解説する「セグメンテーション」だ。
あらゆる物事は「前提」→「プロセス」→「成果」という筋道を辿るが「S:セグメンテーション」は、STP戦略の「立脚点」であり「前提」となる。そしてその「立脚点」を間違えば、その後の「プロセス」も間違ったものとなり、結果、そこから得られる「成果」はおぼつかなくなることは自明の理だ。
セグメンテーションとは-3:セグメンテーションとターゲティングの違い
「S:セグメンテーション」で市場や消費者を分類したあとは、次のステップである「T」つまり「ターゲティング」を行う。ターゲティングとは「セグメンテーション」で分類した複数のセグメントのうちのどれかを「ターゲット」として設定することだ。
あなたの企業のリソース(人・モノ・金)は有限なはずだ。そうである以上、消費者とブランド双方の利益を最大化するために、どの市場セグメントにマーケティング資源を集中するかを決める必要がある。それこそが「ターゲティング」だ。
「ターゲティング」とは、いわば「買っていただくお客様を決めること」であり、もし「ターゲティング」を間違えれば、いわば「的外れ」という言葉に象徴されるように、ブランディングであれ集客であれ、その効果はおぼつかない。
そしてここまでお読みになれば、セグメンテーションとターゲティングの違いはご理解いただけたはずだ。
セグメンテーションとターゲティングの違いとは、端的に言ってしまえば「分けること(セグメンテーション)」と「選ぶこと(ターゲティング)」の違いだ。
下記の記事では、ターゲティングに関して「陥りがちな罠」や「戦略的なターゲティング手法」について解説しているので、合わせてお読みいただきたい。
セグメンテーションとは-4:セグメンテーションとポジショニングの関係
STP戦略の最後である「P」とは「ポジショニング」のことを指す。ポジショニングとは、ターゲティングで選定したターゲットから見て「そのブランドならではの独自の役割」を定義し、築き上げていく取り組みのことだ。
ポジショニングはよく「差別化」と混同されがちだが、ポジショニングの本来の目的は競合ブランドと比較して優位に立つことではない。消費者から見て「ほかに替えられない」独自の存在となり「そもそも比較されない状態」を創ることだ。
そしてポジショニング設定後、いわゆるマーケティングミックス(マーケティングの4P)やブランド体験デザインへと展開していくことになる。
ここまでお読みになれば、賢明なあなたならもうお気づきのはずだ。
「セグメンテーション」は、ターゲティングやポジショニング、あるいはマーケティングミックスを有効に機能させる上での「前提」だ。そして「前提」である以上、あなたのブランディングやマーケティングの成否を決定的に左右する、極めて重要な要素となる。
セグメンテーションとは-5:3つあるセグメンテーションの種類
巷のマーケティング本やインターネット記事にはあまり語られていないことだが「セグメンテーション」には、目的別に3つのセグメンテーション方法が存在する。「3つのセグメンテーション方法」とは、以下の通りだ。
- 消費者セグメンテーション:有望なターゲットを見極める
- マーケット(市場)セグメンテーション:有望な市場機会を発見する
- 顧客セグメンテーション:有望な既存顧客を発見する
今回の解説では、これら「3種類のセグメンテーションの活用法」を事例付きで徹底解説しよう。
マーケティングセグメンテーション-1:消費者セグメンテーションのやり方と例
3つのセグメンテーション手法のうち、1つ目に解説するのは「消費者セグメンテーション」だ。
消費者セグメンテーションは、ターゲットを設定する上で重要な前提となる。もし消費者セグメンテーションが不適切だったとしたら、狙うべきターゲットもまた不適切なものとなる。
その結果、あなたのマーケティング活動はSTP戦略の初めから躓くことになり、どんなに良い商品を開発しても、どれだけ多くの広告宣伝費をかけたとしても、マーケティングの効果はおぼつかない。
もし、現在ブランディングやマーケティング活動を行ってはいるものの、その効果が芳しくないのなら「消費者セグメンテーション」の再考が必要だ。
なぜなら不適切な消費者セグメンテーションが、その後のステップである「ターゲティング」や「ポジショニング」を狂わせてる可能性もあるからだ。
消費者セグメンテーションの目的とは
あなたは「消費者セグメンテーションの目的は何か?」と聞かれて、周囲の人達に説明できるだろうか?
k_birdのこれまでの実務経験からすると「なぜその軸で消費者セグメンテーションを行ったのか?」と尋ねると、とまどうマーケティング担当者は意外に多い。
特に、漫然と「性・年代別」で消費者セグメンテーションを行っているマーケティング担当者の場合「言われてみれば何でだろう…」としばらく考え込んでしまうこともしばしばだ。
k_bird流に「消費者セグメンテーション」を定義すると、下記の通りとなる。
自社ブランドに感情移入してもらいやすく、購入してもらいやすい消費者セグメントを発見することを目的に、消費者を分類すること。
上記の定義には「そもそも消費者セグメンテーションとは何か?」という視点に加えて「消費者セグメンテーションの目的は何か?」という2つの疑問に対する答えが含まれている。
上記の定義の通り、消費者セグメンテーションとは「消費者を分類すること」であり、その目的は「自社ブランドに感情移入してもらいやすく、購入してもらいやすい消費者セグメントを発見すること」ことだ。
あなたのブランドも含めて、多くのブランドは投資予算を無限に持っているわけではない。そして限りある予算は、できるだけ効果的かつ効率的に運用し、成果を生み出す必要がある。
そのためには、薄く広く「国民全員」を対象とするのではなく「ニーズがありそうな人達」を見極め、その人達を対象にブランディングやマーケティングの資源を集中させる必要があるのは自明の理だ。
そのために、国民全員の中から「ニーズがありそうな人達」を見つけ出し、狙いを定められるように消費者を分類するのが消費者セグメンテーションの目的だ。
ここでぜひ立ち戻って頂きたい。冒頭で紹介した「性・年代別」の消費者セグメンテーションは、果たして「ニーズがありそうな人達」を塊として「見える化」できるセグメンテーション軸だろうか?
消費者セグメンテーションは、ただ単に消費者を分類すれば良いというものではない。
どのようなセグメンテーション軸で分類すれば、ニーズの塊が「見える化」できるのか?かつ、どのような軸で分類すれば、あなたのブランドにとって意味がある分類になるのか?を念頭に置きながら、消費者セグメンテーションの軸を探すことが重要だ。
セグメンテーション変数(軸)とは?
消費者セグメンテーションには、大きくわけて4つのセグメンテーション変数(軸)が存在する。
- 地理的変数によるセグメンテーション:ジオグラフィックセグメンテーション
- 人口動態変数によるセグメンテーション:デモグラフィックセグメンテーション
- 心理的変数によるセグメンテーション:サイコグラフィックセグメンテーション
- 行動によるセグメンテーション:行動セグメンテーション
以下、一つ一つ例を交えて解説していこう。
セグメンテーション変数(軸)-1:地理的変数(ジオグラフィック変数)と例
地理的変数(ジオグラフィック変数)とは
まずは消費者を「地理」という変数で細分化するセグメンテーション軸を紹介しよう。マーケティングやブランディングの世界では「地理的変数」とか「ジオグラフィック変数」などと呼ばれる。
地理的変数とは、国、都道府県、都市、市町村などの地理的な要素で消費者をセグメンテーションする方法を指す。
この「地理的変数による消費者セグメンテーション」は、小売業界や飲食業界、不動産業界など「エリアマーケティング」が重要となる業界でよく使われるセグメンテーション軸だ。
地理的変数(ジオグラフィック変数)の例
例えばコンビニエンスストアの場合、市場を「オフィス街」と「住宅街」に分け、それぞれのセグメントによって品揃えを変えているのは有名な話だ。
また消費財マーケティングでも、k_birdが携わった「穀物由来のアルコール飲料(ウイスキーなど)」の市場導入の際には、日本の北側の寒い地域で飲まれることが多いため、日本を大きく「北側」と「南側」に分類し、ブランディング投資予算を日本の「北側」の地域に多く配分して成功させたことがある。
一方で「果物由来のアルコール飲料(ワインなど)」は日本の「南側」の暖かい地域で飲まれることが多いため、ブランディング投資を日本の南側の地域に多く配分した。
このように「地理」によるセグメンテーション軸は、その地域に住んでいる人達の特性や可処分所得、あるいは文化や気候など念頭に置いた上でセグメンテーションを行うことが肝要となる。
地理的変数(ジオグラフィック変数)のセグメンテーション軸
主な地理的変数(ジオグラフィック変数)のセグメンテーション軸は下記の通りだ。
- 地方:関東/関西・47都道府県・郵便番号など
- 都市規模:5,000人未満・50万人以上など
- 人口密度:都市部/郊外など
- 沿線:小田急線沿線など
- 最寄駅:新宿駅から半径1km以内など
- 気候:寒暖・温帯/寒帯など
セグメンテーション変数(軸)-2:人口動態変数(デモグラフィック変数)と例
人口動態変数(デモグラフィック変数)とは
人口動態変数によるセグメンテーションとは、人や家庭の属性を切り口にしたセグメンテーションのことだ。
具体的には「年齢」「世帯規模」「性別」「職業」「所得」などがセグメンテーション軸となる。マーケティングやブランディングの世界では「デモグラフィック変数」と呼ばれる。
冒頭で紹介した「性・年代別」も「デモグラフィック変数による消費者セグメンテーション」の一つであり、現在、日本企業で最も使われているセグメンテーション軸だ。
しかしこのセグメンテーション軸は安易に採用されやすい。
冒頭でも説明した通り、消費者セグメンテーションの目的は「ニーズの塊の見える化」であって「分けることそのもの」ではない。
もしあなたのブランドが「デモグラフィック変数による消費者セグメンテーション」を採用しているなら、ぜひ「このセグメンテーション軸で、ニーズの塊は見える化できているのか?」を再考してみて欲しい。
人口動態変数(デモグラフィック変数)のセグメンテーション軸
主な人口動態変数(デモグラフィック変数)のセグメンテーション軸は下記の通りだ。
- 年齢:10代・20代・30代・40代・50代・60代
- 性別:男性・女性
- 未既婚:既婚・未婚・離死別
- 子供の有無:子供有・子供無など
- 職業:ブルーカラー/ホワイトカラー・学生/会社員/専業主婦/自由業など
- 教育:中卒・高卒・専門学校卒・大卒・大学院卒
- 年収:300万円未満・1,000万円以上など
- 可処分所得:月5万円以上など
- ライフステージ:独身・DINKS・子供有・リタイアなど
セグメンテーション変数(軸)-3:心理的変数(サイコグラフィック変数)と例
心理的変数(サイコグラフィック変数)とは
続いては「心理的変数によるセグメンテーション」だ。
心理変数による消費者セグメンテーションは、生活者の心理や価値観、ライフスタイルなどを軸にしたセグメンテーションだ。マーケティングやブランディングの世界では「サイコグラフィック変数」と呼ばれる。
心理的変数(サイコグラフィック変数)の例
例えば日本国内の女性を「スキンケア商品に対する価値観」というセグメンテーション軸で分類すると、以下の通りとなる。
- 高級志向派…「高級なもの=良いもの」という価値観を持つセグメント
- 流行志向派…「今流行っているもの=良いもの」という価値観を持つセグメント
- 機能志向派…「美容メカニズムや美容成分が明確なもの=良いもの」という価値観を持つセグメント
- 自然志向派…「オーガニックなもの=良いもの」という価値観を持つセグメント
- 無関心派…スキンケアの手入れよりメークアップで「隠す」ことを重視するセグメント
この「心理的変数によるセグメンテーション」は「地理的変数」や「人口動態変数」と異なり、一般に公表されている人口統計資料に基づけないことから、各セグメントの市場規模(人口)の推計が難しい。
そのため、市場調査に基づく「クラスター分析」という方法でセグメンテーションが行われることが多い。
近年、多くの市場で市場が成熟化が進んでいる。市場の成熟化が進むと、人々の好みや価値観は細分化&多様化していくことが多い。よって「ニーズの塊を見える化する」意味で、この「心理的変数による消費者セグメンテーション」の重要性は日に日に増してきている。
心理的変数(サイコグラフィック変数)のセグメンテーション軸
主な心理的変数(サイコグラフィック変数)のセグメンテーション軸は下記の通りだ。
- ライフスタイル:アウトドア派/インドア派・仕事重視/趣味重視など
- パーソナリティ:外向的/内向的・革新的/保守的など
セグメンテーション変数(軸)-4:行動変数の例
行動変数とは
最後に「行動変数によるセグメンテーション」だ。
行動変数によるセグメンテーションとは、商品の利用用途や利用頻度などを切り口にしたセグメンテーションだ。マーケティングやブランディングの世界では「行動変数」と呼ばれる。
行動変数の例
この行動変数で最も多く使われるのが「ノンユーザー」「ライトユーザー」「ヘビーユーザー」など、利用頻度によるセグメンテーション軸だ。
このセグメンテーション軸は、主にCRM戦略やグループインタビューの際に用いられることが多い。ほとんどの企業は、顧客を「ノンユーザーからライトユーザーへ」「ライトユーザーからヘビーユーザーへ」育てたいと思っているはずだ。
そのような時には、この「行動変数」を用いて顧客を「ライトユーザー」と「ヘビーユーザー」に分けた上で「自社ブランドのライトユーザーとヘビーユーザーの違いは何か?」という視点で顧客を眺めてみるのだ。
この違いをグループインタビューなどで明らかにすることで、例えば「ヘビーユーザーには認識されているものの、ライトユーザーには認識されていなかった利用用途」が明らかになれば、その利用用途を「ライトユーザー」に提案することで「ライトユーザー」の利用頻度を上げ、ヘビーユーザーに育て上げる、といったことが可能になる。
行動変数のセグメンテーション軸
主な行動変数のセグメンテーション軸は下記の通りだ。
- 利用頻度:ライト/ミドル/ヘビー/ノンなど
- 選択基準:品質重視/デザイン重視/イメージ重視/価格重視など
- 利用用途
マーケティングセグメンテーション-2:マーケットセグメンテーションのやり方と例
冒頭で、セグメンテーションには大きくわけて3つあることを解説した。
- 消費者セグメンテーション:有望なターゲットを見極める
- マーケット(市場)セグメンテーション:有望な市場機会を発見する
- 顧客セグメンテーション:有望な既存顧客を発見する
2番目に解説するのが「マーケットセグメンテーション」だ。k_bird流に「マーケットセグメンテーション」を定義すると、下記の通りとなる。
「隠れた市場機会を発見する」ことを目的に「市場」を「細分化」して捉えること。
「マーケットセグメンテーション」は、主に商品開発の局面やリブランディングの局面で用いられることが多い。以下、解説しよう。
マーケットセグメンテーションの4つのセグメンテーション軸
「マーケットセグメンテーション」は、大きく4つの方法にわけることができる。その4つの方法とは、以下の通りだ。
- 市場を細分化する
- プロセスに割り込む
- 市場を拡張する
- 市場をリフレーミングする
マーケットセグメンテーションのやり方-1:市場細分化の具体例
まずは最もオーソドックスな「市場細分化」について解説しよう。ここからは分かりやすさを重視し「コーヒー市場」を事例にとって解説する。
市場細分化の具体例-1:コーヒー市場
まずは下記の図をご覧いただきたい。
「コーヒー市場」は大きく2つに市場細分化できる。「家庭用」と「アウトドア用」だ。
家庭用市場において代表的なブランドは、40代以上にとっては「ダバダー♪」のTVCMでもおなじみの「ネスカフェ・エクセラ」や「ネスカフェ・ゴールドブレンド」だろう。
一方で「アウトドア用市場」では、スターバックスやドトールコーヒーなどが思い浮かぶ。こちらも説明の必要はないだろう。
市場細分化の具体例-2:家庭用コーヒー市場の市場細分化(AGFの例)
まずは家庭用市場を細分化していこう。家庭用コーヒー市場のガリバーは「ネスカフェ・エクセラ」や「ネスカフェ・ゴールドブレンド」を擁する「ネスレ」だ。
しかし「家庭用市場」を市場細分化していくことで市場機会を見出し、ネスレに対して果敢に切り込んでいったブランドがある。AGF(味の素ゼネラルフーズ)だ。
AGFは「家庭用市場」を「自分達用市場vsギフト用市場」に市場細分化し、ギフト用市場に市場機会を見出した。
そして徹底的にギフト市場にマーケティング資源を集中させ、大きな成功を築く。あなたも「コーヒーギフトはAGF~♪」というサウンドをどこかで見聞きしたことがあるはずだ。
結果、現在ではコーヒーギフト市場のガリバーはネスレではなくAGFだ。AGFのコーヒーギフト市場の攻略は「市場細分化の教科書」といってもいいくらいの好事例と言えるだろう。
市場細分化の具体例-3:家庭用&自分用コーヒー市場の市場細分化①(AGFの例)
しかし、AGFの市場細分化は留まらない。続いて下図をご覧いただきたい。
お中元やお歳暮の低迷を受けて、コーヒーギフト市場は衰退しつつある。そこでAGFは視点を変えた市場細分化を実施した。その際に見出した市場機会が「家庭用アイスコーヒー市場」だ。
あなたも原田知世さんのTVCMとともに流れる「ボトルコーヒー~♪ブレンディ♪」というサウンドが耳残りしていることだろう。ボトルコーヒー市場でもまた、AGFはトップブランドとなっている。
市場細分化の具体例-4:家庭用&自分用コーヒー市場の市場細分化②(AGFの例)
更にAGFは市場細分化の手を緩めない。AGFが次に実施した細分化は「ファミリー世帯vs少人数世帯」という市場細分化だ。
AGFは「少人数世帯向け」に市場機会を見出した。そして打ち出したブランドが「ブレンディ・スティック」だ。
こちらも「スティック!スティック!スティック!ブレンディ・スティック♪」というサウンドを、どこかで耳にしたことはないだろうか?
AGFは「家庭用市場」を「ファミリー用市場+少人数世帯用市場」に細分化し、少人数世帯に市場機会を見出した。そして少人数世帯向けに小分け包装で飲める「スティックコーヒー」を提案、こちらも高いシェアを誇っている。
コーヒー市場といえば、ついイノベーティブなマーケティングを展開しているネスレに目を奪われがちだが、AGFもまた、市場細分化を巧みに利用して独自のポジションを築き上げた、優れたブランドだと言えるだろう。
市場細分化の具体例-5:アウトドア用コーヒー市場の市場細分化(ジョージア&ボスの例)
さらに、次は「アウトドア用コーヒー市場」にも目を向けてみよう。以下の図をご覧いただきたい。
「アウトドア用コーヒー市場」は、大きく分けて「プライベート用市場」と「仕事用市場」が存在する。上図を見れば、プライベート用市場はカフェチェーン、仕事用市場は缶コーヒーブランドで住み分けていることがわかるはずだ。
市場細分化の具体例-6:仕事用コーヒー市場の市場細分化(マウントレーニア・カフェラッテの例)
しかし仕事用コーヒー市場を「作業場用」と「オフィス用」に市場細分化して成功を納めたブランドがある。それが森永乳業の「マウントレーニア・カフェラッテ」だ。
「マウントレーニア・カフェラッテ」のブランドコンセプトは「手軽におしゃれに、本格カフェラッテ」だ。あなたもOLがランチ時に手にしている姿をご覧になったことがあるのではないだろうか?
市場細分化の具体例-7:オフィス用コーヒー市場の市場細分化①(ネスカフェ・アンバサダーの例)
ここから更に、オフィス用コーヒー市場を市場細分化して登場したのが、あなたもご存じの「ネスカフェ・アンバサダー」だ。
ネスレが行ったのは「オフィス用コーヒー市場」の更なる市場細分化だ。
ネスカフェ・アンバサダーはオフィス用市場を「自分用コーヒー市場」と「同僚用コーヒー市場」に細分化し「同僚用市場」に対してサブスクリプションモデルで攻略を図った。
結果「ネスカフェ・アンバサダー」は多くのオフィスで支持を得て収益を伸ばしている。
市場細分化の具体例-8:オフィス用コーヒー市場の市場細分化②(クラフト・ボスの例)
しかし、アウトドア用コーヒー市場の市場細分化はまだ終わりを見せない。
今度はオフィス用市場を「女性社員用」と「男性社員用」に市場細分化し「男性社員用」に向けて登場したブランドがある。最近サントリーから発売された「クラフト・ボス」だ。
クラフトボスが掲げているのは「WORK&PEACE」というコンセプトだ。昨今の「働き方改革」の風潮を味方につけながら「デスクワーク時にゆっくり、時間をかけて飲んでも味が落ちない」ことを特徴としている。
あまりの人気のために、一時期出荷停止騒ぎにもなったが、その人気はうまく「市場細分化」が機能した証だ。
市場細分化に有効な「セグメンテーション軸」とは?
ここまでお読みになれば、いかに市場細分化による「市場機会の発見」が、ブランディングやマーケティングの成果を左右するか、もうご理解いただけたはずだ。
市場細分化には、大きく分けて以下のようなセグメンテーション軸が存在する。
- シチュエーション
- 時間・タイミング
- 人
- 人の気持ちや価値観
- 人と人との間柄
もし、現在あなたのブランドが低迷しているのなら、ぜひ様々なセグメンテーション軸で市場細分化を行ってみて欲しい。思わぬ市場機会が発見できるはずだ。
マーケットセグメンテーションのやり方-2:プロセス細分化の具体例
続いて2つ目の方法論である「プロセス細分化」というマーケットセグメンテーションの例を紹介しよう。
あなたはJTBD(Jobs-To-Be-Done)という言葉をご存じだろうか?日本語に意訳すれば「生活者が済ませたがっている事柄」のことを指す。
人はモノやサービスを購入するとき、モノやサービスそのものが欲しいわけではない。そこには「済ませたい(あるいは実現したい)何か」が存在し「それをやり遂げるために必要だから」モノやサービスを欲しがる。
そして、何か物事を済ませたり、やり遂げたりするためには必ず「プロセス」が存在する。その「プロセス」に着目して行うマーケットセグメンテーションが「プロセスに割り込む」だ。
プロセス細分化-1:ブースター(導入美容液)の例
「プロセスに割り込む」の秀逸な例を紹介しよう。まずは以下の図をご覧いただきたい。
男性諸氏からすれば馴染みがないかもしれないが、女性が日々行うスキンケアは一般に「化粧を落とす」「洗顔する」「保湿する」「(潤いが逃げないように)肌にフタをする」「美容成分を取り入れる」というプロセスを辿る。そしてそれぞれのステップには、対応した商品カテゴリーが存在している。
しかしこのプロセスに「割り込んだ」のが、近年成長著しい「ブースター(導入美容液)」というカテゴリーだ。
女性のスキンケアステップにおけるブースター(導入美容液)の役割は「洗顔後、化粧水をつける前に、肌の吸水性を高めておく」ことだ。
これまで、多くの女性は洗顔後、保湿のために化粧水をつけることが一般的だった。そのステップの間に「肌の吸水性を高める」というステップで「割り込んだ」のがブースター(導入美容液)だ。
k_birdの記憶が正しければ、このブースター(導入美容液)を初めて発売したのはランコムのジェニフィックだ。また、男性諸氏もご存じであろう、松田聖子や松たか子がTVCMを行っていたフジフィルムのアスタリフト・ジェリーアクアリスタ(赤いジェルのもの)もまた、ブースター(導入美容液)だ。
洗顔と化粧水の間に割り込んだブースター(導入美容液)は、今や多くの女性の支持を得て200億円を越える市場に成長している。
プロセス細分化-2:アウトバス・トリートメントの例
さらに、ヘアケア市場でも「プロセス」に着目したマーケットセグメンテーションで成長している市場がある。「アウトバス・トリートメント市場」だ。
アウトバス・トリートメントは、一般には「洗い流さないトリートメント」とも言われる。
こちらも男性諸氏には馴染みが薄いかもしれないが、女性のヘアケアには「髪の汚れを落とす:シャンプー」「髪に潤いを出す:トリートメント」というステップがある。ここまでなら男性諸氏にも馴染み深いかもしれないが、最近現れたステップが「髪にツヤを出す:アウトバス・トリートメント」というステップだ。
アウトバス・トリートメントの特徴は「入浴の後に(なのでアウトバスと呼ばれる)」「髪にツヤを与える」というステップが加わったことだ。いわば、これまでのヘアケアステップの後に「割り込んだ」とも言える。
その結果、アウトバス・トリートメント市場もまた、多くの女性から支持され200億円を越える市場に成長している。
マーケットセグメンテーションのやり方-3:市場拡張の例
続いてマーケットセグメンテーションの3つ目の方法論である「市場を拡張する」について事例解説しよう。
前述の「市場細分化」の解説をご覧になればわかる通り、市場細分化において重要なファクターは「市場細分化をする際の、細分化の切り口」だ。
しかし「細分化の切り口」を探すにあたって拠り所となるのは、そもそもの「市場の定義」だ。
論理学の考え方の一つに「因果推論」という考え方がある。
因果推論といえば「AだからB」「BだからC」「CだからE」…と因果関係を結びながら結論を導き出す考え方だ。
しかしどれだけ「AだからB」「BだからC」「CだからE」というロジックが正確だったとしても、そもそもの前提である「A」が間違っていれば、その後の因果関係や結論も間違ったものとなる。
これを市場細分化に置き換えれば「そもそもの前提」とは「市場の定義」のことを指す。
市場の定義が変われば、当然「市場細分化の切り口」も変わる。そして「市場細分化の切り口」が変われば、狙うべき「細分化された市場」の定義も変わる。
「市場の定義」はあらゆるブセグメンテーションの前提となる。そのため何度も吟味し、思考を巡らせながら決めていくべき最も重要な要素となる。
そして「市場を拡張する」とは、市場を細分化する前に「市場の定義」そのものを変え「市場の定義を拡張してしまおう」という考え方だ。
市場拡張-1:JINSの例
例えば、眼鏡チェーンの例で解説しよう。以下の図をご覧いただきたい。
普通に考えれば、眼鏡チェーンにおける市場の定義とは「視力が悪い人達」となる。事実、多くの眼鏡チェーンでは市場を「視力が悪い人達全体」と定義し、各社がしのぎを削っている。
しかしそれぞれの眼鏡チェーンが同じ市場で戦っていたら消耗戦になることは想像に難くない。そのような中「視力が正常な人達」に市場を拡張し、フォーカスしたのがJINSだ。
「市場=視力が正常な人達」と定義した結果、JINSが発売にこぎ着けたのがPCのブルーライトをカットするJINS PCだ。
JINS PCは「視力が正常な人達用の眼鏡」であることから「視力が悪い人達」をターゲットとしている眼鏡チェーンとは競合にならない。その結果、JINSはほぼ独占的にブルーオーシャンを開拓していき、眼鏡市場を席巻したことはあなたもご存じの通りだ。
もしJINSが市場の定義を「視力が悪い人達」と定義したままであれば、JINSPCは誕生すらしなかったはずだ。
市場拡張-2:ハーゲンダッツの例
また、アイスクリームブランドであるハーゲンダッツも「市場を拡張する」戦略で成功したブランドだ。
ハーゲンダッツが市販のアイスクリームを発売したのは1990年に遡る。日本でアイスクリームの輸入が自由化された年だ。
当時「アイスクリーム」といえば「子供のおやつ」という認識が主流だった中、市場の定義を「大人」に拡張したのがハーゲンダッツだ。
「市場=大人」と定義すれば、ロッテやグリコ、森永乳業など「子供向け」に提供されていたアイスクリームブランドは競合でなくなる。
その結果「大人用市場」はほぼハーゲンダッツが独占し、独自のポジションを確立していることは、あなたもご存じの通りだ。
市場拡張-3:キリンフリーの例
さらに「キリンフリー」もまた「市場を拡張する」の事例に当たる。
こちらも、普通に考えればビールブランドにおける市場の定義は「アルコールが飲める人達」となる。しかしキリンはあえて市場の定義を「アルコールを飲めない(あるいは飲めないシチュエーションにいる)人達」に拡張して成功した例だ。
キリンフリーが発売されたのは2009年の4月だ。
アルコール度数を「0.00%」として「アルコールを飲めない人」に市場を拡張した上で、海ほたるパーキングエリアでイベントを行った。その結果、ブランドの認知度が上がりドライバーや妊婦の支持を得たと言われる。
「市場=ビールが飲めない人」と定義すれば、それまで存在したあらゆるビールブランドは競合でなくなる。結果、キリンフリーは2009年当時、350万ケース強の販売数量を記録している。
マーケットセグメンテーションのやり方-4:市場のリフレーミング
マーケットセグメンテーションの方法の最後は「市場をリフレーミングする」だ。
「市場を拡張する」のくだりでも解説した通り、マーケットセグメンテーションにおいて最も重要なのは「市場の定義」だ。そして「市場を定義し直す」方法論の一つに「市場のリフレーミング」がある。
市場のリフレーミング-1:クイックルワイパーの例
「市場のリフレーミング」で大成功を納めたブランドの一つが、花王のクイックルワイパーだ。まずは以下の図をご覧いただこう。
花王のクイックルワイパーが発売される前は、家庭の主婦の掃除は「掃除機でごみを取る」「ぞうきんで床を磨く」の2つに分かれていた。
しかし花王は主婦の行動をリフレーミングし「掃除機とぞうきんの役割を一つにまとめて一度にできる商品」としてクイックルワイパーを発売した。その結果、クイックルワイパーは大ヒットし、今ではどのご家庭でも必ずある定番のブランドとなっている。
もし花王が「掃除機はごみをとるもの」「ぞうきんは床を磨くもの」と「別物」として捉えていれば、クイックルワイパーのような発想は出てこなかったことだろう。
市場のリフレーミング-2:ファブリーズの例
さらに、P&Gの「ファブリーズ」もまた、クイックルワイパーと同様に「市場のリフレーミング」を通して大ヒットしたブランドだ。
P&Gが行ったのは「除菌スプレー市場」と「消臭剤市場」を一つにまとめた「市場のリフレーミング」だ。こういった「市場のリフレーミング」が功を奏すると、例えばファブリーズの場合「除菌スプレー市場」と「消臭剤市場」の両方から顧客が流れ込んでくるため、大ヒットにつながりやすい。
さらに「市場と市場の間」に「これまでなかった」市場が出現することになるため、当然競合となるブランドが存在しない。結果、必然的に自社ブランドがトップシェアとなる。
市場のリフレーミング-3:ドクターシーラボの例
更に、3つの市場を「リフレーミング」することで大ヒットした事例も簡単に紹介しよう。
ドクターシーラボの「アクアコラーゲンジェル」は「化粧水」「乳液」「美容液」の3つの用途が一つになったスキンケアブランドだ。スキンケア業界の中では「オールインワンジェル」と呼ばれる。
こちらは「化粧水市場」「乳液市場」「美容液市場」の3つの市場を一つにまとめる「市場のリフレーミング」を行い、大ヒットした事例だ。
マーケティングセグメンテーション-3:顧客セグメンテーションのやり方と例
最後となる3番目に解説するセグメンテーション手法が「顧客セグメンテーション」だ。k_bird流に「顧客セグメンテーション」を定義すると、下記の通りとなる。
LTV(顧客生涯価値)の向上を目的に、将来有望な既存顧客を発見するためのセグメンテーション手法
企業の年間売上は「(新規顧客数+既存顧客数)×平均客単価×年間平均購入頻度」で決まる。これらのうち「既存顧客」を対象に「平均客単価」や「年間平均購入頻度」の向上が見込める有望な顧客セグメントを発見するための手法が顧客セグメンテーションだ。
顧客セグメンテーションを行うにあたって、最も一般に用いられている手法が「RFM」というフレームワークだ。一般に「RFM分析」と呼ばれる。
よって、ここでは「RFM分析」について解説しよう。
顧客セグメンテーションのやり方と例:RFM分析のやり方
RFMとは何か?
RFMとは既存顧客を
- Recency (直近のいつ頃購入したか?)
- Frequency (どのぐらいの頻度で購入したか?)
- Monetary (どのぐらいの金額を購入したか?)
の3つの顧客セグメント軸を通して、優良な顧客を発見するセグメンテーション手法を指す。
ここまでの解説なら「よくある」解説だが、重要なのはなぜ既存顧客を「Recency 「Frequency 」「Monetary 」という顧客セグメント軸でわけるのか?に対する深い理解だ。
RFMの本質を理解すれば「RFM」というセグメンテーション手法を「使ってもよい局面」と「使ってはいけない局面」がわかるようになる。
顧客セグメント軸-1:Recency(リーセンシー)
リーセンシーとは「ある既存顧客が最後に商品を購入した日」をもとに「優良顧客かどうか?」を判断する顧客セグメント軸を指す。
その背景には「最近購入した顧客のほうが、何年も前に購入した顧客より良い顧客である」という考え方に基づいている。つまり、顧客リストの最後の購買日だけを拾い出し新しい順番に並べ替えれば、一番上にくる顧客が良い顧客である、という考え方だ。
購入してから時間が経過していないということは、企業や商品についての記憶がしっかりと残っているということが想定される。そのため、企業の販促活動に対して高い効果が期待できると考えるのが「リーセンシー」というセグメント軸の考え方だ。
顧客セグメント軸-2:Frequency(フリークエンシー)
フリクエンシーとは「顧客がどの程度頻繁に購入してくれたか?」をもとに「優良顧客かどうか?」を判断する顧客セグメント軸だ。
その背景には「購入頻度が高い顧客のほうが、購入頻度が低い顧客より良い顧客である」という考え方に基づいている。いわゆる「常連客」の発想だ。
顧客の購買履歴から過去に何回購買したかを拾い出し、その回数が多い順番に並べれば、フリクエンシーの高い優良顧客を発見できる。
しかし、単に「購入回数」だけを機械的に見てしまうと、例えば「5年前から買っている顧客の購入回数(=過去5年分の購入回数)」と「この1年以内に顧客になってくれた顧客の購入回数(=過去1年分の購入回数)」では、当然のことながら「5年前から買っている顧客」のほうが、期間が長い分「購入回数」は多くなる。
よって、フリクエンシーをもとに顧客をセグメントする際には、必ず期間を区切った上で「ある一定期間で購入回数が多い顧客」を抽出するようにしよう。
顧客セグメント軸-3:Monetary(マネタリー)
マネタリーとは「顧客がどの程度の金額を支払ってくれたか?」をもとに「優良顧客かどうか?」を判断する顧客セグメント軸を指す。
その背景には「たくさんお金を支払ってくれた顧客のほうが、そうでない顧客より購買力が高い優良顧客である」という考え方に基づいている。
顧客の購買履歴から顧客ごとの購買履歴の累計を計算し、金額の大きい順番に並べれば、マネタリーの高い優良顧客を発見できる。
しかし「マネタリー」も「フリクエンシー」と同様に期間に左右されるため、必ず期間を区切った上で「ある一定期間で購買金額が高い顧客」を抽出するようにしよう。
RFMによる顧客セグメントの解釈例
「リーセンシー」「フリクエンシー」「マネタリー」それぞれの意味合いが理解できたら、続いては各セグメント軸で導き出された顧客セグメントの解釈を説明しよう。
一般的にRFMによる顧客セグメンテーションでは、顧客セグメントを以下にように解釈することが多い。
- リーセンシー(直近購入日)のランクが低い顧客は、たとえ「フリクエンシー(購入頻度)」や「マネタリー(累計購入額)」のランクが高くても、競合他社に奪われている可能性が高い。
- リーセンシー(直近購入日)のランクが同じなら、フリクエンシー(購入頻度)が高いほど常連顧客である。
- リーセンシー(直近購入日)のランクが同じなら、フリクエンシー(購入頻度)やマネタリー(累計購入額)のランクが高いほど購買力が高い顧客である。
- リーセンシー(直近購入日)やフリクエンシー(購入頻度)が高くてもマネタリー(累計購入額)のランクが低い顧客は高額商品を買わない
- フリクエンシー(購入頻度)のランクが下がっている顧客は、競合他社に奪われている可能性が高い
RFMによる顧客セグメントのデメリット
しかし鋭いあなたならお気づきかもしれないが、RFMによる顧客セグメンテーションにはデメリットも存在する。そのデメリットとは以下の2点だ。
- RFMは購買履歴がベースとなっているため「どんな嗜好を持った人が」「なぜ」購入したのかが類推しにくい。
- RFMは「現時点の優良顧客」を抽出できる反面「将来の優良顧客を育てる」という視点がない
マーケティングを成果につなげるために最も重要な要素が「ターゲットニーズの把握」であることは、あなたも異論がないはずだ。
しかしRFMによる顧客セグメンテーションは「ターゲットの嗜好」や「なぜ購入してくれたのか?」といった「ニーズの視点」が入らない。そのため、顧客心理を深く洞察しないまま(できないまま)「RFMのスコアが高いセグメントに」「一律な施策を」「当てる」という施策になりやすい。
そして、嗜好性やニーズが異なるにもかかわらず「一律な」施策を展開してしまえば、顧客側からすれば「自分の嗜好に合わない」「自分のニーズに合わない」施策が当てられ続けることになり、いつか顧客の気持ちは離れていく。
これがいわゆる「顧客リストの疲弊」と呼ばれる現象だ。
また、RFMによる顧客セグメンテーションは「高いランクの顧客」と「低いランクの顧客」の分類には使えるが「低いランクの顧客の今後のポテンシャル」は見えない。
つまりRFMによるセグメンテーションは「短期的に売上が見込める顧客は誰か?」というターゲティングには使えても「将来的に優良顧客になってくれそうな人は誰か?」というターゲティングには使えず、その結果、CRM戦略は刹那的なものになりがちだ。
鋭いあなたならお気づきの通り、顧客セグメンテーションを行う際に「RFM」だけに頼ってしまうと、その後の施策は「顧客心理を無視した」「短期的な」施策一辺倒に陥りやすい。
よって、長期的な顧客育成を考える際には、RFMとは別に「顧客心理×顧客育成ステップ」と念頭においてセグメンテーション軸を採用しよう。
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ここで、僭越ながら拙著を紹介させていただこう。優れたマーケティングを実践するには、
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など「見えているもの」を起点に「見えないものを見抜く力」が求められる。
しかし、現在は「VUCAの時代」といわれるように、一寸先の未来すら読みにくい時代だ。
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巷には「STP」や「4P」など様々なフレームワーク存在するが、重要なのは「フレームワークの理解」だけでなく「フレームワークの行間にある洞察」だ。
どんなに優れたフレームワークも「どのような局面で」「どのような手順で」「どのような頭の使い方をすればいいか?」がわからなければ、マーケティングの実務に落とせず、役に立たない。
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セグメンテーションやSTP戦略を学ぶ:おすすめマーケティング本5冊
締めくくりに、マーケティング・ブランディング担当者へのお薦めビジネス本を紹介しよう。選定した基準は下記の通りだ。以下のどれかに当てはまるものをピックアップした。
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しかし本書はマーケティング戦略について、キーワードを数多く網羅したリファレンス的な書籍となっている。そのため、マーケテイングを勉強したい初心者にとっては、実践の中でわからない用語が出てきた際に、辞書的に引ける点が魅力だ。
もしあなたがマーケティング担当者として着任した際には、必読の参考書だ。
マーケティング思考力トレーニング
本書は「マーケティングの学び方」に新たな選択肢を提示している書籍だ。
これまで、マーケティングスキルと言えば「マーケティング理論を座学で学ぶ」「マーケティング著名人の書籍を読む」「実務の中でOJTで学ぶ」のいずれかの選択肢しかなかったが、本書は「手を動かしながらトレースする」という新たな学び方を提案してくれている。
マーケティングで学ぶべきことは多岐に渡るが、こと「マーケティング”戦略”」となると目に見えない概念的な思考を必要とするため、これまでは「学ぶ側」も「教える側」も言語化ができず、苦労が伴うことが多かった。
しかし、本書が提示するマーケティングトレースであれば「様々な企業事例をトレースする」「手を動かしながら可視化する」などの特徴があることから、戦略を可視化するプロセス自体を共有・共創できるアクティブラーニング的な効果が期待できそうだ。
特に、現在マーケティングの部分的な役割を担っている若手マーケッターが、より大局的な戦略思考を身につける際に、本書は助けとなるはずだ。
マーケティングプロフェッショナルの視点 明日から仕事がうまくいく24のヒント
様々な側面で語られるマーケティングだが、あなたはその本質をどれだけ理解できているだろうか?
本書はP&G、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂などを渡り歩いてきたマーケティングのプロが、マーケティングで求められる「ものの見方」や「考え方」を提供してくれる書籍だ。
優れたマーケティングを実践するには、単に「知識」だけでなく「運用能力」が求められる。その点、本書は25年以上に渡って筆者が積み重ねてきた「マーケティングの頭の使い方」が描かれているのが秀逸だ。
また、本書ではマーケティング戦略のみならず、ブランドマネジメントやマーケティング組織の構築、CMOの在り方など、マーケティングの実務を実践する上では避けて通れないテーマに関しても、筆者の経験からくる「ものの見方」を提示してくれている。
もし、あなたがこれからマーケティングのキャリアを積んでいきたいなら、マーケティングならではの「頭の使い方」を学ぶ上で、避けて通れない書籍だ。
たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング
本書は、P&G、ロート製薬、ロクシタン、スマートニュースで一貫してマーケティング畑を歩いてきた「マーケティングの実務家」が著した書籍だ。
いわゆる「事業会社側」で活躍する現役のマーケッターが、これだけのノウハウとフレームワークを惜しみなく紹介するのは、かなり珍しいことだと言える。
本書の特筆すべき点は、描かれている内容がマーケティングの実務経験に裏付けられているため、極めてリアリティがあり、かつ実践的である点だ。
かと言って、単なる「How To本」ではなく、本書の根底にはマーケティングそのものを成り立たせている本質や哲学が流れている。
もし、本ブログの筆者であるk_birdが「マーケティングとは何か?」と聞かれたら、自信をもって「この本を読め!」と挙げられる書籍であり、素直に「もっと多くのマーケッターに売れて(読んで)欲しい」と思える書籍でもある。
本書は「考え方」の面でも「実務」の面でも「マーケティングの真ん中」を行く書籍だ。
USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門
本書の執筆者である森岡 毅氏は、P&Gジャパンでヴィダル・サスーンのブランドマネージャーを勤めた後、P&G世界本社でパンテーンのブランドマネージャーを歴任した凄腕のマーケッターだ。
また、森岡氏は経営難に陥っていたUSJのCMOとして乗り込み、劇的にV字回復差せたことで知られる。そんな森岡氏が、USJのV字回復の軌跡を「マーケティング理論に当てはめて」執筆したのが本書だ。
アマゾンのレビューを見れば納得頂けると思うが、本書は単なるUSJのマーケティング事例本ではない。STPやマーケティングミックスなどのフレームワークを「そもそも論」から解説した上で、更にそれらを「実践に活かす方法」にまで落とし込んで解説しているマーケティングの名著であり、人気のベストセラー書籍だ。
「成功を引き寄せるマーケティング入門」というサブタイトルにもある通り実務上の示唆も多く、あらゆるマーケティング担当者が読むべき必読の入門書と言えるだろう。
その他の解説記事とおすすめ書籍
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【まえがきを公開】著書「問題解決力を高める『推論』の技術」について
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STP戦略とは|マーケティングに必須のSTP戦略関連記事|一覧
ブランディング・マーケティング関連のおすすめ書籍紹介
ビジネススキル・マネジメント関連のおすすめ書籍紹介
終わりに
今後も、折に触れて「ロジカルで、かつ、直感的にわかるブランディングの解説」を続けていくつもりだ。
しかし多忙につき、このブログは不定期の更新となる。
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