トヨタ自動車のハイブリッド車や米テスラの電気自動車などに、電池材料を供給する。非鉄事業に経営資源を集中し、希少資源の安定調達で顧客の信頼を獲得した。構造改革のきっかけは、約20年前に子会社JCOが起こした臨界事故だった。

(日経ビジネス2018年4月16日号より転載)

住友金属鉱山はフィリピン南部ミンダナオ島のタガニートに、低品位の鉱石からニッケルを回収するプラントを建設した(写真=住友金属鉱山提供)

 住友グループの源流企業で400年以上の歴史がある住友金属鉱山は、激動の20年を送ってきた。国内では斜陽と呼ばれた産業に身を置き、存続を危ぶまれる危機的な状態から、先端産業を支える黒子へと変身した。

 現在の住友金属鉱山は、EV(電気自動車)やHV(ハイブリッド車)に搭載される電池の中核材料を供給している。主要顧客はトヨタ自動車やパナソニックなどだ。株式市場からの評価は高く、住友金属鉱山の株価は2017年3月末から18年3月末までに約40%上昇。非鉄大手で売上高トップの三菱マテリアルの株価が同期間で5%下落しているのと比べると、上昇が際立つ。連結売上高は三菱マテリアルの約3分の2ながら、時価総額では同3倍と突き放す。銅の市況悪化などで住友金属鉱山が権益を持つ銅鉱山で大きな減損損失を計上し、16年3月期、17年3月期と2期連続で最終赤字に沈んだ。それでも、「EV時代のど真ん中の企業」(SMBC日興証券の山口敦シニアアナリスト)と評価する声は少なくない。

事故を契機に集中と選択を断行した
●住友金属鉱山の構造改革
市況の影響は避けられず
●住友金属鉱山の業績
非鉄業界で市場から高い評価
●主な非鉄企業の時価総額(4月2日時点)

 一方、住友金属鉱山が直面した危機的な事態とは何か。それは1999年に茨城県東海村で子会社のジェー・シー・オー(JCO)が起こした、原子力事故だ。同社は原子力発電所で使われる核燃料の製造に携わっていた。その製造過程で、核分裂が止まらなくなる臨界状態が発生。被曝(ひばく)したJCO社員2人が死亡しただけではなく、地域社会に影響をもたらし、社会的な信用を大きく失った。

 実はこのときの教訓が、現在の住友金属鉱山の経営に深く刻まれている。