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なぜ今,努力しないで成功する物語がはやるのか?――引きこもりのプロブロガー・海燕氏がゲストの「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第17回
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印刷2014/05/10 00:00

インタビュー

なぜ今,努力しないで成功する物語がはやるのか?――引きこもりのプロブロガー・海燕氏がゲストの「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第17回

現代の物語論。ゲームの中で成功するのであれば説得力がある?


川上氏:
 そうだ。ゲームの話題からはちょっと離れますけど,最近の「欲望充足型コンテンツ」()――最近の言い方でいうと“なろう系”について,海燕さんはどう思ってるんですか?

※ここでは,オタクの「満たされない」欲望を擬似的(安易に)に「満たして」くれる作品を指す。ちなみに「なろう系」とは,「小説家になろう」というサイトではやっている,何の変哲もない主人公が異世界に行く/あるいはそこに転生することで,突如ヒーロー扱いされるといった類の物語の総称。

海燕氏:
 僕はいわゆる「なろう系」の小説をそこまで読み込んでいるわけではないんですけれど,友人にはめちゃくちゃ読んでいる人が何人もいて,「俺TUEEE」だとか「チート」だとか,さまざまな言われ方をしていますよね。漫画やライトノベルなんかも含めて,努力をしないで勝利する物語が,いまの時代の流行なんだと。

川上氏:
 努力すると感情移入ができないって話はよく聞きますよね。

4Gamer:
 一昔前の王道だった「友情・努力・勝利」という定番から,読者側の趣向が変遷しているってことなんですかねぇ。

海燕氏:
 どうなんですかね。ただ,僕はそれが単純に悪いことだとは全然思わないんですよね。最近の若いものは物語のなかですら努力を好まなくなってしまった,なんてことだ!みたいな意見には全く同調しません。だって,現実世界でも努力すれば勝利できるかっていったら,別にそういうわけじゃないですよね。まるで努力しないで勝利する奴もやっぱりいるわけです。努力しないからダメだとは一概に言えない。

川上氏:
 むしろ,努力したら(必ず)成功するっていう方がファンタジーですよ。

海燕氏:
 そうなんですよね。むしろ,世の中のほんとうにリアルな姿ってそっちなのかなって思うんです。だから,努力と成功に明確な因果関係がないことをきっちり描いてしまうと,それは身も蓋もない話になってしまうんですよね。とはいえ,努力=成功という図式が通用した時代があったことはたしかで,「そういう時代もあった」と解釈するほうが正解なのかなって気はしています。

4Gamer:
 日本という国自体の時代背景――高度経済成長やバブル期の繁栄など――もあって,努力=成功という構図にも納得感があったのかもしれませんね。

海燕氏:
 「努力すれば報われる」という幻想が説得力を持つ時代が何十年か続いて,その間に「主人公が努力しない物語は良くない」みたいな価値観も生まれたと。でも,実際には全く努力なんてしていない奴が生まれつきの素質で勝っちゃうとか,家柄が良くて生まれながらに勝ち組の奴がいるとか,そういうことのほうが真実であるという一面もあるんですよね。だいたい,神話とかだって主人公は「選ばれし者」とか「神さまの子供」で,全く努力していない話が多いじゃないですか。だから,そもそも努力と成功を因果関係で結ばない話のほうがむしろ王道なのかもしれないとも思いますね。

川上氏:
 まぁでも,実際,社会的な成功の秘訣が何かっていったら,やっぱり運ですよ。素質や才能はあんまり関係がない。

4Gamer:
 そういうもんですか?

川上氏:
 そういうもんです。そもそも,運だけで成功ってできるんですよ。努力すると,その確率が多少上がったりってことはあると思いますが,大枠のところは運で決まるんです。後は環境との相性の問題で,社会的な成功っていうのはほとんどそれだけで決まると思う。実際,一流と呼ばれる人達だってごく普通な人の方が多いですからね。凄い人っていうのは,本当に少数だと思いますよ。

4Gamer:
 じゃあ,実際の努力の効果ってどういうものなんですかね。

海燕氏:
 ダイスを一個多く振れるみたいな感じですかね?

川上氏:
 ああ,その例えは近いかもしれないですね。

4Gamer:
 それでも,1ゾロが出てしまうかもしれないと。ダメなときはどんなに努力したってダメだって話ですよね。

海燕氏:
 まあでも,努力していないのに成功できてしまうという物語のほうが「正しい」という価値観もあるわけなんですよね。努力したからうまく行きましたっていう物語は,たしかにファンタジーとして魅力的なんですけれど,一方にはいくら頑張ってもダメでしたって物語もあるべきだと思うんです。さらに言えば,頑張っていないけれど成功しちゃいましたって物語もあってもいい。僕はそう思いますね。

川上氏:
 まあそうですね。人生自体がそういうものですし。

海燕氏:
 それに元々,(コンテンツとしての)物語とは欲望を充足する/疑似体験するためのものだったと思うんです。現実世界では満たされない夢を叶えるためにこそ物語はある。だから,「欲求充足型コンテンツ」自体はずっとあった。ただ,努力したら成功するという物語と,努力しなくても成功できるという物語,どちらにリアリティを感じられるのか,そこが変わってきた。それだけの話なんじゃないかと解釈しています。

川上氏:
 うーん,僕は「コンテンツってなんだろう?」ってことをよく考えるんですけど,娯楽的なコンテンツって要するに“遊び”ですよね。その遊びをパッケージング化したものが,今ある「コンテンツ」と言われるもので。

4Gamer:
 なるほど。

川上氏:
 じゃあ,遊びの原点/本質はなんなのかって考えると,僕は「現実のシミュレーション」だと思うんです。例えば,ライオンの子供がじゃれて遊んだりするのは,狩りをシミュレーションしているんだって話があるじゃないですか。あれと同じで,遊びを繰り返すことで本番の成功確率を上げる,ひいては生存の確率を上げるってことが遊びの本来の意義だと思うんです。

4Gamer:
 生物としての遊びの本質とはって話ですよね。

川上氏:
 うん,そうそう。で,遊びがなぜ面白いのか?というと,それってインセンティブですよね。生存の確率を上げるための練習をたくさんやってもらうために,楽しいって感情をインセンティブとして用意した。それが,“遊びを面白く感じる理由”なんだろうと思うわけです。
 だけど,昨今の(商業的な)コンテンツっていうのは,どんどん先鋭化していった結果,その練習するという部分を排除して,面白いって部分だけを感じさせようとする形になってきた。そして人間(お客さん)の側も,その面白さだけを望むようになった――というのが僕の解釈で。いわば,一種の暴走状態なんじゃないかって思っているんですよ。

海燕氏:
 なるほど。たしかにそうですね。

4Gamer:
 それは,ゲームにも言える現象かもしれませんね。難しさや面倒さを極力排除して,勝利の快感だけを与えるのは果たして是か非か――みたいな。

川上氏:
 あと,なろう系小説の話でちょっと思い出したんですけど,ウチの社員に斉藤大地というのがいて。まぁ,普段は全然ロクに仕事をしない奴なんですけど,そいつがBlogで「なんで今,なろう系みたいな物語が受けているのか」って記事を書いてたんです。

4Gamer:
 へえ?

川上氏:
 そこで彼が書いていたのは,要するに「今の若い子の成功体験,自分の人生で輝いた瞬間っていうのは,ゲームをクリアした時ぐらいだ」ってことなんですね。現代の若者の多くは,それ以外の(成功の)原体験がないんだという。この指摘はほんと凄いなと思って,僕の中で彼の評価が超上がってるんです。……全然仕事はしないんだけど(笑)

海燕氏:
 その指摘には僕も凄く共感できますね。その意味では,例えば「ソードアート・オンライン」とかが大ヒットしている背景にも,そういった理由があるのかなって思っています。

画像は「ソードアート・オンライン」を題材にしたPS Vita用ソフト「ソードアート・オンライン ―ホロウ・フラグメント―」より
ソードアート・オンライン ―ホロウ・フラグメント―

4Gamer:
 というと?

海燕氏:
 「ソードアート・オンライン」って,ものすごく純粋なヒーロー小説なんですよ。「エヴァンゲリオン」みたいな,「なぜ僕がヒーローをひき受けなければならないんだ!」といった苦悩がほとんどない,痛快で,あえて言ってしまえば無邪気な物語です。で,なんで今の時代にこんな無邪気なヒーローものが成立しうるんだって考えていくと,それってやっぱり,あの物語が「ゲームの世界」のなかの話だからなんじゃないかって気がするんです。ゲームの中で成功するのであれば説得力がある,というのかな。ゲームの中での出来事だから,そういう内容でも納得できるんじゃないかと。

川上氏:
 現実世界を舞台にした物語であれをやってしまうと,説得力もないし,共感もできないってことなんですよね。

海燕氏:
 そうなんです。実際,現実で大金持ちになるだとか,社会的に成功するみたいな物語を描こうとすると,いまの時代的にはやっぱり厳しいわけですよ。どうしても嘘っぽい部分が出て来る。「しょせんお話だよね」としか受け取ってもらえないかもしれない。だけど,ゲームの中で成功するという話にすると,妙にリアリティがあるんですよ。

4Gamer:
 ふうむ。なるほど。

海燕氏:
 「ソードアート・オンライン」の主人公は,ゲームの世界で活躍してものすごい英雄になるんだけれど,現実に戻ってくると普通の人に戻るんですね。で,またゲームの世界へ行くとまた大活躍して,また普通の人に戻ってっていうことをくり返す物語なんですけれど,いまの時代は,こういう物語により共感しやすいんだろうなと思います。現実世界では何者でもないとしても,ゲームの世界ではヒーローになれるかもしれないという幻想を,絶妙のリアリティで描き出していると思います。やっぱり傑作ですね。

4Gamer:
 ゲームの世界の成功譚だからこそ逆にリアリティを感じられるっていうのは,確かに現代の世相みたいなものを現しているのかもしれませんねぇ。

川上氏:
 僕は「ルサンチマン」って漫画が超好きなんですけど,あれもそういう話ですよね。そのテーマを文学的にやったのが「ルサンチマン」だと思うんですけど。

4Gamer:
 あれは,なんというか,オタクに苦い学生時代とかを思い起こさせるような内容ですよね。

川上氏:
 そうそう。僕は「ルサンチマン」って,オタク純文学とでもいうべき作品だなと思っているんですけど,同時にオタク純文学っていうのは,オタクが読むと傷つくからオタクには支持されないんだと思ったんです。みんな真実は知りたくないんだなって。

海燕氏:
 まあただ,辛い話を読みたくなる時っていうのもあるんですよね。萌え系の作品をずっと見てると,それはそれで幸せなんですけど,こんなの嘘だーってなって,辛い作品を見たくなる時がある。まぁ辛い作品をずーっと見てると,やっぱり萌え系がいいわって戻るんですけど(笑)


僕自身は「青臭くありたい」と思っている


川上氏:
 しかし,今回改めて思いましたけど,やっぱり海燕さんは素晴らしいですよね!

海燕氏:
 どうしてかよくわかりませんが,ありがとうございます(笑)

川上氏:
 いや,いつも海燕さんのブログを拝見していますけど,あそこで語られている論理・理屈の組み立てって,僕は本当にトップクラスだと思っていて。もちろん,プロの人達がそれぞれの世界でやっている議論っていうのも世の中にはあるわけですけど,その議論の深さというのかな,そういう部分を比べてみても,海燕さんが引けを取っているとは思わないんですよね。でも,それが世間的にはあまり知られないままっていうのがね。

4Gamer:
 僕も川上さんが絶賛しているので釣られて購読したクチですが,いつも「よくこんなにいろいろな視点が持てるな」と関心します。

川上氏:
 世の中には,凄いと思われている人と,そうは思われてない人がいると思うんですけど,僕は人間の性能自体にはそんなに差がないとも思っていて。とくにうまい人同士の能力差って,現実的にはほとんどないんだけど,その中で薄皮一枚秀でた人が「天才」って呼ばれるんですよね。

海燕氏:
 それはどういう意味ですか?

川上氏:
 凄く分かりやすい例でいうと,例えば,100メートル走のランナーなんかは,上位者はみんな9秒台だったりするわけですけど,その中でコンマ1秒だけ抜きんでた人が「天才」と言われるわけじゃないですか。ちょっと引いた視点で見ると,みんな「9秒で走る人」で同じようなレベルなんだけど,受ける扱いというか,さっきの議論でいう「社会的な成功」って視点で見ると,そのコンマ1秒が雲泥の差を生むわけですよね。

4Gamer:
 まぁ,そうですね。

川上氏:
 そういう話って,細かく見ていくと現実世界にはたくさんあるわけだけど,僕はそれって,ちょっとした環境の差だとも思うんです。100メートル走の例でいえば,そのコンマ1秒の差を評価する構造(環境)が世の中にあるかどうかの差でしかなくて。
 その意味でいうと,ネットの中には本当にいろいろな人がいて,その中には明らかに才能を持った人っていうのが埋もれてるわけじゃないですか。で,そういう人達が評価されるかどうかの境目って,そういう場(環境)に出会えるかどうかって運が絡むわけです。だから素材としては天才なのに,世間的にはちっともそう思われない人って,きっとたくさんいるんだろうって思うんですよね。

4Gamer:
 その議論で言うと,例えば,会社の面接とかで「コミュニケーションスキルはないけど凄い人」をどうやって発掘するかって話があるじゃないですか。僕自身も面接官をやったことがあるので分かるんですけど,やっぱり,面接の場でハキハキしている方が魅力的に映るんですよね。

川上氏:
 まぁ実際,今はコミュニケーション能力が最優先事項になってますよね。どんな会社でも。

海燕氏:
 古い世代のオタクっていうと,コミュニケーション能力がなくて好きなことを延々とやっているみたいな,そういう人間が「オタク」って言われてたんだろうなとは思うんですよね。そういう人は扱いが難しいということは否定できませんね。

川上氏:
 会社が人を雇うときに,なぜコミュニケーション能力がある人を雇いたがるのかっていうと,僕はそれ,「ブロック」を連想すると分かりやすいと思っていて。

4Gamer:
 ブロック?

川上氏:
 つまり,コミュニケーション能力が高い人材っていうのは,とても汎用性が高いブロックというのかな,ほかと組み合わせやすい人材なんですよ。一方で,専門性の高いオタクというのは,歪な形をしたブロックだって解釈すると分かりやすくて。明らかに変な形をしていると,「この形のブロックはどう当てはめたらいいんだろう?」みたいな感じになるから,歪なブロックでチームを構築するのはとても難しいんです。

4Gamer:
 なるほど,「ブロック」というのは言い得て妙ですね。

川上氏:
 だけど,その「歪なブロック」も使いようによっては,それでしかうまく「嵌まらない」人材になり得るわけじゃないですか。だから,本来はそういう人材も積極的に採るべきなんだけれど,結局は,みんな楽な方を選んでしまうんですよ。すなわち,簡単な汎用品で部品(チーム)を組み立てようとするんです。もしかしたら,今は,社会全体がそういう方向に向かっているのかもしれなくて。

海燕氏:
 リスクマネージメントの観点では,それはそれで正しいんでしょうけどね。だけど僕としては,やっぱり面白い人を見つけてあげてほしいですね。

川上氏:
 そっちの方が絶対にいいですよね。人間の個性を塗りつぶしてしまうような世の中がよいとは思えないし。

4Gamer:
 そうですねぇ。実践しようとすると,なかなか難しいのは確かなんですが。

川上氏:
 まぁ,この話で何が言いたいかというと,海燕さんは凄い人なんだってことですが(笑)

海燕氏:
 あはは。ありがとうございます。まあ,僕自身の話でいうと,僕はわりと翻訳家みたいなところがあるのかなと思っているんですよね。ネットやオタク,サブカル界隈で起きている議論を,わかりやすく整理して書くことに特化しているかなと。僕自身がすごくおもしろいかというと,そうでもないと思うんですよ。まあ,わかりやすく書くから炎上しちゃうんですけれどね。

川上氏:
 でも,本質的な話っていうのは分かりやすいんですよ。逆に分かりやすく書けない人っていうのは,その話を理解できてない人。わかってる人の書く文章は単純明快なんです。

4Gamer:
 僕も海燕さんのブログでいつも関心するのは,そのわかりやすさなんですよね。とくに論者的なオタクの人って,無駄に難しい言葉を使いがちじゃないですか。

川上氏:
 ああ,用語とかも難しい単語を使いたがる傾向がありますよね。

4Gamer:
 よくわからない聞いたことない単語を並べたがるというか。「せっかく面白い議論なのに,伝わらないと意味がないのでは?」と思ったりもするんですが,海燕さんにはそういうところがないのがエライなって思うんです。

海燕氏:
 まぁ,非常に難しいことを語ってるのかなって思って読んでみると,意外とそうでもない人はいますよね。もちろん,ほんとうにむずかしいことを語ってらっしゃる方もいますけれど。

4Gamer:
 でも,難しい議論が高尚ってわけではないんですよね。

川上氏:
 “難しい議論”なんて本当はないんですよ。

海燕氏:
 まあ,僕にしても一般的に難解とされる用語を使えないわけではないと思います。「このエロゲーは田中ロミオの方法論の脱構築に成功している」とか,たぶん書こうと思えば書けますよ(笑)。それではなぜ僕がそういう言葉を避けているかというと,僕自身が「青くさくありたい」と思っている節があるからなんですね。

4Gamer:
 青臭い,ですか?

海燕氏:
 はい。というのも,僕の上の世代のオタクたちは,わりとこうシニカルだったりとか,穿った解釈をするみたいな人が多い印象があったんです。だから,僕自身がブログを書き始めるときは,そういうのじゃなくて「好きなものは好きだ!」みたいな方向でいこうかなって思いはありました。

川上氏:
 でも,「青臭い」のをやめるというのは,要するに「妥協」「諦め」ってことですよね。物事を斜に構えて語る人っていうのは,僕は諦めている人だと思っているんですけど。

海燕氏:
 そうですね。そういう意味では,僕自身はまだ理想を追っているんじゃないですかね。

川上氏:
 そういう純粋さも,海燕さんの良さだと思いますよ。今回,ドワンゴでブロマガというものを作ったことで,海燕さんみたいな人に出会えたわけですけど,現代における市井(しせい)の賢者っていうのは,こういうところに埋もれていたんだって改めて思い知らされましたし。


海燕氏:
 まぁ僕のブロマガって,一時期はランキングが凄く上がっていて,それこそGacktさんとかとデッドヒートを繰り広げていた頃があったんですけど,そのことをうちの父親とかに話すと,「お前は何を言っているんだ?」みたいな冷たい目で見てくるわけですよ(笑)。一応は本当のことなのに。

4Gamer:
 その言葉尻だけを捉えると,にわかには信じがたいかもしれませんね(笑)

川上氏:
 でも,僕は海燕さんにはぜひ成功してほしいと願っているんですよ。

海燕氏:
 まあ,何をもって成功と見なすかは難しいですけどね。むやみやたらにアクセス数を伸ばしていけばいいとは思わないですし,結局アクセスだけを伸ばす方向に寄ってしまうと,ひたすら感情に訴えかけるだけの話題が最強だって結論になってしまう。炎上上等みたいな感じになってしまうじゃないですか。僕もさんざん炎上しているほうですけれど,あまり扇情的なだけの記事を書きつづけていると疲れてしまいますし,ほかの道を探りたいところですね。

4Gamer:
 そうなんですよね。

海燕氏:
 とはいえ,炎上芸人って意味では,ハックルさん()とかは別格で,あそこまで行くと素直に「凄いな」と思いますけどね。同じことをやりたいかっていうと別にやりたくはないんですけど,これはとても真似できないなって意味で,あの人は偉人だなと。

※本名は岩崎夏海。放送作家,小説家。大学卒業後,秋元康氏に師事し,放送作家として「とんねるずのみなさんのおかげです」や「ダウンタウンのごっつええ感じ」などのテレビ番組の制作に参加した。また,2005年から2007年まではAKB48アシスタントプロデューサーも務めた。独立後は,作家として「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」を発表し,これがミリオンセラーとなった。

川上氏:
 ハックルさんは異次元ですよね(苦笑)。やることがトリッキー過ぎるから,彼の行動を理解するのはとても難しいんですけど。

海燕氏:
 ハックルさんの何が凄いって,はてなを炎上させるのと同じ方法論でベストセラーを出しちゃったってところですね。自分がネットでやっていた「遊び」が,実はリアルでも価値を持つものだと思い知らされた。ネットとリアルってこんなにも近いものだったんだって気付かされて,ある意味で衝撃的でした。

川上氏:
 ハックルさんの師匠でもある秋元康さんなんて,「自分がなぜAKB48を当てたのかってことよりも,なぜ岩崎が「もしドラ」を当てたのか。そちらの方が不思議だ」って言ってましたからね。「みんな,もっとそこに着目すべきだろう」って。ハックルさん,本当に凄いですよね。

海燕氏:
 まあ,4Gamerさんでハックルさんの話題っていうのもどうなのかとは思いますが(笑)

4Gamer:
 そ,そうですね。

川上氏:
 確かに(笑)。じゃあ,今日はこんなところですかね?

海燕氏:
 はい。今日は貴重な機会をいただき,ありがとうございました。ブロマガの運営も頑張ります。

(つづく)

川上量生(かわかみのぶお):
ドワンゴ代表取締役会長。1968年,愛媛県生まれ。京都大学工学部卒業後,ソフトウェア専門の商社勤務を経て,1997年に株式会社ドワンゴを設立。携帯電話向けサービス「いろメロミックス」などをヒットさせ,同社を東証一部上場企業へと成長させた。近年では,ニコニコ動画を成功に導くなど,独特の考え方をする実業家として知られる。2011年1月に突如としてスタジオジブリに入社し,プロデューサー見習いとして,鈴木敏夫氏に師事している。なお,本連載をまとめた川上氏の初の単著「ルールを変える思考法」も発売中。

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