アインズ様Lv1   作:赤紫蘇 紫

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アインズ様が戻った後の七夕の話です。ルビは付けてませんので、適宜脳内処理お願い致します。微妙にオバマスネタ入ってます。(花見の下り)
本編止まっててすみません!詳しくは活動報告をご覧下さい。


閑話 七夕と死の支配者

「そろそろ七夕かぁ……。短冊とか、飾った方がいいかな」

 ぽつり、とそう呟いたのは、ナザリックの支配者たる偉大なる死の支配者ことアインズ・ウール・ゴウンその人である。自然と漏れたその声は、いつもの支配者然とした物とは違っていて。素の"鈴木悟"の声そのものだった。

「アインズ様!七夕とは一体……!」

「短冊、ですか。木簡、それとも羊皮紙をご用意したら良いのでしょうか?」

 立て続けにそう問われて、アインズは硬直した。

(えっ、俺今喋っちゃってた!?って、アルベド近い!怖い!!)

 ずいっと距離を縮め、最初に訊いたのがアルベド、そして冷静に訊ねたのがデミウルゴスである。そんな二人の様子に、アインズは大きく息を吐き(肺は無いが)、いつものように支配者としてのロールで答える。

「ユグドラシルでもイベントとして存在したのだがな、七夕とは所謂星祭りでな。彼方だと七月七日に行われていた。花見のように、四季折々の風情を楽しむイベントだと思えばいい。"天の川"と呼ばれる星空を見上げ、笹に色紙などで飾り付けをし、短冊に願い事を書いて吊すと願いが叶うと言われているな。……まぁ、その由来などは古代図書館にある資料にでも書いてあるとは思うが。一般的に行われているイベントとしては、そんな感じだな」

(……ユグドラシルだと、レイドボスの巨大七夕笹を撃破するイベントだったけどな……。倒すと限定アイテムは貰えるけど、願いが叶うって訳じゃ無かったなぁ……)

 そんな事を思いつつ説明すると、知恵者二人は瞳を輝かせていた。……それを見て、アインズは如何にも嫌な予感がしてならない。花見だって、アレだったのだ。今回の笹も、とんでもない化け物が飾られるのでは無いか?そう思い、内心ビクビクしてしまう。

(もうちょっと風情のあるのが良いよ、俺としては!!何であんな怖い花飾ったの!?)

 と、あの時思っていた事を思い出してしまう。

「……まぁ、願いが叶う、と言っても100%では無いからな?運が良ければ、という話だ。メインとしては、星空の美しさを楽しむ事だな。風情のある祭、と言ったらいいだろうか」

 そう言ってアインズはデミウルゴスを見る。もうあんなのは飾るなよ、という思いを込めて。

「かしこまりました、アインズ様!アインズ様に相応しい、立派な笹を探して参ります。また、飾り付けにも上質な紙を使いたいと思います」

 眼鏡を輝かせながらそう言われて、アインズは小さく頷く。……微妙に嫌な予感がしつつも。

「……あぁ、そうだな。先ずは古代図書館できちんと文献を調べてからだ。恐らく、画像も載っているだろうからそれを参考にするといい。この世界に笹が存在するかどうかは謎だが……星空を見るのに邪魔になるような物は使うなよ?」

 そこまで言えば、デミウルゴスと言えどあの様な化け花は飾らないだろう。そう思っての事だった。

「はい。七夕までもうあまり日もありませんので、私はこれで失礼致します」

 優雅に一礼すると、デミウルゴスは執務室を出て行った。……が。

「……。アルベド。お前はどうしたんだ?」

 未だ近い位置でアインズを見つめる女淫魔、アルベド。ギラギラと輝く金色の瞳に、本能的な恐怖を覚えつつ、沈静化されているアインズは冷静にそう訊ねた。

「はい。その……何か決まった衣装はあるのかと思いまして。先日の花見の際、デミウルゴスとセバスは着物を着ておりましたし……」

「……そうだな。正式な衣装は無いが、七月と言うことで夏祭りも兼ねることも多かったからな。浴衣を着ている者も多かったな」

 アインズのその言葉に、ギラリ!と輝くアルベドの瞳。

(だから!怖いって!!何!?俺、何か変な事言った!?)

「アインズ様。では、私は階層守護者たちに着せる浴衣を準備致しますわ。勿論、アインズ様にもご用意致しますので、当日を楽しみにして下さいませね?」

 聖女のように清らかな笑みを浮かべてそう言うと、アルベドはアインズから離れすんなりと退出した。

(……助かったー!もう、何!?アルベドのツボ、俺全然分かんないんだけど!?普通にしてたら美人だし、おっぱい大きいし、最高なのに……。何であぁ残念なんだろうアルベド……。タブラさん、あぁいう女性が好みだったんですか……!?)

 今はここには居ない、ギャップ萌えを熱く語っていた男、タブラ・スマラグディナを思いだし、アインズは再び溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 当日。アルベドから届けられた濃紺のシンプルな浴衣をメイド達に着付けて貰い、そのまま会場に案内される。

「アインズ様、ようこそお越し下さいました。短冊は此方にご用意がございますので、お好きにご利用下さい」

 デミウルゴスも浴衣を着てアインズに短冊を示す。その浴衣は、花見の時の着物と同じく緋色だ。透かし柄には髑髏で、帯は黒地に金糸。下駄は金色で鼻緒は黒だ。……創造主のウルベルトの好みそうなデザインであった。

(……被創造物って、創造主の好みがこんなに反映されるのかなぁ。デミウルゴス、別に厨二病じゃないと思うんだけど……どうなんだろ?)

 そんな事を思いつつ、会場に入る。すると、階層守護者達が色取り取りの浴衣を着ているのが見えた。

「アインズ様!この浴衣、似合っていんすか?」

 アインズに駆け寄り、目の前でくるり、と愛らしく回るシャルティアは、藤色に大輪の牡丹を描いた華やかな浴衣を着ている。帯は白で、紫色のレースが華やかだ。下駄は黒で鼻緒は濃い紫だ。

「あぁ、とても似合っているぞシャルティア。それも、ペロロンチーノさんがプレゼントしてくれた衣装か?」

「はい!ペロロンチーノ様は様々な衣装を下さったので……。お褒めにあずかり光栄でありんす」

 敬愛する創造主、ペロロンチーノのセンスを褒められた事が余程嬉しかったのか、シャルティアはいつになく無邪気な笑顔を見せていた。

(ペロロンチーノさんに見せてあげたいなぁ。こんなに嬉しそうなシャルティア見たら、ペロロンさんだってずっとここに居たいって思うに違いないのに)

 未だギルメンは誰も転移して来ない。その事実に、ほんの少しアインズの心は痛む。だが、その事を気付かれないよう、アウラとマーレに声を掛ける。

「二人ともとても似合っているな。帯もふわふわで愛らしいと思うぞ」

 そう言って二人の頭を撫でると、アウラもマーレもほんのりと頬を染めて嬉しそうにしている。

「あ、ありがとうございます、アインズ様……!」

「そう言って頂けると嬉しいです!その、初めてこういうの着たので、ちょっと不安だったんです」

 アウラは女児向けの浴衣、マーレは男児向けの浴衣、と言うことで、普段とは違いちゃんと性別に合った浴衣を着ていた。帯は、二人とも子供用の兵児帯だ。まるで金魚の尻尾のようにヒラヒラとしていてとても可愛らしい仕上がりになっていた。アウラは赤地に紫の朝顔で帯は紫がかった淡いピンク、マーレは藍地に細い青色の細かいストライプに黄色の帯だ。下駄はアイボリーで、鼻緒は其れ其れ浴衣の色とお揃いになっている。帯は兵児帯なのに、浴衣の丈はしっかりと足首まで来る長さなので、ほんの少し二人とも大人っぽく見える。

「そうか?アウラはとっても可愛いぞ。今日の装いはいつもより大人っぽく見えるな。マーレも凜々しく見えるぞ」

 そう言うと、アウラもマーレも目に見えて瞳をキラキラとさせる。

「う、嬉しいです!!」

「あ……ありがとう、ございます……!」

「さぁ、短冊はあっちだ。年に一度だからな、存分に楽しんでくれ」

 アインズは二人の背中を軽く押すと、今度はコキュートスに目を遣る。

(……着てる、な……)

 外皮鎧のコキュートスは普段は全裸なのだが、今日は珍しく浴衣を着ていた。威圧感が出ないようにか、外皮鎧の色に近い明るい青の浴衣で、帯は濃紺だ。

「アインズ様、ゴ無沙汰シテオリマス」

「あぁ、其の儘で構わない。蜥蜴人たちの管理ご苦労だった。今日は皆にゆったりと過ごして欲しいと思っているからな、お前もゆっくりするがいい」

 アインズのその言葉に、深々と頭を下げるコキュートス。ふと、その体躯がアインズに武人建御雷を思い起こさせた。

(今日は、やけにギルメンを思い出すなぁ……。何でだろう?)

 七夕が彼方のイベントだからだろうか?と頭を捻りつつ、アインズは会場を眺める。会場の中央には、巨大な笹。既に飾り付けられているが、まだ短冊は一つも下がっていない。

(あ。良かった、今回の笹はマトモそう……?ん?)

 眼窩の炎を凝らしてよく見る。すると、その根元がうねうねと動いているのが見えた。笹の両サイドにはデミウルゴスの配下の悪魔が数人居て、根元が動く度に攻撃を加えている。

(……マトモじゃ、なかったな……。ザイトルクワエ的な魔樹か、こっちの笹……)

 会場には、酒や食べ物が大量に並べてある。プレアデスたちも其れ其れ色取り取りの浴衣を身に着けていて、優雅な動きで給仕をしている。

「父上ッ!雅なイベント事があると聞いて参上しました!」

 と、突然アインズの目の前に躍り出たキラキラした影。……パンドラズ・アクターだった。

「……うわぁ……」

 思わず、本音が漏れた。何故なら、目の前のパンドラズ・アクターはマツ○ンサンバもかくや、というような黄金に輝く浴衣を身に着けていたのだから……。金色の浴衣に、黒ラメで描かれた昇り竜。どう考えても、自分のセンスだなんて認めたくない衣装を身に着けていたパンドラズ・アクターに、アインズは何度も沈静化されていた。

(違う!違うからマジで!!コイツのセンス、絶対俺のじゃないからっ……!軍服は確かに格好いいと思うけどさ、この浴衣は流石にッ……!!)

「浴衣と言えばコレですよね、父上!どうです?父上のお眼鏡に叶いますか?」

 クルクルと回って自分の浴衣をアピールするパンドラズ・アクターからそっと視線を逸らし、アインズは小さく答える。

「……あぁ、うん。俺のセンスじゃないが、お前が好きならいいんじゃないか?ほら、短冊はあっちだ」

 そう言って微妙に距離を取りつつ、アインズは空を見る。魔法を使うまでも無く、空には雲一つ無い。天の川が綺麗に見え、七夕を楽しむには最適な夜と言えた。

(……あれ?そう言えばアルベドがまだ来てないような……?)

 そう思いつつ、短冊の傍に居たデミウルゴスに声を掛ける。

「デミウルゴス、アルベドはどうした?それと、まだ誰も短冊を飾っていないようだが……」

「はい、アルベドは少し着付けに手間取ってるそうで。短冊は、アインズ様が下げてからにしようと皆が言っておりまして」

 そう言われて、ほんの少し引っかかるような気がしたが、アインズは意識的にスルーする。

「そうか。まぁ、女性は準備に時間が掛かると言うしな。……短冊は、もう下げて貰って構わない。短冊が下がることで、飾りは完成するのだからな。私も追々下げるとしよう。さぁ、デミウルゴス。他の者にもそう伝えてくれ」

(花見の後にも言ったんだけど、微妙にまだ俺優先になっちゃうからなぁ。俺、飲食出来ないし先に始めるようになったのは進歩だとは思うけど)

 そう指示すると、デミウルゴスは皆にアインズの言葉を伝えてくれる。すると、皆が色々な短冊を手に取って願い事を書き始める。徐々に笹には短冊が増えていき、より華やかになってゆく。その様子を目を細めて眺めていると、背後に気配を感じた。振り返ろうとすると、背中にむにょん、と柔らかい感触があった。

「アインズ様!お待たせして申し訳ありませんでした」

「ア、アルベド……!どうしたんだ、急に」

 甘く香る良い匂いにドギマギしつつも、恐怖を感じざるを得ない。……何故なら、今もアルベドは飢えた肉食獣のような瞳でアインズを見つめていたからだ。

(おかしいな!?普通こんな巨乳美女に抱き締められたらドキドキするもんじゃないの!?いや、ドキドキはするんだけど、それよりも俺、めちゃくちゃ怖さを感じるんだけど……!!)

 そんな小動物のような内心を隠しつつそう訊けば、アルベドは妖艶に微笑みながらアインズの胸元にそっと手を差し入れる。

「デミウルゴス!コキュートス!!アルベドがまた乱心しているぞ!どうにかしろ!!」

 そう叫ぶと、即座に二人はアルベドをアインズから引き剥がす。そして、コキュートスは最早恒例とも言える冷気でのクールダウンをアルベドに施していた。

「まったく……。大口ゴリラは空気を読めないのかしら?アインズ様が雅を愛しこのような会を企画して下さったと言うのに……。守護統括が聞いて呆れるでありんす」

 嘲るようにそうシャルティアが言えば、一瞬アルベドは視線を鋭くしたが、すぐに笑顔を浮かべる。

「あら?私はアインズ様のお好みに合わせてこの浴衣を着てきたのよ?アインズ様のお好みよりも、ペロロンチーノ様のお好みに合わせている女に、どうこう言われたくはないのだけれど?」

「……ッ……!うるさいでありんす!この衣装は、わたしを最も美しく見せるとペロロンチーノ様が仰ってたのでありんすぇ!?ならば、これを着てくるのがアインズ様への愛と言っても過言ではありんせん!」

 目の前では、恒例の争いが繰り広げられていて。アインズは頭を抱えた。

「落ち着け、お前たち。ほら、短冊をまだ下げていないだろう?願い事を書いて、各々笹に下げるんだ」

 そう言って二人を宥めると、守護者達はそれぞれ短冊を手に取り願い事を書き始める。

(……黙ってれば本当に美人なんだけどなぁ、アルベド……)

 チラリ、とアインズは横目でアルベドを見る。今日のアルベドは、白地に紫と朱の薔薇の浴衣だった。ベースは白地だが、薔薇の模様の面積が多いため、紫掛かった色味が強い。帯は緋色だ。下駄は黒で鼻緒は緋色。アルベドの白い脚を際立たせる組み合わせだ。髪の毛も今日は軽く結い上げているので、白い項が妙に艶めかしく見える。

(……ん?)

 アルベドを見ていたら、短冊の文字も見えてしまう。

(……。正妃、って……)

 アインズは、思考を放棄した。多分、突っ込んだら負けだ。そう思ったので。

(うわー……。これは、他の守護者達の短冊も見るのが怖いな……。うん、見ないことにしよう!それが多分一番平和だろうから……!)

 そう決めて、アインズは皆が短冊を吊すのを見る。下の方がいっぱいになると、飛べる者たちは空いている上の方に短冊を付けてゆく。

「皆、短冊は付け終わったか?」

 暫くしてそう訊けば、皆が口々に返事をする。それを確認してから、アインズは<飛行>を唱えて浮き上がる。そして、既に記入済みの短冊をてっぺんに括り付ける。……そこには、『またギルメンと遊べますように』と書かれていた。

「では、日付が変わるまではこれを飾ったままにして星を楽しもう。日付が変わったら全てを燃やすのが作法だ」

 アインズの願い事は、全ての者が知りたかった。だが、彼が短冊をわざわざてっぺんに取り付けた事で、その意図を知る。ナザリックに居る者全員がその主の望みを知りたいと願い、その願いを叶えたいと思っている。だが、当の本人が知られることを拒んでいるのだ。ナザリックに、主の意に沿わぬ事をしようと思う者など存在しない。

「かしこまりました。では、私が責任を持って笹を処理致しましょう。一片残らず燃やし尽くしますので、ご安心下さい」

 炎を操る悪魔であるデミウルゴスはそう言うと、恭しく一礼する。アインズに忠実な彼なら、間違いなく誰の目にも触れぬよう処理するだろう。

「あぁ。では頼もうか。さぁ、お前たち。今宵は無礼講だ。存分に楽しんでくれ。私も今日は星を愛でることとしよう」

 アインズのその言葉と同時に、にじり寄るアルベドと、一歩遅れたシャルティア。七夕の夜は、こうして賑やかに過ぎてゆくのであった。

 




アインズ様を取り合うアルベドとシャルティアの激しい争いは脳内補完でお願い致します。
そして、アルベドはまた夜這いを掛けて謹慎食らうのです……。(お約束)

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