【批評】『ファイナルファンタジー13』の感想やレビュー 骨のある問題児

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『ファイナルファンタジーXIII』というゲームを覚えているでしょうか。

2009年に発売されたこのゲームは、恐らくかつてない程の規模で批判されたゲームです。批判の質・量ともにとんでもない次元で叩かれまくりました。2chで葬式スレが立ち、amazonレビューは大炎上し、まとめサイトが大はしゃぎしました。

個人的な意見を述べると、これが大変難しい。面白いとも、つまらないとも言えないのです。間違いなく私の「好きな」ゲームだし、これ以上に私を興奮させたゲームも数少ないと言えると思いますが、一方で巷での批判も3割ぐらいは理解できるのです。

故に、大変批評が難しく、避けていた『FF13』。最近プレイしたあるゲームによって、色々と自分の考え方も変わったので、改めてレビューさせて貰おうと思います。

 

一言で言って「問題児」

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結局のところ、『FF13』というゲームは尖りすぎていたゲームだった。

良く言えば「出て来る時代が早すぎた」と言えるだろうが、PS3初期の主力タイトル・ビッグブランドの新作・強気な価格設定という条件の基では、余りに説明が不足していたとしか言い様がない。

例えば、良く指摘される難解なストーリー。あらすじの一部だけwikipediaから引用しても

世界は魔獣が闊歩する広大な地上世界「グラン=パルス」と、その上空に浮かび、超常的な存在「ファルシ」達によって支えられる巨大な球状の世界「コクーン」の2つに分かれており、2つの世界は互いに忌み嫌っていた。コクーンはグラン=パルスを「外界(パルス)」と呼び蔑み、グラン=パルスの人々もコクーンを「空に浮かぶ悪魔(リンゼ)の巣窟」と呼び、数百年前にコクーンと戦争を起こした。

こんな調子である。どんだけカギ括弧多いんだよ。

それ以外でも、戦闘一つとっても、最低限覚える必要がある専門用語として「チェーン」「ブレイク」「オプティマ」「ロール」と色々あり、もはや20年前のストラテジーゲームのようだ。

では出来が悪かったかというと、決してそんなことはない。後述するように、こうした「複雑さ」はしっかりと作品の根幹として機能しており、作品での体験をとてもディープなものにしている。

 

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ロケーションはどれも本当に美麗。それだけでモチベーションになる。

 

まず、文句なしに褒められる部分から見てみよう。まずビジュアル部分は、センス・技術共に現代でも早々見られない水準に到達しているといって良いだろう。

本作での世界は主に、『FF6』以降を思わせる近未来都市の「ファルシ」と、『FF5』以前を思わせるファンタジーな「グラン=パルス」に分けられ、その多様な世界観は『FF』シリーズの集大成の域に達している。

こうした『FF』ならではの天野ファンタジーとSFの融合による個性的な世界観は、意外なことに海外ゲームでも滅多にみない。名作RPGと言われる作品も、根底の世界観は既存のハイファンタジー文化に依存したものが多い。

そして当時多くのゲーマーを唸らせた技術面も圧巻である。テキスチャの一つ一つが微に入り細を穿つよう描かれ、今遊んでもとてもPS3基準とは思えない出来栄えだ。この美麗な世界で自由に動けるだけで、『FF13』ならではの体験が出来たと誇れるだろう。

 

そして忘れるべきでないのが、浜渦正志による圧巻のサウンドだ。今時のゲームでは「リアリティ」を重視する建前で軽視されてきた音楽が、『FF13』ではダイナミックに作用し、ゲームプレイを彩っている。特に人気の高い「閃光」「サンレス水郷」は、それを聞くだけで『FF13』の景色が脳裏に浮かぶだろう。

 

賛否分かれる点①:戦闘

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ここから「賛否別れる」点を中心に批評していく。

まず、『FF13』の戦闘はわかりやすく「面白い」という人間と「難しい」「退屈」という人間に分かれている。

 

システムは従来の『FF』シリーズ由来の「ATBシステム」を発展させ、そこに「オプティマ」という概念をぶち込み、より大局的で戦略的な内容に変化している。

では「オプティマ」とは何かと言うと、従来の『FF』ではプレイヤーが一定時間ごとに逐一コマンドを指定したのに対し、本作では、プレイヤーは「バスター」「ヒール」「エンハンス」等のざっくりとしたコマンド群を、パーティ単位で指定する。その後、AIは指定されたコマンド群の中から最適行動を自動で選択して行動する。

つまり、ある程度はAIによる行動や、大局的な動きや流れを予測して先に命令する必要があるのだ。これには様々なメリットがあり、一々コマンドを選ばないのでテンポが良く、AIによってキャラクターの行動に偏りが生まれるため、キャラクターの個性を活かした戦いが出来る(=從來のRPGは特定の万能キャラだけでゴリ押しできた)。

 

とは言え、斬新なシステムなだけに不安定な部分も多い。まず、オプティマは予めメニュー画面で5種類はセットする必要があるのだが、種類は多いわメニュー画面は重いわ、しかも、何をトチ狂ったかパーティメンバーを変更する度にリセットされるわで、メチャクチャ面倒臭い。これでは戦闘のテンポが良くなっても、準備段階が間延びしてるだけである。

そしてAIの頭が致命的に悪い。このゲームのボスの攻撃は強力で、そのためタンクとなるキャラクターを配備してダメージをカットするのだが、AIが勝手に固まって範囲攻撃に当たって何の意味もなくなるのは意味不明すぎる。

 

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「難しい」より「硬い」、そして「めんどくさい」。

 

もう一つ『FF13』の戦闘における大きな特徴は「チェーン」と「ブレイク」であろう。これによってキャラ毎の役割の細分化や、戦闘のメリハリがつくという機能なのだが・・・。

「チェーン」というのは、攻撃を加えることで高まるゲージだ。『スマブラ』でいう「ふっとび値」のようなものを想像して欲しい。これを蓄積し、一定量に到達した敵は「ブレイク状態」となって、解除されるまで無防備状態+大ダメージ状態となる。

つまり、從來のRPGでありがちだったチクチクとボスを突きながら、リスクを徹底して回避する戦略を取らせず、戦闘の中で攻撃と防衛をしっかり意識して戦略を練る必要がある。

事実、このシステムは大変面白い。とにかくターン制RPGというものは、大なり小なり変化があってもやることは同じで、プレイヤーの技術が反映されにくいものだったが、本作はこのシステムによってプレイヤーの技術介入度は大きく増したと言えるだろう。

ところが、『FF13』ではシステムこそ良いが、その作り込みが全く足りていなかった。まずザコ敵でさえ「ブレイク」ありきの硬さになっているせいで、戦闘がとにかく間延びする。ボス敵もひたすら硬い・痛いだけなので、結局は回復重視の從來のプレイスタイルを踏襲する形になり、本末転倒だ。

 

他にも細かな、しかし大きな問題は多い。何故か戦闘の最初のオプティマチェンジは謎のカットインが入って一定時間タコ殴りにされるとか、何故かチームのリーダーが死ぬと即ゲームオーバーだとか(リーダーのメリットは皆無)、戦闘に気合を入れすぎたせいかクリスタリウム(スキル)とか装備等のリソース管理はめちゃくちゃ適当だとか。

そして何より致命的な部分が、本作を構成する1~13章のうち、上記のシステムを活用して遊べるのが9章からというところ。それまでは2~3人の少人数で、チュートリアルのようなレベルを延々とプレイする、拷問のような展開が待っている。「メインディッシュ」は最後でということだろうか。舐めてるとしか思えない。

 

いずれにせよ戦闘は大変可能性を感じさせる出来栄えで、RPGらしい戦略性を残しながら、プレイヤーの技術がしっかりと反映される介入度も高く、ベース部分だけなら完璧と言えた。

一方、『FF13』はそれを活かせなかった。いくら複雑な戦闘に慣れさせるためといえ、PTメンバーを削るというチュートリアルは余りに退屈だし、AIの不出来、バグ、UIの不備が、それを台無しにしてしまった。数多くのミスがあったと言わざるを得ない。

*1

 

賛否別れる点②:ストーリー

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ある日、彼らは「人」から「ルシ」となる。

 

そして、『FF13』の評価において避けて通れないポイントが、複雑にして重要なテーマを抱えたストーリーだろう。

そもそも、RPGにおいて、特に『FF』においてストーリーは極めて重要なファクターだ。特に『FF7』以降、ムービーやテキストをガチガチに固め、主人公を含めた完全なゲーム側主導の物語ありきのゲームプレイ、所謂ストーリードリブンなゲームプレイが顕著となったためだ。

 

本作において、特にそれが顕著である。長大で美麗なムービー、専門用語も多く複雑な世界観、6人の主人公による群像劇、そして13章に区切られた物語による一本道のゲームプレイ。

言うまでもなく、ここまでストーリードリブンのゲームプレイを用意する以上、「並に面白いストーリー」など決して許されない。

本来コントローラーを握って遊びたいプレイヤーに、数十時間ものあいだ一方的な物語に「付き合って頂く」以上、一流の映画と同等、それ以上の物語を用意せねばならないだろう。

その点で、旧来SFC時代以前の『DQ』や『FF』レベルの、「慣れ親しんだJRPGストーリー」は決して許されない、という前提があることを留意すべきだ。

よく『FF13』は一部のアーティストの暴走が非難されるが、その出来栄えはともかく、「最新ハードの技術を活かしたストーリードリブンの『FF』を作る」という、『7』以降の前提がある以上、ありふれたストーリーなど日和った発想は許されず、彼らには数十時間付き合っても飽きないだけの、強烈な物語と世界観だったと考えるべきだ。

 

では肝心な話、「その強烈な物語は、”面白い”のか?」という疑問が湧く。これもまた「確かに面白いが、残念な部分もある」と言わざるを得ない。

まずストーリーの根幹は大変素晴らしい発想にある。『FF13』のストーリーを一言で表すなら、RPGにとって「王道の英雄叙事詩」に対するディストピア、風刺画なのだ。

 

本作の世界は、繁栄を極めたコクーンという大地から始まる。コクーンはファルシと呼ばれる神に等しい存在により支えられていた。

しかし、コクーンと対象的に魔物が闊歩するグラン=パルスにもファルシは存在し、そのファルシに狙われた人間は「ルシ」という存在になり、ファルシの使命を達成して永遠の存在となるか、達成できず懲罰としてシ骸にされるか、という絶望的な立場に置かれる。

これは謂わば、「神」と「勇者」の寓話である。この世界では、神がファルシとして、勇者がルシとして存在し、「勇者は神の奴隷に過ぎない」と、さながら神々に翻弄されるオデュッセウスのように悲劇的に描かれていく。

そして、運悪く偶然ルシにされたのが、今回の6人の主人公だった。彼らは何れも一般人である。一般人がわけもわからぬ間に「神の奴隷」となり、神のためどんな困難にも立ち向かわなければならない。*2

その悲運に、6人は困惑し愕然とする。ある者は無謀にも神に挑み、ある者は悲嘆に暮れて自害しようとする。だが中には、希望や目標を見つけ、そのために前に進もうとする者もいる。全て神の手中であるとしても、何を犠牲にして何を救うか決めるのは自分達だ。そのために6人は再び集まり、諸悪の根源に立ち向かおうとする。

 

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見事だ。JRPGのお決まりと言える、「勇者として世界を救う」という前提に正面から向き合い、昇華させた視点は素晴らしい。特に『FF7』以降はこうした「お決まり」に常に切り込んだ、優れたストーリーを展開したものの、これほど壮大なスケールで実現した作品も珍しいのではないか。

時として、キャラクターの言動や行動(特にムノウ)が幼稚だと指摘されるが、物語の流れを考えれば自然なものだ。彼らは「正統な勇者の血」を引くわけでも、「三角形に選ばれた」わけでもない、ただその場にいただけの若者たちだ。

そして、その展開自体も悪くない。6人は一度バラバラとなり、正義のため、恋人のため、己のために少人数で行動する。そして彼らが絶望の縁に立った時、召喚獣が顕現し、ルシとして人間として力量を立ち返り、やがて仲間の元へ合流する。

この苦悩と成長、団結の流れは見事で、特に唯一中年のサッズという男が、若者たちに負けていられないと奮起するシーンはかなり心を動かされた。

単なる粗筋のみならず、世界観やサウンドといった環境との合致も完璧だ。一見美しいコクーンの世界には残酷な人間が住まい、魔物の闊歩するグラン=パルスには寛容な自然が残されている。絶望的なシーンでも浜渦正志のクリアなサウンドが希望を抱かせ、絶望を引き立てるための強敵を最新グラフィックで演出している。

 

それでも「難あり」と思えたのは、物語の後半からである。6人全員が召喚獣を顕現させ、ルシとしての使命を新たにしたことで、諸悪の根源へ立ち向かうのだが、ここから平坦な話が続く。特に10章辺りからは、結局「悪をやっつけよう」という流れになる。

これが退屈だ。あれこれ悩んでいたのは何だったのかと思う程、主人公らは愚直に「敵」に向かって進む。この間に何か動揺や反省、成長があるわけでもなく、それこそ凡作のJRPGのように淡々と続く。

しかも間が悪いことに、先程紹介したように9章辺りまで、人数が制限されたチュートリアルのようになっている点が引っかかる。要は、序盤は話は面白いがゲームが退屈、後半は話は退屈だがゲームは面白いというように、藪蛇になっているのだ。

そして問題が物語のクライマックスである。ネタバレとなるので詳細は伏せるが、結局のところ「俺たちの戦いはこれからだ!END」であり、続編ありきのオチとなっている。こればかりは擁護のしようもなく、明らかに途中で予算か期間が突きてしまったのだと考えられる。

 

問題もあるが記憶に残る一本

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ここまで述べてきたように、本作には他のRPGにはない優れた点が数多く存在する一方、平均的なRPGにも満たない欠点も山ほどあるという、大変評価に困る一本である。

実は、作品の評価における「賛否両論」には、万人が絶賛する点と批判する点を両方挙げるパターンと、評価者の半分が絶賛し半分が批判するパターンの、2パターン存在する。そして本作はほぼ前者なのである。

 

という訳で、こうぶっちゃけるのは忍びないが、残念ながら、恐らく本作を心から愛したゲーマーは少ないだろう。誰がどう見たって、ストーリーは尻切れトンボ、オプティマシステムはガバガバ、UIから挙動までぎこちないと、完璧な作品に程遠いからだ。

一方で、誰もが認めざるを得ない優れた点も数多く存在する。本作には「戦闘が難しい」という批判も多かったが、その意見のほとんどで奥深さ自体は認められていたし、圧倒的なグラフィックから描かれる世界観は、単なる技術のみならず、ゲームプレーと見事にマッチして幻想的な冒険を演出していた。

つまり、本作は「隠れた傑作」でも「唾棄すべき駄作」でもない。素行に問題もあるが能力は高い「問題児」なのだ。

それでも、これほどの大作ながら、RPGというゲーム性を徹底的に見つめ直した上で、完成度も高く、熟練のゲーマーも納得させ得るゲームとして、私は高く評価したい。

やや古いゲームだが、今からでも十分遊ぶ価値はある。いくらかのキズに我慢できる寛容さを持ち合わせているのなら。

 

 

 

 

*1:余談だが、『FF13』のシステムの悪い部分だけ残して、中途半端に他のARPGをパクった結果生まれたのが『FF15』である

*2:その分、ルシは絶大な力を手に入れる。その一つが魔法や召喚獣であり、敵となる人間は基本的に魔法が使えず、「魔法ギア」を代用するという描写がされている

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