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暗殺貴族の失敗作~追放された最強の暗殺者は、第二の人生を無双する~ 作者:月島 秀一
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第六話:世界最強の暗殺者、護衛任務を開始する【五】


(しかし、なんというか……。『若い息吹』のようなものを感じるな……)


 そんな年寄り染みた感想を抱きながら、ルインは登壇者(とうだんしゃ)の言葉に耳を傾ける。


「――日々勉学に励み、魔法の発展にこの身を捧げることをここに誓います。新入生代表ステラ=ノーブルバース」


 新入生代表の挨拶が終わり、大きな拍手が送られた。

 そのクラップ音に紛れるようにして、ルインの近くに座っていた二人の男子生徒が、小さな声で密談を交わす。


「ステラさん、すっげぇ美人だよなぁ……。まるで天使みたいだ……」


「あぁ、そのうえ魔法の腕は一級品。なんと言っても、アイリス会長と同じ『レベル5の魔法士』だからな」


「お、俺……ダメもとでアタックしてみようかな……」


「やめとけやめとけ。向こうは、あの(・・)ノーブルバースの御令嬢だ。家格(かかく)が違い過ぎて、軽くあしらわれるのが関の山さ」


 一方のルインは周囲に合わせて手を打ち鳴らしつつ、改めて壇上に立つ少女へ目を向けた。


(……ステラ=『ノーブルバース』か……)


 ノーブルバース家は、七大貴族の一角を担う名家。

 家格(かかく)的にはレグルスやロンドに一歩及ばないものの、それでもこの国を代表する高貴な家柄だ。


(……七大貴族には、横の繋がりがある。本家(レグルス)との結び付きが否定できない現状、彼女とはあまりかかわらない方がよさそうだな……)


 その後、生徒会長アイリス=ロンドが在校生代表として歓迎の言葉を述べ、最後は校長が閉式の辞をもって締めくくり――入学式は(つつが)なく終了した。


 それから新入生一同は、電子発表された自分のクラスへ移動し、簡単なガイダンスを受け――解散。

 明日は個別の魔法力測定と簡単な健康診断、明後日からは早速通常授業がスタート。


 こうしてルインの学生生活が静かに幕を開ける……はずだった。


 クラスガイダンスを終えた彼が、上履きを履き替えて下校しようとしたそのとき、ピンポンパンポーンと軽快な電子音が響く。


「――一年A組、ルイン=オルフォードくん。至急生徒会室まで来てください。繰り返します。一年A組――」


 突然の呼び出し、それも声の主は生徒会長アイリス=ロンド。


(無視するわけには……いかないよな)


 わざわざ校内放送を使い、至急の呼び出しを掛けてきたところから判断するに……昨日の一件について、彼女がなんらかの情報を掴んだことは間違いない。

 ここで無視を決め込めば、後々面倒なことになるのは、火を見るよりも明らかだ。


(……とりあえず、行ってみるか)


 ルインは仕方なく上履きを履き直し、アイリスの待つ生徒会室へ向かうのだった。



 第三校舎の三階――生徒会室の前に立ったルイン。

 彼が両開きの扉をコンコンコンとノックすれば、「どうぞ」と鈴を転がしたような美しい声が返ってきた。


「失礼します」


 生徒会室の扉を開けるとそこには、生徒会長アイリス=ロンドの姿があった。

 部屋の最奥に置かれた生徒会長専用のデスク――そこに腰掛けたアイリスは、ルインの姿を確認するなり柔らかく微笑む。


 アイリス=ロンド。


 白いリボンでハーフアップにされた、桜色の美しい長髪。

 身長は百六十センチ。

 クルンとした紺碧(こんぺき)の瞳と柔らかい口元、とても可愛らしい顔立ちだ。

 上は赤を基調としたブレザーに白いブラウス、胸元は品のある濃紺のリボンで留め、下は可愛らしい白のミニスカートに黒のニーハイソックス。

 張りと艶のある健康的な肌・行儀よく上を向いた大きな胸・制服の上からでもわかる魅惑的なボディライン――百人が百人とも振り返るような絶世の美少女。


 およそ一日ぶりにアイリスと対面したルインは、


(……科学の進歩というのは恐ろしいな。まさかこの『眼』をもってしても、『本物』にしか見えないとは……)


 パッドという邪法(じゃほう)によって、Dカップ相当へ盛られた胸の自然さに戦慄(せんりつ)していた。


「いらっしゃい、ルインくん。急に呼び出してごめんなさいね」


 アイリスはニコニコと天使のような微笑みを浮かべながら、ルインのもとへ歩み寄り、「さっ、入って入って」と奥へ入るように促し――後ろ手にカチャリと部屋の鍵をしめた。

 これでこの部屋は完全な密室、退路は完全に断たれてしまった。


「……会長?」


「んー? ふふっ」


 生徒会の主は「何か問題でも?」とばかりに、妖しい微笑みを浮かべる。


「はぁ……」


 どうやらこれは、思っていたよりもずっと面倒なことになりそうだ。

 ルインはそんなことを考えながら、小さなため息をこぼすのだった。

※とても大事なおはなし


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