これから数年もすれば、自律走行車に乗る人も出てくるだろう。当面は自律走行車の外観はわれわれが見慣れたもので、これまでと同じようにハンドルやペダル、ダッシュボードがある。しかし、やがてはこれらの装備も、なくなるとまではいかなくとも、大きく変化するはずだ。
そしてそれが自動車デザイナーたちの関心を集めている。新しい可能性が開けるからだ。座席を回転させて後部座席の搭乗者と向かい合ったり、窓のスペースに映像が表示されたりと、その可能性は尽きない。
一方で、新しい問題も生じる。特に重要になるのが、エアバッグをどうするかという問題である。前方を向いてシートベルトを付けた搭乗者の前部にエアバッグを設置するという、現在のモデルは通用しなくなるからだ。
ドイツの自動車部品メーカーであるZFフリードリヒスハーフェンは、優れた解決策を思いついた。各座席の側面に取り付けられた、ユニークな外観のエアバッグだ。
どの方向を向いていても守ってくれるエアバッグ
このエアバッグは現在の自動車用につくられたもので、側面衝突の際に搭乗者同士が頭をぶつけないように設計されている。しかし、座席に取り付けられることから、将来も利用できると同社は考えている。
同社のプレスリリースには、「座席一体型のこの装置は、将来の自動車や新たなモビリティソリューションに向けた、先進的な内装コンセプトに対応するためにも貴重なものとなるでしょう」とある。
よくわからない言葉が多いのは確かだが、要するに、ハンドルが姿を消したあとは座席が安全対策の中心になるということだ。
現在のクルマには、おおむね8個ものエアバッグが搭載されている。ボルボは、さらに歩行者とぶつかったときにフロントガラスの下側から膨らむ歩行者用エアバッグ[日本語版記事]まで開発している。フォードは、「シートベルトのエアバッグ」といえるものを実用化している。
これらのエアバッグは、すべて同じ原則に基づいて作動する。高度なセンサーシステムが揺れを感知すると、わずか0.03秒でエアバッグを膨らませる。エアバッグはその後、数カ所に配置された排気口によって急速にしぼむことにより、体への衝撃を吸収するのだ。
「エアバッグは、力を制御して運動エネルギーを減少させるだけでなく、搭乗者が車外へ飛ばされるのを防ぐこともあります」と、米国道路安全保険協会の衝突試験センターを運営するラウル・アルベラエスは説明する。
ZFの新しいエアバッグは、膨らむと、こぶしを突き上げた腕のようにも見える。やや不格好ともいえる形状と高い膨張圧は、搭乗者の体を定位置に固定し、揺さぶられないようにするためのものである。センターコンソールがなくても機能するところが、エアバッグメーカーのタカタが開発し、ゼネラルモーターズが採用した同様のシステム[PDFファイル]とは異なる点だ。
各座席の両側に高機能エアバッグを設置することにより、搭乗者がどの方向を向いているかにかかわらず保護することができる。これは、前が見えることにあまり意味のない、大型の乗り物にも応用できそうだ。
当然ながら、自律走行車に大きく期待されているのは、いつの日か衝突をほぼゼロにすることだ。だからといって、将来のロボットカーに、もはや安全装置の役割はないということにはならない。
「ロボットカーは100パーセント衝突を起こさないと思われるからといって、クルマの安全装置を徐々になくしていくのは賢明ではないと考えています」と、米国道路安全保険協会のアルベラエスは述べる。道路では、人間による運転もまだ当分は続くはずだし、完璧な者などいない。それがたとえロボットだとしても。