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外れスキル《木の実マスター》 〜スキルの実(食べたら死ぬ)を無限に食べられるようになった件について〜 作者:はにゅう@『死者蘇生』発売中!

第三章

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怒り


「久しぶりですね、レーナさん。何をしていたのですか?」

「え、えっと……色々です」

「その色々を聞いているのですが、まあいいでしょう」


 レーナは、聖女と目を合わせないようにして会話を終わらせようとする。

 今すぐにでもここを離れたい気分だ。

 聖女のことを知らないアイラは、ペコリとお辞儀をして見つめていた。


 どうにかして会話を切り上げないといけない。

 不幸中の幸い――ここにライトがいたとしたら、もっと気まずい空気になっていただろう。

 レーナはひとまずそのことにホッとしていた。


「そういえば、邪龍が現れたみたいですね。確か貴女もその場にいたのでしょう?」

「は、はい……」

「せっかくなら倒してくだされば良かったのに。貴方は《剣聖》のスキルを持っているのですから」


 聖女はグチグチと小言を連ねる。

 しかし、レーナはそれを受け止めるだけだ。


 聖女はレーナに期待しすぎている。

 《剣聖》の能力を、自分が目覚めさせたのだと信じているらしい。


 厳しい言葉、冷たい口調、ミスした時の失望の目。

 これらがトラウマとなって、レーナは何も言い返すことができない。


「貴女がチャンスを逃したせいで、他の人間たちに被害が出るのかもしれないんですからね。それを忘れないでください」

「すみません……」

「貴女は英雄となる人間なんです。邪龍なんて一人で倒せなくてどうするのですか」

「ごめんなさ――」


「ま、待ってください! レーナさんを責めるのはおかしいと思います……!」


 レーナの謝罪を遮って。

 隣にいたアイラが、勇気を出して話に入ってくる。


 聖女が言っていることの理不尽さは、実際に邪龍を目にしたアイラが一番分かっていた。

 あの化け物を一人で倒すことなど不可能だ。

 むしろ、生きて帰れただけで褒められてもおかしくない。


 それなのにもかかわらず、レーナがここまで責められるのは絶対に間違っている。

 それだけは自信を持って言えた。


「レーナさん。この女の子は?」

「な、仲間です」

「はあ? 仲間?」


 聖女はレーナにジロリと目を向ける。

 仲間――という言葉が引っかかったようだ。


 アイラのことなど全く見ようとしていない。


「仲間ってこの子がですか? 冗談ですよね? それじゃあ私が紹介した仲間はどうなったのですか?」

「……すみません」

「それにこの子、冒険者ではなさそうですけど。まさか農民? 農民を仲間にしただなんて言わないですよね?」

「……」


 レーナは、聖女の質問全てに濁すような答えをする。

 それは、もはやイエスと答えているようなものだ。


 聖女は怒りを通り越して呆れたように笑った。


「ふざけないでください。農民を仲間にする英雄なんて聞いたことがありませんよ。農民にまともな人間なんていませんから」

「な、なんでそんな酷いことを言うんですか……! 私を馬鹿にするのはいいですけど、農民のみんなまで馬鹿にするのはおかしいです!」


「貴女は身の程を知りなさい! 何と言ってレーナさんをたぶらかしたのかは分かりませんが、貴女は英雄の邪魔をしようとしているのですよ!」


 聖女は我慢ができなくなったのか、口答えしてきたアイラを黙らせるように大きい声を上げる。

 そして、ドンと強くアイラの体を突き飛ばした。


「農民にこの街は似合いません。畑に戻った方が身のためです。そして、年寄りになるまでそこで暮らしてください」


 聖女はそう言い残すと、もう一度レーナを睨んで背中を向けた。

 その背中だけでも怒りが伝わってくる。

 聖女が角を曲がり、見えなくなったところで。


 その場に立ちすくしていたレーナは、転んでいるアイラに駆け寄った。


「ア、アイラちゃん……ごめんね」

「っぐ、ぐすっ……」


 レーナに抱擁され、何とかこらえていたアイラも悔しさで涙を流す。

 レーナの胸に顔を押し付け、その服を涙で濡らしていた。

 いつもなら絶対に見せない姿であり、相当ショックを受けているようだ。


「私……邪魔でしょうか……」

「そんなことないよ。私はアイラちゃんが大好きだから」


 レーナの言葉に反応するように、アイラはギュッと強く抱きしめ返す。

 どうやら安心することができたらしい。


 そんなアイラとは逆に。

 レーナの心の中は、聖女に対する怒りでいっぱいだった。



よくもアイラを……


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