新スキル
「ア、アイラ……これは?」
「スキルの実です。このまま邪龍に立ち向かうよりは、こっちの方が何倍も安全だと思います」
アイラは無理やりにでもライトにスキルの実を持たせる。
それほどまでに、邪龍と戦うことに危機感を感じているようだ。
アイラはいつもスキルの実を持ち歩いているのだろうか。
今はどうでもいいことだが、ちょっとだけ気になってしまった。
「ライト、大丈夫……?」
「ああ、心配するな。何とかしてみせるよ」
不安そうなレーナを励ますように。
ライトは意を決してスキルの実を飲み込む。
あの時と同じ感覚。
体が熱くなり、ズキンと頭に痛みが走る。
今回も問題なくスキルは獲得できるようだ。
そして頭の中で――《虫耐性》という言葉が浮かび上がった。
「アイラ、このスキルは――!」
「……ダメです。虫が相手じゃないと意味がありません」
「ちょ、ちょっと――きゃ!?」
三人が話し合っているところに、邪龍が大きな火球を放つ。
レーナは高くジャンプし、ライトとアイラは低くしゃがむことで何とか回避できた。
最初は邪龍も警戒していたが、もうその警戒は解けてしまったらしい。
これから容赦のない攻撃が始まることになる。
そう判断したレーナは、抜いた剣を邪龍に向けた。
「レ、レーナさん!」
「大丈夫だよ、アイラちゃん! 防御に集中すれば、何とか耐えきれると思うから! その間にライトは頑張って!」
そう言うと、レーナは持ち前の素早さを生かしながら邪龍に近付いていく。
完全に邪龍の注意はレーナへと向いた。
レーナが時間を稼いでくれているうちに、ライトは効果的なスキルを獲得しなくてはいけない。
「ライトさん、今のうちに!」
「わ、分かってる!」
ライトはアイラに促されるまま、もう一つスキルの実を飲み込む。
今度頭の中に浮かんできたのは《武器耐久値上昇》。
……少しだけ嫌な予感がした。
「アイラ、これは?」
「今は役に立ちそうにないです……」
「クソッ!」
続けざまにもう一個。
ライトはスキルの実を飲み込む。
そこで獲得したのが――《猫寄せ》。
アイラに聞くまでもない外れスキルだ。
「一応聞くけど、アイラ」
「ちょっと羨ましいけど全然ダメです……猫に懐かれやすくなるだけです」
「な、なんだよそれ――うおっ!?」
ドシンと大きく廃館が揺れる。
レーナを狙った邪龍の攻撃が、廃館の床にヒットしたようだ。
ライトはこけそうになるアイラを支え、倒れた柱に身を隠した。
「きゃああ!」
その柱に、邪龍と戦っていたレーナが叩きつけられる。
《剣聖》のスキルがあったとしても、数分の時間稼ぎで精一杯らしい。
目の前にいるのは間違いなく最強格の敵だ。
「ラ、ライトさん……」
「くっそおお――!」
絶望的な状況に。
ライトは投げやりと言っても過言ではない勢いでスキルの実を飲み込む。
邪龍がそこまで迫ってきており時間もない。
そんな中でライトが獲得したのは――《睡魔》だった。
「……! ライトさん! これなら!」
「あ、ああ!」
ライトが立ち上がると。
白いモヤモヤが、邪龍の鼻、口、耳の中へと入っていく。
レーナを吹き飛ばしたことで油断していた邪龍では、それを回避することはできない。
そして、数秒もしないうちに邪龍は大きな音を立ててその場に倒れた。
「レーナ! 今のうちに逃げるぞ!」
「いってて……邪龍は」
「今は眠ってるだけだ! いつ目を覚ますか分からない。とにかく逃げるぞ!」
ライトは、レーナとアイラの手を取って廃館から飛び出す。
今自分たちにできるのは生きて帰ることだけだ。
少なくとも、邪龍は三人で戦うような相手ではない。
ギルドに報告する義務がライトたちにはある。
こうして三人は、奇跡的に生き残ることができたのだった。
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ついに新しいスキルを獲得することになりました。
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