経験値
「廃館……だな」
馬を使って数時間。
ライトたちの目の前には、見上げるほど大きな廃館がそびえ立っていた。
窓ガラスは割れ、目を凝らすとそこら中にクモの巣が張ってある。
いかにもアンデッドが好みそうな建物だ。
「この中にアンデッドがいるみたいだね。夜になる前には終わらせたいから、もう仕掛けちゃおっか」
「そんな突っ込んで大丈夫なのか……?」
「大丈夫大丈夫! そもそも、本当は私一人でここに来る予定だったからね。二人がいて心強いよ」
レーナは剣を抜いて扉の前に立つ。
今すぐにでも突撃できるほど準備は整っているらしい。
元々は一人で来る予定だったという恐ろしい事実を聞いたが、わざわざそれを言及することはしなかった。
「ライト、今さらだけどその剣で良かった?」
「うん、問題ないよ。……貸してもらっといて何だけど、この剣結構高いやつじゃないのか?」
「聖女さんに無理やり買わされたやつだからね。質はいいと思うよ」
アハハと笑い、ライトの最終準備ができたことを確認すると。
レーナは朝と同じように扉を勢いよく開ける。
廃館の中は確かに暗かったが、窓から入ってくる太陽の光によって、何とかアンデッドの姿を確認することができた。
この程度ならいつも通り動くことはできるはずだ。
現にレーナは、一直線にアンデッドの元へ走り出している。
「くらええええぇぇぇ!」
この廃館の中にいるアンデッドは大きく分けて二種類。
一つがゾンビのように腐っていながらも肉体は持っているもの。
もう一つがスケルトンのように骨の体しか持っていないもの。
その種類によって倒し方が違ってくるが、レーナはそれをしっかりと理解していた。
ゾンビが相手の場合は、正確に心臓部分を破壊し。
スケルトンが相手の場合には、大胆に背骨を両断する。
そしてその身のこなしは、まさに《剣聖》としか言えなかった。
《剣神》を持つライトでさえ、ここまで素早い動きはできない。
レーナは《剣聖》の力を得てからの一か月間、計り知れない努力をしていたのだろう。
その様子を、隣のアイラもじっくりと見守っている。
「やっぱり凄いです、レーナさん。《剣聖》のスキルを使いこなしてます」
「使いこなすことができたら、あのレベルにまでなるのか……」
「……そうみたいですね。スキルを持っているのと使いこなせるのとでは大きく違いますから」
ライトとアイラが感心しているうちに、レーナの手によって一階にいるアンデッドは全て片付けられることになった。
時間にして僅か数分。
多くの敵に狙われながらも、その身は一回も攻撃を食らっていない。
拍手したくなるほどの腕前である。
「ライト! 一階はもう終わったよー!」
「ああ、凄いな……」
「この一か月で嫌というほど実戦経験をしたからね!」
レーナはライトの目の前でピースを作る。
激戦を繰り広げた後とは思えないほどの笑顔だ。
これなら、本当に一人で来ていたとしても問題なかったであろう。
そう感じさせるほどに圧倒的な強さだった。
「ア、アイラちゃんも見てた?」
「はい、素敵でした」
「――!」
うぇへへ――と、レーナの顔が緩む。
この表情のままで戦えば、今度は簡単に負けてしまいそうだ。
アイラを連れてくる時の問題点は。
守る必要があるということよりも、レーナの集中が切れることの方が大きいのかもしれない。
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