レーナのお願い
「ごめん、お待たせ」
「大丈夫でしたか……? ライトさん」
「うん、また変な奴に絡まれたよ。この格好でギルドに来ると喧嘩を売られやすいのかもな」
レーナの目の前で。
ライトとアイラはまるで何事もなかったかのように会話を始める。
あれほどの身のこなしができるなら、冒険者としても十分に活躍することができるはずだ。
むしろ、農民として留めておく方がもったいないだろう。
ライトと離れてからたったの一か月。
いつの間にこれほどの強さを身につけたというのか。
「ラ、ライト。今のはどういうこと? それに、そのお金はどうしたの?」
レーナは満を持してライトに問いかける。
詳しく説明してもらうまで、ここを動く気はない。
ライトもそのレーナの気持ちを察したようだ。
「この金はオーガを倒した報酬だよ」
「オーガ……? それってあのオーガだよね? それなら並みの人間が倒せる相手じゃないけど……」
「ああ、《剣神》のスキルがなければ絶対に無理だったな」
剣神――と、確かにライトはそう言った。
レーナの頭で何かが引っかかる。
ライトのスキルは《剣神》などではない。
スキルの実は一度しか食べることができないため、相対的にスキルは一人一個だけだ。
ならばどうして。
レーナがそれを聞こうとしたところで、ライトが先に口を開く。
「信じられないかもしれないけど、俺はスキルの実を何個食べても死なないみたいなんだ。それで、今は《木の実マスター》と《剣神》の二つを持ってるということになる」
そう言うと、ライトはアイラの方に目を向けた。
「まあ、これはアイラが教えてくれたんだけど」
「アイラちゃんが……?」
「えっと、私のスキルは《鑑定》なので、ライトさんにそれを伝えることができました」
アイラの言葉。
レーナの中で、全てが繋がったような気がした。
先ほど、レーナが《剣聖》のスキルを持っていると知っていたこと。
ついでに、ギルドで暴れている男のスキルも見抜いたこと。
アイラが《鑑定》のスキルを持っているというなら辻褄が合う。
そして、そのアイラが言うのだから間違いはない。
ライトは二つのスキルを持っているのだ。
「……すごい! すごいよ、ライト! 聖女さんに絶対無理だって言われたのに!」
今の状況を理解したレーナは、ライトの手を取って心から喜ぶ。
農民としてしか生きられないと宣告された時のライトの顔を、レーナは今でも覚えていた。
その時に感じた悔しさはレーナも同じである。
ライトと別れた後、聖女に何度も頼み込んだが解決法はないと言われるだけ。
休みを確保できた日には資料を読み漁ったが、それでも良い情報は集まらなかった。
そんな日々が積み重なり、レーナも諦めかけていたところでの再会。
レーナは出そうになった涙を何とかこらえる。
「本当に良かった……ずっと心配してたから」
「レ、レーナ?」
「ライトにアイラちゃん。お願いがあるんだけど……いいかな?」
アイラがコクリと頷くと、レーナは笑みをこぼして話を続けた。
「どうか……私の仲間になってください」
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