困惑
「じゃあ、用事を済ませてくるから二人はここで待っててくれ」
「分かりました」
「分かったー」
ギルドの前に来たライトは、レーナとアイラを入り口に立たせて一人で中に入る。
レーナを一緒に連れて行くと、先ほどのようにジロジロと見られることが分かっているため、今だけは共に行動することができなかった。
レーナとアイラ――どちらも初対面同士。
気まずい空気だが、仕方のないことだと割り切るしかない。
「アイラちゃんも農民さんだったよね?」
「は、はい……えっと」
先に話しかけたのは――年上のレーナの方である。
特に話題も見つからないため、自己紹介の延長線上のような会話だ。
アイラも何とか会話を続けようとアワアワしているが、やはり気の利いた言葉は出てこない。
「い、いつもライトさんにお世話になっています」
「あはは、そんなかしこまらなくても大丈夫だよ」
「ですが……凄く有名な御方みたいですし、それに凄く強いスキルを持っていらっしゃるので」
「別にただの冒険者だから……って、え? どうしてスキルのこと――」
『おいテメェ! 舐めてんのか!』
レーナがアイラの言葉に違和感を覚えた直後。
ギルドの中から、男の雄叫びが聞こえてくる。
乱暴な言葉に、怒りの感情がこもった声色。
冒険者というのは、どうしても気性の荒い男が多い。
そんな冒険者たちが集まるギルドでは、このような暴動は特に珍しいことでもなかった。
二週間に一度くらいは、揉めている男たちを見ることができる。
「はあ……まったく」
レーナはうんざりとしながらギルドの入り口をくぐる。
ちょうど中にライトがいるため、この暴動は早めに終わらせておきたい。
巻き込まれればただでは済まないはずだ。
視線の先では、二メートルはくだらないほどの男が椅子を振り回していた。
「めんどくさいなあ」
「気を付けてください、レーナさん。あの男の人《間合い強化》のスキルを持っています。近付きすぎると危ないかもしれません」
「え?」
アイラはレーナの隣でボソッと呟く。
そして、その内容は到底聞き流せるようなものではなかった。
どうしてそんなことを知っているのか。
あの男には初めて会ったはずである。
レーナの頭に大きな疑問が生まれるが、今はそれを聞いている暇はない。
「このガキがああああぁぁぁぁ!」
「ライト!」
肝心の大男が、何故かライトに向かって攻撃しようとしているのだ。
剣で斬り付けようとしているわけではないが、あのパワーなら椅子だとしても大怪我を負うことになるだろう。
圧倒的な体格差に、何も武器を持っていないライト。
勝てるはずがなかった。
「――この!」
「オゴォ!?」
しかし。
現実はレーナの想像と真逆である。
ライトは、近くに立てかけられている老人の杖を手にして大男の攻撃を躱すと、その隙だらけの腹に力いっぱい押し込む。
たったその一撃だけで、大男は気を失って倒れこんだ。
的確な状況判断――あれほど深い一撃なら、当分起き上がることはできないであろう。
ベテラン冒険者たちでも、あそこまで無駄のない動きをする者はいない。
レーナの知っているライトとは大きく違っていた。
「ど、どういうことなの……」
ライトとアイラの異常さに、レーナは困惑することしかできなかった。
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レーナも異変に気付いたみたいです。
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