レーナ
「ま、まさか、レーナ?」
「どうしました……? お知り合いの方ですか?」
突如目の前に現れたレーナに驚きを隠せないライト。
アイラは、それを不思議そうに見ている。
やはりレーナのことをアイラは知らないらしい。
今や英雄とまで称されているレーナだが、農民として暮らしていれば覚える必要はない名前だ。
「……あの人、《剣聖》のスキルを持ってますね。凄い……」
それでも。
アイラはレーナの凄さを理解できていた。
聖女があれほど驚き、国の宝とまで言われるようになったスキルである。
流石のアイラも反応せざるを得ない。
「おい、レーナだ」
「なんでこんなところに?」
「知らねえよ。わけわかんねえ」
「あいつほどになったら、ギルドになんて来なくても山のように仕事が貰えるんだろうなあ……」
「サインでも貰ってこいよ。高く売れるかもしれねえ」
ひそひそとレーナを見ながら冒険者たちが話す。
本人たちは聞こえないようにしているようだが、それにしては声が大きい。
ライトの耳にすら入ってくる声量のため、きっとレーナにも聞こえているだろう。
ライトと離れた一か月間で、このような視線をレーナは何度浴びてきたのだろうか。
ライトの記憶の中にいるレーナは、少なくとも人の視線が苦手なタイプであった。
今の状況などもってのほかだ。
昔のレーナであれば、ここから逃げ出していてもおかしくない。
「……アイラ、一旦ここを離れてもいいか?」
「え? どうしてですか?」
「その……色々あって」
「? はい、私は大丈夫です」
ライトの言葉に従って、アイラも椅子から立ち上がる。
ライトがここから離れようとする理由は一つ。
今の姿をレーナに見せたくなかったから。
レーナは既にライトのことなど忘れているかもしれないが、それでもここにいるのは苦しい。
農民にしかなれなかったライトと、全てを手に入れたレーナとでは天と地ほどの差がある。
今のライトには、レーナの姿が眩しすぎた。
レーナに背中を向け、ライトは逆方向へとアイラを連れて歩き出す。
その一歩目を踏み出した瞬間だった。
「――ちょ、ちょっと待って!」
レーナがライトを呼び止める。
「なっ……!」
どうして――確かに顔は見られていなかったはずだ。
まさか背中だけでライトだと判断したというのか。
そんな考えは、すぐさま自分の頭の中で否定される。
いくら長い時間一緒にいたとはいえ、レーナほど成功を収めているものが、わざわざただの幼馴染を覚えているとは思えない。
きっと人違いなのだろうが、そうだとしても少し気まずかった。
「えっと――」
「ライトだよね!? やっと会えたよ!」
「え? 俺のこと覚えて……」
「当たり前じゃん! 一目見ただけでも分かったよ!」
ライトが振り返ると、レーナは嬉しそうにグイグイと近付いてくる。
その顔は何も変わっていない――ライトの知っているレーナだ。
「ねえ、今から時間ある?」
「無いことはないけど――」
「ここじゃ話しにくいから場所を移そうよ! 話したいことがいっぱいあるんだから!」
ライトの返事を最後まで聞くことなく。
レーナはガシッと手を取ってライトを連れ出す。
周りの冒険者たちのジロジロとした視線が痛い。
まともに抵抗することすらできずに、ギルドの外へと連れて行かれることになる。
「ラ、ライトさぁん!」
ただ。
困ったようにライトを追いかけるアイラが、少しだけ可愛かった。
ハイファンタジー1位ありがとうございます!
レーナはライトのことをちゃんと覚えていたみたいです!
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