一対一
「やっぱりアイツか……それにあのモンスター」
「ラ、ライトさん、あれはオーガです。本来ならこんなとこにはいないはずですけど……」
ライトは剣を握る。
ギルドで喧嘩を売ってきたジーンを助けることに抵抗はあったが、あのオーガを放置しておくわけにはいかない。
オーガの進行方向を地図と照らし合わせると、このままでは人の住む村へ衝突することになる。
今からライトがギルドに戻ってこの情報を伝えたところで、手遅れになる可能性の方が圧倒的に高かった。
「た、戦うんですか?」
「うん――というか逃げられない。目が合ったし」
心配そうに隣でライトを見つめるアイラ。
アイラを連れて逃げる選択肢もあったが――時すでに遅し。
オーガと目が合ってしまい、完全に敵として認識された後だ。
素の身体能力では、オーガの方が何十倍も上である。
走って逃げたところで、簡単に追いつかれてしまうだろう。
ならば背中を見せる理由はない。
《剣神》に絶対的な信頼を寄せているわけではないが、不思議と負ける未来が見えなかった。
「行ってくる」
ライトはアイラを残して動き出す。
攻撃を仕掛けるならジーンたちがいる今がチャンスだ。
いくらジーンのような男であれど、ここでライトに敵対するようなことはしないはずである。
囮程度にはなってくれるかもしれない。
オーガはヒョイとジーンをどかして、向かってくるライトをじっと見つめる。
(……っ、やっぱり隙が無いな。どうする……?)
ライトはオーガの間合いの一歩手前で足を止める。
スライムとは違って、オーガ相手では不用意に踏み込むことはできなかった。
アイラの説明によると、《剣神》は物理的な防御力が上がるわけではない。
つまり、オーガの一撃を食らえば即死する可能性だってあるのだ。
お互いに睨み合う時が流れる。
「――おい、お前! 何やってんだ! 早く助けろ!」
その沈黙の空間を破壊したのは、オーガの後ろで腰を抜かしているジーンだった。
助けてもらう側とは到底思えないようなセリフを吐き、ライトに怒鳴るようにして声を上げている。
しかし、今回はそれが功を奏したらしい。
ずっとライトを見つめていたオーガが、チラリと反応するようにジーンの方へ目を向けた。
野生の本能なのか――それは分からないが、想像以上のサポートだ。
ふざけるなと言い返したくなる気持ちを抑えて、ライトは一歩目を踏み込む。
オーガが慌てて殴りかかる頃にはもう遅い。
その硬い皮膚をまるで豆腐のように切り裂き、そのまま首を跳ね飛ばした。
(凄いな……まるで自分じゃないみたいだ)
ライトの手に残る手応え。
《剣神》のスキルによって、自分のイメージ通りに体が動く。
本来なら絶対にできないような芸当も、剣を持てばそれが可能だった。
「ラ、ライトさん……! 大丈夫でしたか?」
「うん。このスキルは本物だったよ」
戦いの決着を見て、アイラはトテトテと近付いてくる。
その表情にはもう不安そうな気持ちはない。
ライトの無事を確認すると、迷いなくオーガの首から耳を切り取った。
「この耳をギルドに持っていけば換金してもらえるでしょうか?」
「う、うん……多分」
アイラはその耳をライトに見せつけてニコニコと笑う。
自分はできるパートナーだということをアピールしているようだ。
少しだけアピールの仕方を間違えている気がしないでもないが、今アイラの厚意を無下にするのも残酷である。
ライトは引きつった笑みを浮かべながら、その耳を受け取ることになった。
「な、なあ……今の奴ら、ギルドで会ったことあるよな」
「ジーンがちょっかい出した奴らだろ……」
「あの野郎、オーガを倒しやがったぞ」
「お前、やべえ奴に顔覚えられたんじゃねえの?」
ジーンとその仲間たちは。
ライトに声をかけることもできず、ただ離れていく後ろ姿を見ていることしかできなかった。
ハイファンタジー5位本当にありがとうございます!
この話で一章は区切りとなりそうです!
これからストーリーが進み始めますので、ぜひぜひお楽しみに!
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