この原則こそが Segsyoxafu の本質であり、これを任意の言語(方言とも)に適用することによって綴りが得られます。ただし、筆者(渡邉隆之=Vatanabe Takàjuki)は学問的な手続きを無視して音韻史や語史などについて独自の主張をすることを可能な限り避けるべきと考えており、これらについての学問的な解釈に揺れがある場合もある為、この原則の適用によって得られる綴りにも揺れが生じる場合があります。
今のところは日本語(Nixongo)と英語(Inglïsc)のみでしか実践できていませんが、ラテン文字などの音素文字で記述する限り、全ての言語にそのまま適用できる原則となることを理想としています。
※ここでは分節音素を担う記号と超分節音素を担う記号とを合わせて「文字」と呼ぶ。
【適用に必要な知識】
【関連文献】
- 西田龍雄.『言語学を学ぶ人のために』世界思想社, 1986.
- 『音声学基本事典』城生佰太郎, 福盛貴弘, 斎藤純男 編, 勉誠出版, 2011.
- 『明解言語学辞典』斎藤純男, 田口善久, 西村義樹 編, 三省堂, 2015.
- 言語学の基礎. 2009. http://culture.cc.hirosaki-u.ac.jp/english/utsumi/linguistics/lingusitics_ja.html.
- うちやま・かずや.「日本語学用語集」にほんご表現のページ. http://nifongo.style.coocan.jp/qaglos.html.
- 「ラテン文字一覧」Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/ラテン文字一覧.
【原則1:初期状態の設定】
適用の対象とする言語の音韻史の開始時点(特に必要がない限り、音韻体系の全貌が概ね明らかな範囲での最古)を「基準時代」、その時点での音韻体系に基づく綴りを「初期状態」と呼び、下記に従って初期状態を設定する。
- 基本的に当時の文献に現れる綴りに基づく
- 一般的な文字の音価に鑑みて直感的に扱い易くなる様に整える(日本語:正 → syag/seg, 中 → tyug;古英語:c → k [k], c [t͡ʃ]; cg → ġġ)
- 1文字が音素列を担うことの無い様にする(古英語:x → hs/ks)
- 音価に差の無い文字の組が発生しない様にする
【原則2:綴りの維持】
下記に従って、基準時代以後に起きた語形変化を初期状態に反映させていく。記述しようとする文章の基となる音韻体系に至るまでこれを続ける。
- 時系列に従う
- 常に綴りからその音価が規則的に得られる様にする
- 音価の変化が完全に規則的なものである限り、綴りを元のまま維持する(失われた規則性は扱わない)
- 例外的な変化によって音価に最小対が発生した場合、その変化の仕方(脱落・添加・交替など)に従って綴りを変化させる
- 音素の分裂(一次分裂・二次分裂)や隣接した音素の一体化によって綴りに対応する音価に最小対が発生した場合、それに伴って文字を派生させる(派生前の文字は未分化)
- 特定の限られた環境に於ける文字同士の音価の繋がりが例外的に失われている場合、文字を派生させること無く、記号を以ってこれを示す(これを「分音」、分音を示す記号を「分音記号」と呼ぶ)
- 派生や分音によるものを除き、綴りの変化と同時に音価の規則を増やしてはならない。ただし、特定の形態素との関係に縛られない形態音韻論的な規則であれば、この制限を免れる為の時間差に相当するものを持つとみなす
- 語史が不明であることなどにより適切な綴りが不明な場合、わかる範囲での語史に従いつつ、文字の組み合わせが最も無標になる様にする
- 借用などによって新たな音素が発生した場合、新たな文字にそれを担わせる
- 借用語は、その借用時点までに得られた文字や分音記号のみを以って、できる限り借用元の綴りに寄せて綴った後、上記の規則に従って語形変化を反映させていく
【原則3:音綴の一致】
綴りと音価の関係が直感的になる様に、上記「綴りの維持」に対して音節の構造などに関する下記の制限を加える。
- 常に音韻上の音節の有無と綴り上の音節の有無とが揃う様にする
- 音節の有無の中和や音節主音的子音が発生し、それが母音音素の有無の中和によるものである場合、母音音素を担う文字を対応する位置に置く(cf. 古英語 botm)
- 超分節音素とそれを担う文字は、その被さる対象(音節など)の位置が揃う様にする
- 統語的な条件で一律に起きる音素の出没については、その出没が発生するまでの語史とは無関係に、その音素を担う文字の内その環境で最も無標なものに同様の出没をさせる(日本語の東京式アクセントに於ける修飾語になれる単語や接語の語末など)
【原則4:文の綴り方】
- 単語(接語を含む)同士はスペースで分離する
- 不完全な複合語はその前後要素をハイフンで繋ぐ(何を以って不完全とするかは言語による)
- 音素の脱落によって内部に品詞の境界を持つ音節が発生した場合、綴り上ではその境界にスペースではなくアポストロフィを挟む
- 単に俗な発音による音素の脱落であることを敢えて示したいという場合にもアポストロフィを使って良い(脱落した音素の数に関係なく一か所につき一つまで)
- 文頭は常に大文字にする
- 名詞(代名詞を除く)が定性(definiteness)を持ち、他の語句によって限定されていない場合、その語頭を大文字にする
※ラテン文字以外の文字体系で綴る場合はこの限りでない。
【正書法家の心得】
單り遊行すること犀牛の如くせよ。
「國譯諸經要集」『国訳大蔵経. 経部 第11巻』国民文庫刊行会 編, 国民文庫刊行会, 1935, p. 6-10, doi: 10.11501/1207400. https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1207400/250,(引用 2020-07-07).
犀の角のようにただ独り歩め。
『ブッダのことば-スッタニパータ』中村元 訳, 岩波文庫, 1984. Amazon Kindle: https://a.co/dENlSrR,(引用 2020-07-07).