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なぜコロナ不況でも株は下がらない?「出口なき金融政策」の行方

「犬より大きい尻尾」が抱えるリスク
小出 フィッシャー 美奈 プロフィール

分かりやすい例が為替だろう。世界の貿易は年間で19兆ドル(ジェトロ、2018年)。一方、世界の外国為替の取引は、「1日で」6.6兆ドル(BIS、2019年)に上る。稼働日数を250日とすると、貿易額の80倍もの為替取引が行われていることになる。その多くはスワップ(currency swap、異なる通貨の元本や金利を交換する取引)などのデリバティブだ。

こうして実体経済より大きく膨らんだ金融市場が暴走する時、それを制御すべき当事者が受けるプレッシャーも並大抵ではない。リーマンショックの時にはバーナンキ議長は胃の調子がおかしくなって医者にかかり、ポールソン財務長官はオフィスで吐いた、と自伝や当事者の証言で伝えられる。

「異次元緩和」と社会的不公平

少なくともFRBは一旦「出口」を見つけたが、2013年4月のアベノミクス「異次元緩和」から一度も外に出られないのが、日銀だ。リーマンショック前に100兆円程度だった日銀のバランスシートは6倍になり、犬(GDP)より大きくなった。

中央銀行が巨大なマネーを市場に注ぎ込むことを正当化する理由としては、ひとたび大きな金融危機が起これば社会の末端にまで甚大な被害が及ぶから、ということがある。

でも、それには財政的・社会的コストもかかる。中央銀行が抱える資産の変動・減損や売却時の損失リスク、将来的には保有資産からの受取り金利と支払い金利(民間銀行が法定準備を超えて日銀に預ける超過準備には利息が付く)の間で「逆ざや」が発生するリスクもゼロではない。バランスシート拡大は、青天井ではないだろう。

また、市場の過保護は社会的な不公平も招く。一般勤労者の賃金収入が殆ど上昇しない中で株などの金融資産だけが上昇するなら、個人資産のうち金融資産比率の多い富裕層が恩恵を受けて格差の拡大につながるからだ。

そもそも、中央銀行が危機を防ごうと市場にマネーを注入した結果、そのマネーで新たな投機が起きて市場リスクがもう一段高まってしまうのでは、本末転倒だ。思い切った金融緩和で2000年のITバブル崩壊を乗り切ったアラン・グリーンスパン元FRB議長は喝采を浴びたが、そのつけは2008年の、より大きなサブプライム危機となって返ってきた。

こうした行き詰まりを受けて、金融政策に頼るより、正しい財政政策や資本市場の規制のあり方を考えるべきだという声も高まり、クルーグマン、スティグリッツ、シムズといった世界的経済学者らの提唱が大きな反響を呼んでいる。

薬は常用すると、段々効かなくなってくる。

「最後の貸し手」の最後の手段が失敗すると、どうなるのだろう?

歴史にも回答のない未曾有の危機が怖くて仕方がない。