本来FRBは、2017年の10月からの「出口戦略」で、膨らんだバランスシートを元に戻す計画だった。
資産を売却してその分の資金を市場から引き剥がすというより、「満期が来た米国債をそのまま償還させて(=払戻しを受けて)再投資しない」という穏やかな方法で徐々に市場から資金を吸い上げるやり方だったのだが、なんせ3.6兆ドルも縮小しなくてはならないので、毎月500億ドルのペースで減らしても2024年頃までかかる、という息の長い計画だった。
ところが、市場にマネーを注入するカンフル剤処方は、「行きはよいよい、帰りは怖い」。出口に向かうや否や、市場からも政治家からも猛反発が来る。2018年の12月には、パウエルFRB議長の利上げ発言をきっかけに世界の株式市場が総崩れとなり、トランプ大統領がクリスマスイブのツイートでパウエル議長を「パットの出来ないゴルファー」のようだと名指しで批判して圧力をかけた。
この後、FRBは方向転換をする。昨年7月に、10年以上ぶりとなる利下げを再開。続いて8月には国債の再投資を再開(=満期が来る国債を別の国債に乗り換えて、市場に同じだけの資金を供給)して、バランスシートの縮小をストップさせた。総資産を3.9兆ドルまで縮小(6000億ドル減少)させたところで打ち止めとなったのだ。
更に、昨年10月からは新たに短期米国債を月間600億ドル購入するやり方で、バランスシートを再び拡大させる政策に転じた。
この背景には、上述のレポ市場で9月半ばに異常事態が発生していたことがある。潤沢にマネーが循環していたはずなのになぜか突然資金が干上がり、銀行間金利が10%に急上昇した。FRBが緊急に資金を注入する事態となったのだ(金融機関が手元キャッシュを最小限にして投資に回していることが根本的な要因と考えられる)。
一方、中央銀行から新しいマネーが注入されることになって、株式市場は大いに勢いづいた。2019年の10月以降、新型コロナによる調整まで、S&P指数は15%近く上昇している。
しかしこの反面、近年の市場はすっかり中央銀行(特にFRB)頼みになってしまった。
株価の大きなトレンドとしては、「FRBから市場にマネーが流れている間は株が上がり、反対にFRBが市場からマネーを吸い上げているときは株価が下がる」という、極めて単純な法則で動くようになっている。まるで、アメを与えている間はすこぶる機嫌が良いが、取り上げた途端わぁーっと泣き出して手がつけられなくなる駄々っ子のようだ。