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報われなかった村人A、貴族に拾われて溺愛される上に、実は持っていた伝説級の神スキルも覚醒した 作者:三木なずな

第四章

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48.神至上主義

 ベルンハルトを見送ってから、俺は再び、謁見の間に向かって歩き出した。

 皇帝は今そこにいると聞いたからだ。


 謁見の間につくと、数人の官吏が出てくるところと出くわした。

 官吏達は俺を見て驚く。


 俺はにこりと微笑んで、挨拶をした。


「こんにちは」

「あ、ああ。マテオ……様、ですね?」


 たぶん俺が沈没船を引き上げる時に立ち会ってるんだろう。

 それで海神の俺の姿を見て、今のマテオの姿に戸惑っているんだろう。


「うん、陛下はこの中にいるの?」

「はい、おられます」

「ありがとう」


 俺はそう言って、会釈をして、謁見の間に入った。


「あっ……」


 瞬間、俺は皇帝に見とれた。

 一人で玉座に座っている皇帝は、どこか物憂げな感じの空気を帯びている。

 それがいつにもまして美しかった。


「やっぱり綺麗だ……」


 と、思わず声にでるくらい美しかった。


「えっ……マテオか!?」


 俺の声に反応してこっちを見た皇帝は驚いた。

 ベルンハルトや保管の官吏たちとまったく同じ反応だから、それに慣れた俺は近づき、所定の位置で立ち止まって、皇帝に向かって一礼した。


「うん、僕だよ?」

「その姿はどうしたのだ?」

「その事を報告しに来たの。実は、海神の肉体と自由に行き来できる様になったんだ」

「なんと!?」


 皇帝はますます驚いた。


「それはつまり、どっちの体を使うのか好きにできるという事なのか?」

「うん!」

「おおっ! さすがマテオ。そんな話聞いたことないぞ」

「実は僕も、ちょっとだけびっくりしてるんだ」

「あはは、マテオは冗談もうまいな」


 冗談って訳じゃないんだけど、まいっか。


「それよりも……陛下、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「なんだ?」

「ルイザン教にする寄付を増やしたって聞いたんだけど、それって本当?」

「うむ、本当だ」


 皇帝はにやりと笑った。


「もともと、皇室からルイザン教に寄付はしていたのだ。皇太后などは敬虔な信者で、朝晩の礼拝は欠かさず、巡礼にもでるほどだ」

「そんなに!?」

「帝国では後宮が政治に口出しするのは御法度とされているからな、それは皇帝の生母たる皇太后でも例外はない。直接的な口出しを禁じられているせいで、歴代の皇太后は九割近くがルイザンに帰依して『祈って』来た」

「そうなんだ……」


 何もできないから神頼みって訳か。


「そのルイザン教が、近く神が再臨すると聞いて、皇太后にそれを知らせたら大層喜んでおられてな」


 皇帝は更ににやり、と笑った。


「余の在位中に再臨するなどめでたきこと、これは大いに寄付を増やさなければと仰せつかったのだよ」

「そ、そうなんだ」

「寄付することは元々だし、悪いことではない。それの増額を母である皇太后に頼まれれば断る訳にもいくまい」


 二の句が継げなかった。

 皇帝のそれは、大義名分が完璧だ。


 特に、民衆に向けても。

 皇室が日々贅沢三昧してると思う民衆は結構いる。

 同じ金を使うにしても、帝国の5分の1が信徒といわれているルイザン教への寄付ならば、誰もとがめることはできない。


「ふふ、困った事よ。支出が増えるのだからな」


 皇帝はなんというか……わざとらしく口笛を吹く、みたいな感じで言ってきた。


「この先ますますルイザン教への寄付が増えるだろうな、いやはや困った。神が再審したら何か要求してくるのかな、いやあ困った」


 困ったと言いながらも、まったく困ってない顔でちらちらと俺を見る皇帝。

 俺を溺愛できる口実ができて、本当に嬉しそうな顔をしている。


「たぶん、そんな事は無いと思うよ」

「なに!? なぜだ」


 なぜおねだりしない! って聞こえた。


 俺は苦笑いしつつ、答える。


「だって、相手は神様なんだから。神様が直接人間におねだりするって事は無いんじゃないかな」

「むむむ……」


 いやむむむじゃないだろ。


「な、何も言ってこないというのか?」

「うっ」


 皇帝がなにやら「すがる」感じで聞いてきた。

 罪悪感を感じてしまう。


「ま、まあ。ないわけじゃないのかな? 本で読んだ感じだと……」


 俺は少し考えた。

 皇帝ができない事を、本で読んだ知識から探す。


「神の花嫁、とかかな」

「は、花嫁?」

「うん。神話とか、言い伝えとか。あるよねそういう話」

「う、うむ。あるな」


 皇帝はたじろぎながら頷く。


「なるほど……神の……花嫁……」


 そして何故かうつむいて、あごを摘まんで真剣な顔で考え出した。

 その顔は、俺が謁見の間に入ってきた時の、物憂げな顔と同じように、美しく見えるものだった。


     ☆


 皇帝に辞して、謁見の間を出て、宮殿から立ち去る。

 途中で路地裏に水の張った甕を見つけたから、それを使って水間ワープで屋敷に飛んだ。

 誰かとはちあって驚かしてしまうのも良くないから、屋敷の裏の井戸に一旦でた。


 井戸から、改めて屋敷に戻る。

 今後は、自分の寝室にも常に水を張っておくか。


 ああ、水槽とか置いておくといいのかもしれない。


「あっ、ご主人様――ご主人様?」


 メイドと遭遇した。

 メイドは俺の姿を見て驚いた。


 俺は「あはは」と笑いながら。


「元の姿にも戻れるから、みんなに教えといてね」

「そうなんですか? すごい! 分かりました!!」


 メイドはパッパッと頷き、一瞬で話を受け入れた。


「それよりも、僕になんか用があったの?」

「あっ、そうでした。ご主人様にお客様です」

「客?」

「お二人いらっしゃってます。代表の方はニコ・ヴァルナと名乗ってます」

「ニコさん?」


 って、あのルイザン教の司祭で、「あなたが神か」って聞いてきた人じゃないか。

 その人がなんで? しかも正式に尋ねてくるなんて。


「……」


 少し考えたけど、無視はあり得ないな。


 今渦中のルイザン教。

 知らないところで何かをされると困ってしまう。


 まだ、あって話をした方がいい。


「わかった、案内して」

「はい」


 メイドに案内されて、俺は応接間にはいった。

 そこに先日あったニコと、もう一人の男がいた。


 ニコは俺をみて、首をかしげた。


「お前……いや、君はなにものだ?」


 ああ、マテオの姿だったな。

 マテオの姿を知らないニコが不思議がるのも無理はない。


「マテオだよ」

「むっ?」

「今は事情があってこっちの姿をしてるんだ」

「むむ……」

「もういいよ、後は僕たちだけにして」


 俺がそういうと、案内してきたメイドが退出した。

 ニコが複雑そうな顔をしたのが見えた。


 海神ボディの俺じゃないが、マテオボディの俺はこの屋敷の主だってメイドの反応でわかる。


 それで反応に困っているのがありありとわかった。


俺は二人の向かいに座った。


「それで、僕にどんなようなの?」

「あ、ああ。実はこの――」

「ドミトリ・ミルケという」


 もう一人の男が名乗った。


「ドミトリが、神の再臨を信じてくれなくて。それで神に証拠を賜ればと来たのだが……」


 そう言って俺を見る。

 なるほど、神力を見るためにきたらマテオボディで当てが外れた、という訳か。


「ニコよ、これはどういう冗談だ?」

「いや、まってくれ。本当に神なのだ」

「神の再臨などという嘘を流布した罪は重いぞ。裁判にかけられる事を覚悟するがいい」

「ちょっとまって、裁判ってなに?」

「ふん」


 ドミトリが鼻で笑った。

 子供が――って感じで見下してくるのがありありと分かる反応だ。


「神を騙ったのだ、それなりのバツが必要だろう?」

「そんな」


 ニコは顔面蒼白になった。

 ガタガタと震えだした。


 よっぽどの事をされるのか?


 さすがに、それは見過ごせなかった。

 昨日の今日だけど――。


「ちょっと待ってて」


 俺はテーブルの上に置かれている、客に出した飲み物を使って、水間ワープを使った。


 海底の宮殿の、海神の体が保管されている場所に飛んだ。


「海神様!」


 そこを守っている、二人の人魚が泳いで俺に近づいてきた。

 俺に近づき、笑顔で出迎えてくれた。


「体を使うよ」

「はい!」

「どうぞ」


 俺はレイズデッドを海神の体にかけた。

 次の瞬間、視界が逆転して、目の前が海神ボディからマテオボディになった。

 自分の体を念の為に確認する、うん、ちゃんとマテオだ。


「よし。じゃあこっちの体も保管よろしくね」

「はい!」

「このままここに置いておけばいいんですか?」

「うん」


 俺は頷き、二人にお礼を言ってから、再び水間ワープで飛んだ。


 地上の屋敷の、応接間に。


「あっ――」

「むむっ!!」

「戻ったよ」


 海神ボディとして、二人の前に立つ。


 するとニコはほっとして、ドミトリは震え上がった。


「い、今のは……本当に……」

「神力だ。分かるだろう」

「も、申し訳ありませんでした!!」


 ドミトリはパッと起き上がって、俺に向かって五体投地で頭をさげた。


 なるほど、悪い人じゃないのか。

 とことん神至上主義、ってだけらしい。


「納得してもらえてよかったよ」


 これならニコは大丈夫だ、と、俺はほっとして再び二人の前に座った。


「あっ、ドミトリさんも起きて、そんな平べったくなられると困っちゃうから。さっきと同じように座ってて」

「は、ははー」


 ドミトリは俺に言われて、ものすごく恐縮したまま起き上がって、縮こまってさっきと同じ席に座ろうとした。

 動揺しすぎたのか、ソファーの端っこにぶつかって、何かが落っこちた。


「なに、それ?」

「私は不要だといったのだが」


 ニコは困った顔でいった。


「ニコ!」


 ドミトリは止めたが、ニコは続けた。


「神の真贋を判定するために、念の為に持ってきたものです。神の心臓、と我々は呼んでいる聖遺物です」

「聖遺物か」


 つまり、前の神がのこしていったものか。


「わ、私が悪かった! このようなものを持ってくるなど神への冒涜。許されることではないのは分かっている。だが、なにとぞ」


 再び平べったくなるドミトリ。

 今度はテーブルの上で両手をついて頭を下げた。


 それで溜飲がさがったのか、ニコはすっきりした顔をしている。


「そうなんだ。それよりも、それを見せてくれないかな」

「え? あ、はい! どうぞ!」


 ドミトリは慌てて、恭しく石をさしだしてきた。


 俺はそれを受け取った――直後。

 石が光った。


「な、なんだこれは!」

「神の奇跡だ! 聖遺物が神の手に戻られたのだ、当然だろう」

「そうか!!」


 納得する二人。

 いや、そうじゃない。


 俺はわかる、そうじゃない。


 これは神とはまったく関係ない。


 これは――オーバードライブだ。


 神の心臓は光に溶けて、俺にまとわりついた。


「……ああ」

「ど、どうだろうか」

「うん」


 俺は頷き、ファイヤボールを使った。

 魔力をレイズデッドで一気に使ったが、時間の経過でファイヤボール一回分は回復した。


 ファイヤーボールはまずティーカップの一つを燃やした。

 それを燃やした後、まるで「伝染」するかのように、もうひとつのカップも炎上した。


 更に俺のも、三つ目のカップも炎上した。


 カップが全部炎上した後、「伝染」はとまった。


「魔法が、全体化されるみたいだね」

「魔法の全体化!?」

「そんなの聞いたこともない……」

「神を疑うのか? 自分の知識を疑え」

「あ、ああ! そうだな!」


 慌てて頷くドミトリ。


 ニコとドミトリは、ものすごい信者的な目で、俺を見つめるのだった。

皆様の応援のおかげで、四半期の4位になれました! 本当にありがとうございます!

一つでも上目指して引き続き毎日更新がんばります!


「面白い!」

「続きが気になる!」

「更新頑張れ!」


と思ったら

下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。

面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、素直に感じた気持ちでまったく構いません!

何卒よろしくお願いいたします。

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