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報われなかった村人A、貴族に拾われて溺愛される上に、実は持っていた伝説級の神スキルも覚醒した 作者:三木なずな

第四章

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46.一神教の神

「えっと……」


 俺は戸惑った。

 盛大に戸惑った。


 当たり前だ。

 自分の部屋にいたら、いきなり正体不明の男が現われて、真顔で「あなたが神か」って聞いてきた。


 戸惑わない方がどうかしてる。


 戸惑って、どう返事しようかと悩んでいると。


 こんこん。


「よろしいでしょうか、ご主人様」

「え、ああ」


 戸惑いながら頷く。

 するとメイドが入ってきた。

 メイドは二人で、ぺこりと俺に一礼した。


「お召し替えに参りました」

「う、うん――え?」


 俺はまたまた驚いた。

 さっきの男の方を向くと――いなかった。


 直前までそこにいたはずなのに、メイドが入ってくると姿も形もなかった。

 部屋の中を見回す――やはりいない。


「ご主人様?」


 メイドが不思議がって、俺をみる。


「ねえ、今誰かいるの見なかった?」

「え? いえ、私には……あなたは?」

「私も見てませんが……」


 メイド二人、俺の質問に困惑した。

 俺も困惑した。


 今のは幻? いやいや。

 はっきりといたはずなんだ。


 とは言え今はいない、探しようもない。

 俺は諦めて、まずはメイド達に着替えをしてもらった。


 パーティーの正装から寝間着に着替えさせてもらったあと、メイド達はしずしずと一礼して、部屋から退出した。


「ふぅ……」


 俺は一息ついた。

 パーティーで立ちっぱなしで喋りっぱなし、喉がガラガラになってるから、ベッドの横にある水差しから水を飲んだ。

 水差しに手を伸ばすことなく、海神の力をつかった。

 水がにょろりと、まるで生き物のように水差しから出てきて、俺の口に向かってきた。


 口を開けて、それを飲む。


 正直、こっちの方が楽だ。

 事水に限って言えば、手を伸ばして水差しからコップなりについで飲むよりも、水を操って直接口に入れてしまった方が楽だ。

 食事だとこれはできないから、今まで通りの食べ方になるけど。


 そうやって、喉の渇きを潤すと――スタッ。


 目の前に、再びあの男が現われた。


「うわっ! ま、また出た!」

「やはり、あなたが神か」

「え?」


 さっきとまったく同じ言葉を言われた。

 いや、同じって訳じゃないぞ。


 やっぱりって前につけた。

 確信した言葉だ。

 ただ聞くだけじゃなくて、確信したものを念の為に確認する――みたいな言葉。


「な、何の事を言ってるんだ」

「今なさったこと」

「え? ああ、水を飲んだ?」

「はい、それはまさしく神力によるもの」

「しん……りき?」

「神の御力でございます」

「……ああ」


 言われてみればそうかもしれない。

 今使ったの、海神の力だからな。

 神力といわれればまあその通りだ。


「えっと……」

「大変失礼致しました。名乗りもせず神を問い詰めるなどという不敬を」

「ううん、それはいいんだけど……でも、名乗ってくれると助かるかな」

「はい!」


 男は居住まいを正した――と思った次の瞬間。

 なんと、床に両手両膝をつけて俺にむかって頭を下げてきた。


「私の名はニコ・ヴァルナ。ルイザン教ゲオルク支部の司祭を仰せつかってるものです」

「ルイザン教……あっ」


 それは知ってる。

 さすがに、知ってる。


 ルイザン教というのは、この世界で一番大きな宗教団体だ。


 各地に教会があって、人間が五人集まればルイザンの信者は必ず一人いる、って位の勢力を誇っている宗教だ。


 そこまでは知ってる。

 わりと一般庶民の間でも常識だ。


 ただ俺は前世もそうだったが信徒じゃなかったから、それ以上詳しいことは知らない。


「えっと、そのニコ……さん? が僕になんか用なの?」

「はっ、神が再臨したかもしれないと報告がありましたので、確認にあがりました」

「え? 僕? 僕があなた達の神だというの?」

「はい、そうですが?」


 それが何か? って顔をするニコ。

 ぽかーんとしている。


「えっと、人違いじゃない?」

「お戯れを、神はこの世でただ一人。唯一無二の存在であります」

「唯一無二……」

「あなた様が神力を使う以上、我らが唯一にして絶対なる神であられることは疑いようのない事実」

「で、でも」


 俺は戸惑った。

 疑いようがない事実って断言されたけど、違うんだよ。

 まだちょっとあれだから、百歩譲って俺が神だとしても、それは海神だ。

 水の力と海を自在に操れるから、それは間違いない。

 彼らの、ルイザン教の神なんかじゃないはずだ。


「ほら、他の神とかいるじゃない?」

「そんなものは存在しない。神は神、唯一にして無二で無謬なる存在であります」

「あっ……」


 一神教か。


「で、でも。ほら、邪神とか?」

「またまたご冗談を」


 ニコは笑った。


「神がよこしまな存在であるなど、そんなものは無知蒙昧な人間の戯れ言でありましょう」

「お、おおぅ……」


 俺は盛大に戸惑った。

 この一連の、決して長くないやり取りだけでもよく分かった。


 ニコは敬虔なるルイザン教の信者だ。

 そしてルイザン教というのは、よくも悪くも、神は何があっても一人だけっていうのが教義らしい。


 すなわち、海神という、どう考えても彼らの神ではなくても、彼らは「神」であるという一点で神だとあがめる。


 他の神が間違ってる訳じゃない、邪神とかもいるわけがない。

 神は一人だけ!


 それはそれですっきりしてて、見てて爽快感すら感じるのだが……見るだけなら。

 実際矢面に立つとちょっとあれだった。


「えっと……その」

「はっ」

「ぼ、僕が神なのはわかった、それでいい」

「はい」

「僕に、何をして欲しいの?」

「はっ。是非とも、我らに新たな道を指し示してください」

「新たな道?」


 どういう事だろうか?


「神がいらっしゃらなかった間も、残念ながら人間が変わることはなかった」


 んん?

 なんか……口惜しげな感じで言ってるぞ?

 ちょっと芝居がかってるけど、いや、これはニコの平常運転か?


「それを神は以前からご指摘された。故に、神が不定期ながらも降臨し、我ら人間の間違いを正すと言ってくださった」

「間違いを正す……ああ、それで新たな道」


 話は分かった、分かった……けど。


「もし、前と違うことを言ってたら? ルイザン教の教会だって、色々文書や口伝やらで、神の言葉を伝えていくんだよね」

「神のおっしゃることは絶対」


 ニコはまずそうだ、って感じで言いきった。


「しかし人間は間違えることがある、たった数人程度の伝言ゲームでさえ色々とゆがめていくのだから、神のお言葉を蒙昧なる人間が間違って伝えてしまうことが大いに考えられる」

「あ、うん」

「神は間違えない、しかし人間は間違える。であれば、神の直接のお言葉と我らが覚えている神のお言葉、どちらを信じるべきかは自明の理!」


 お、おう……。

 ものすごく力説された。

 それは全て「神は絶対」という大前提に沿ったものだから、妙な説得力があった。


 初めて聞く話なのに、俺が「なるほどそうかもしれない」と思うようになった位だ。


 えっと、どうしよう……。

 確かに今の俺は神かもしれない。

 でもそれは海神で、たぶん彼らの神じゃない。


 そんなんで何かいってしまうのは……いろいろ影響大きすぎてまずそう。


「……きょ」

「今日の所は帰ってくれないかな。えっと……まだその時じゃない」


 追い詰められた俺は、それっぽいことを言ってみた。

 いくら何でもこんなんでごまかされないだろ――。


「大変失礼致しました!」


 ニコはパッと頭を下げた。


「まだその時じゃない……神の御心を理解せずに迫るなど……あるまじき行為!」

「え? いやそれは……」

「たしかに! 再臨した神からお告げがないのはその時ではない以外ありえないこと!」

「え、えっと」

「委細承知致しました! その時がくるのを静かにお待ちしております!」


 ぱっ、とニコが消えた。

 嵐のようにやってきて、嵐のように去っていった。


 えっと、これは困ったぞ?


     ☆


 翌日、避暑地にいるときの日課である、とりあえず皇帝の所に顔をだした。

 皇帝は庭で、メイド達の給仕を受けてくつろいでいた。


 相変わらず皇帝は厚着で、それを不思議にも思わなくなったメイドが横で大きなうちわで扇いでいる。


「おはようございます、陛下」

「おお、よく来たなマテオ。うむ? どうした、目の下にクマができているぞ。寝不足か?」

「うん、ちょっと考えごとが」


 昨日はあれからよく寝れなかった。

 さすがにちょっと……なあ。


「ねえ、陛下」

「なんだ?」

「陛下はルイザン教って、知ってる?」

「うむ、無論知っているぞ。この世で一番やっかいな相手だ」

「一番やっかいな?」


 俺は首をかしげた。


「一説によれば、帝国臣民の5分の1はルイザン教の信徒だ」

「5分の1……」

「数が多いのもそうだが、奴らは団結力が高い。教皇が一言『神が帝国を撃ち倒せとおっしゃった』など言い出そうものなら、次の日からその5分の1は敵軍……敵国になる」

「うへぇ……」


 なんか予想以上にすごかった。

 そんなすごい連中に祭り上げられそうなの、俺。

「面白い!」

「続きが気になる!」

「もっと溺愛しろ!」


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