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報われなかった村人A、貴族に拾われて溺愛される上に、実は持っていた伝説級の神スキルも覚醒した 作者:三木なずな

第四章

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45.あなたが神か

 離宮からすこし離れたところの砂浜。

 波打ち際にまず俺と皇帝がいて、それから少し離れて大臣や下級官吏がいて、そのそとが更に民――使用人や兵士やその生活を支える者達が囲っている。


 浜辺ということで、俺達は扇状のように広がっていた。


 俺は皇帝に向かって。


「それじゃ、始めるね」

「うむ」


 皇帝が頷く。

 俺は海に向かって、目を閉じて意識を集中させた。

 海神の力を解放して、海の底にある「もの」を引き上げる。


 しばらくして、一隻の船がゆっくりと浮上して、こっちにやってきた。


「「「おおおおおっ!!」」」


 俺と皇帝をのぞいた、ほぼ全ての人間が驚嘆の声を上げた。


「本当に船を引き上げたぞ」

「沈んだ船が浮いて、そのまま進むことができるなんて」

「とんでもない力だ……」


 それらの反応を見て、皇帝は誇らしげに笑みをうかべた。

 そして、俺をねぎらった。


「よくやった。さすがだなマテオ」

「ありがとうございます、陛下」

「して、船のまわりにまとわりついてるのはなんなのだ?」

「船のまわり?」


 皇帝にそう言われた俺は、改めて船のまわりを見た。

 地上にいて、距離が離れているからよく分からなかった。


 俺は海水を引き上げて、目の前に持ってくることで、それを望遠鏡のようにした。

 海水――水を通すとよく見える。


「あれが人魚達です。あっ、女王様も来てる」

「ほう」


 皇帝は目を細めた。

 そして、不敵な笑みを浮かべる。


「どれが人魚の女王だ?」

「あの一番大きい人です」

「ふむ、あれか」


 人魚の女王は他の人魚に比べて二回りくらいサイズが大きいから、皇帝はすぐに納得して頷いた。


「女王自らのお出ましというわけだな」

「陛下、いかがいたしましょう」


 大臣のベルンハルトが近づいて、皇帝に話しかけた。


 どうするって……なにをだ?


「このままで良い。まだ正式な対談にするには早いだろう」

「御意」


 ベルンハルトは腰を曲げて一礼して、下がって元の位置にもどった。


 どういうことなんだろうか――と思っているうちに、船が浅瀬の前で止まって、人魚達だけこっちにやってきた。


 俺は向かっていって、女王と他の人魚達を出迎えた。

 足首が水に浸かるくらいの所で、人魚達と向き合う。


「来たんだね」

「はい、海神様。ご迷惑ではなかったでしょうか」

「全然、大丈夫だよ」


 俺がそう言うと、女王は見るからにほっとした。

 ほっとして、落ち着いた後、俺の背後にいる皇帝を見た。


「あれが、人間の王なのですね」

「うん、帝国の皇帝陛下だよ」

「そうですか」


 女王は俺の横をすり抜けて、皇帝に近づいていった。

 それに反応して衛士達が警戒して武器を構えたが、皇帝がすぅ、と手をあげてそれを止めた。

 そして、向き合う二人。


 皇帝と女王。

 陸と海。


 それぞれの最高権力者が、何の変哲もない砂浜で向き合った。


「初めまして、人間の王」

「うむ、余が帝国の皇帝だ」

「海神様がいつもお世話になっているみたいで、感謝いたします」

「余の方こそ礼を言おう、マテオの覚醒に手助けをしたそうだな。ほめてつかわすぞ」

「……」

「……」


 お、おぉ……。


 なんかよく分かんないけど、皇帝と女王、二人はバチバチと火花をまき散らしてるぞ。

 実際にはなにもないはずなのに、二人の間の空間がバチバチと火花が散っているのが見える。


 俺の目の錯覚か? とかそういうことじゃない。

 皇帝側の人間も、女王側の人魚も。

 皆、緊張感が高まっている。


「人間の王に、一つ申し出がありますわ」

「ほう……? 聞こうではないか」


 皇帝は目を細めていった。

 今の……けっして友好的じゃない。

 まるで「面白い、どんなふざけた事を言うのか楽しみだ」みたいな言い方だ。


「私達は、生け贄の再開を要求します」

「なに?」


 皇帝の目の色がいよいよ変わった。

 女王が投げ込んだド直球な要求にそうなった。


「なにゆえ生け贄を要求する」

「海神様に捧げるための生け贄です。これまでは必要なかったのですが、海神様が復活なされた以上、生け贄も必要でございます」

「マテオに? ふむ、そういうことならば……いや」


 皇帝の目が落ちついた。

 いったんは頷きかけたが、そこで考えを改めて、女王に聞き返した。


「その事、マテオは承知しているかの?」

「海神様が?」

「うむ。余はマテオのことをよく知っている。……お前などよりよほどな」

「むっ」


 今度は女王が顔を強ばらせた。

 皇帝のマウントがきっちりとはいったみたいだ。


「その上でいうが、マテオは生け贄など望まないはずだ」

「それは――」

「うん、そうだね」


 俺は話に合流した。

 皇帝と女王、陸と海の最高権力者が話している所に本来なら割って入る事は許されないのだが、さすがにこの話は俺がでて止めないとまずいって思った。


 俺は女王に向かって。


「その話はやめようね、っていったよね」


 すると、女王はたじろいで、皇帝は得意げに鼻をならした。


「し、しかし海神様。海神様がこうして本来の体で再臨なさったとなれば、人間達にはしっかりと――」

「そういうのはいいから」


 俺は女王の言葉を途中で遮った。

 他の事はともかく、生け贄なんて物騒な話、強権を発動しててもとめなきゃだ。


「やめよ? ね」

「わ、わかりました」

「ふふ」

「な、なんですか?」

「いいや? 余はただ、マテオのことをなにも分かってないのだな、と思っただけだ」

「むむむむむ……」


 勝ち誇る皇帝、悔しがる女王。

 やはりバチバチとなる二人。


 なんだろうこれ。

 物語でよくある「私のために争わないで!!」って言った方がいいのかな。


 いや、やめよう。

 それよりも本題に入ろう。

 このままだと脱線したまま、二人はいつまでもバチバチしっぱなしだ。


「ねえ、この船の名前は分かったの?」

「え? ええ――これです」


 女王はそう言って、何かをさしだしてきた。


「これは?」

「おそらくは人間の航海日誌、というものかと」

「航海日誌かあ……紙なのに海の中で溶けたりしなかったんだね」

「航海日誌だ、防水の魔法をかけておくのは基本なのだ」

「そうなんだ」


 皇帝に言われて、俺は納得した。

 たしかに、それは大事な事だな。


 俺は航海日誌を受け取って、表紙をめくった。


 すると、日記方式の記述が見えた。


「えっと……この『カリン』っていうのが船の名前なのかな」


 文脈からしてそうなんだけど。


「間違いなかろう」


 皇帝は後ろからのぞき込んで、頷いた。


「そうなの?」

「うむ、船に女の名前をつけるのが、船乗りの伝統らしいからな」

「へー、そうなんだ」


 また一つ勉強になった。


「シュベル」


 皇帝は顔を上げて、背後に向かっておもむろに誰かを呼んだ。

 すると、一人の男がザッ、と進み出て、砂浜で跪いた。


「ここに」

「マテオ、その男に見せてやれ」

「うん、どうぞ」


 俺は頷き、航海日誌をシュベルに渡した。

 シュベルは航海日誌を読んで、跪いたまま手をあげて、部下を呼んだ。

 部下は何かの台帳らしきものを持ってきて、航海日誌と照合していく。


 しばらく待つと、シュベルは顔を上げて。


「分かりました、陛下」

「うむ」

「カリン号はフレベー商会の物です。昨年の春に出港してガリューダ三角で失踪、その後沈没届を出しています」

「間違いないか?」

「はっ、名前と航路、日付が一致しておりますので、おそらくは」

「ふむ」


 皇帝はうなずいた。

 俺もうなずいた。

 そこまで一致してるんなら、間違いないだろう。


「だったら、すぐに来てもらって確認してもらわないとね」

「それなら大丈夫だ」

「大丈夫って?」

「可能性のある商人は全員呼びつけている。そうだな?」

「はっ。フレベーを呼べ」


 シュベルはそういい、そばに部下にそう言った。

 部下が立ち上がって一旦人混みの中に引っ込むと、人混みの向こうから一人の商人風な格好をした男が現われた。


 男はやってきて、皇帝に跪いた。


「ルッツ・フレベーと申します。この度は――」

「よい、それよりも船の確認をしろ」

「はっ」


 商人は立ち上がり、船に近づく。

 船首でなにか色々して、確認をする。


 しばらくして、戻ってきて再び跪く。


「確認いたしました。間違いなく我が商会のカリン号です」

「うむ。さすがだぞマテオ。沈没船の引き上げなど、有史以来初めての快挙だ」


「「「おおおおお!!」」」


 皇帝の言葉に、まわりの皆が沸きに沸いた。


 皆が歓声を上げて、俺の事を称えた。


     ☆


 その夜は宴が開かれた。

 皇帝主催の盛大な宴、主賓は俺。


 俺が沈没船を引き上げた事を称え、祝うための宴だ。


 少し前に参加した、じいさんの誕生日のパーティーよりも更に大規模な物だった。

 それが自分が主賓……ということで、終始緊張しっぱなしの宴だった。


 全員に持ち上げられ、よいしょされる時間は、それはそれで心地よいものだった。


 それが夜中になってようやく終わって、俺は屋敷に戻ってきた。


 自分の寝室に戻ってきて、メイドを呼んで服を脱がせてもらおう――と思ったその時。


 スタッ、って音がした。

 俺だけの寝室の中に、もう一人誰か現われた。


 たぶん男だ、そいつは目だしの黒装束の格好をしていて、俺の前に立っている。


「な、何者?」

「問おう」


 男はまっすぐと――しかしほとんど敵意のない目。

 敬虔なる者の目で、まっすぐと俺を見つめながら。


「あなたが神か」


 と、聞いてきたのだった。

連載開始一ヶ月半、皆様の応援のおかげで15万文字突破しました。

これからも頑張って更新し20万文字めざします。


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