迷子のプレアデス   作:皇帝ペンギン

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最終話

 常闇と冷気が支配する世界、ヘルヘイム。その最果てに深い霧に覆われたグレンデラ沼地がある。二足歩行する蛙顔の亜人、ツヴェークを代表とする凶悪なモンスター跋扈するこの地も既に役目を終えていた。モンスターたちは皆動きを止め、棒立ち状態だ。闇夜を照らす大輪の花が咲き誇ってはまた散っていく。

 

「…………」

 

 その光景を眺めながら鈴木悟は寂寥感に苛まれていた。打ち上げられた花火はその全てが彼が用意したものだ。この日のために。仲間と共に見上げようとして。だが来てくれた三人の姿はここにはない。ヘロヘロも含めて皆ログアウトしてしまった。我知らずスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを握る手に力が篭る。

 

「過去の栄光……か」

 

 そんな悟の脳裏に玉座の間にて傅くNPCたちが思い起こされた。主人なき墳墓の墓守たち。このまま自分まで消えては彼らがあまりにも哀れだ。

 

「……戻るか」

 

 一人きりで最後の時を過ごすより幾分マシだろう。悟は急ぎナザリックへ帰還しようとコンソールパネルを開く。

 

「あ……」

 

 呟く悟の手が止まる。コンソールに表示された無機質な数字が今まさにゼロに切り替わろうとしていた。

 

(何とも締まらない最期だな)

 

 これ以上の操作を諦め、悟は目を閉じる。一際大きい花火が眩く煌めいた。

 

「ッ──」

 

 光。暗転。

 

 瞼に焼きつくような光が収束する。明日も四時起きかと嘆息しながら目を開く。

 

「ん? あれ?」

 

 悟は困惑を隠せない。そこは自室などではなかった。姿はモモンガのまま、虚空を漂っている。視界には宵闇が広がり、暗雲と立ち込める分厚い雲が星々の光を遮っていた。サーバーダウンが延長になったのだろうか。いや、そんなことよりも。

 

「ここは……どこだ?」

 

 自分が先刻までいた場所ではない。眼下の沼地や島は消え失せ、鬱蒼と生い茂る樹海がどこまでも広がっていた。ユグドラシルに九つある世界の何処かに強制転移したのか。だがこのような樹海は記憶にない。慌てて〈伝言(メッセージ)〉を試すがGMコールも通じない。

 

 

「あれは……!」

 

 途方に暮れかけた悟は視界の端に光を捉える。遅れて響く轟音と立ち上る白煙。映し出されたのは聳え立つ巨大なモンスターのシルエット。大規模イベント用のレイドボスだ。誰かが戦っているのだろう。

 

「これは……もしかして!」

 

 悟は〈飛行(フライ)〉でモンスターのいる方角を目指す。破顔一笑、気色満面。悟はある確信を抱いた。

 

「やるじゃないかGM!!」

 

 これは間違いなくユグドラシルⅡだ。ユグドラシル終了と共にサプライズでIIに移行したのだろう。信じて良かった。給料の大半と夏のボーナス全てを注ぎ込んだ甲斐があったというもの。今までの苦労が報われた思いである。コンソールが表示できない、GMコールが通じないなどの初期バグやら何やらも全て許せてしまう。世界の終わりからこの世の春だ。

 

 

「まずはヘロヘロさんに連絡を取らなくちゃ! それからギルドの皆さんにもメール送って──」

 

 鈴木悟はこれからに思いを馳せる。またあの輝かしくも懐かしいアインズ・ウール・ゴウンの日々が紡がれるのだ。カタカタと喜びに顎を鳴らしながら超越者は空を駆ける。動くアバターの外見や風が運ぶ草木の匂いもまた、アップデートによるものだと誤認したまま。

 

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 

 これは夢だ。否、機械人形が夢なんて見るはずがない。ならばシステムエラーか。大方メモリーのバグか何かで過去データを参照し、自分に都合の良い光景を投影しているのだろう。

 

 シズは期待を押し殺そうとする。

 

「あー、横入りすみません。皆さんのお邪魔するつもりはこれっぽっちもなかったのですが……」

「…………」

 

 シズは驚きに目を見開いた。喋った。幻じゃない。

 

「えっと、大丈夫ですか? よろしければこれをどうぞ」

 

 モモンガから差し出されたのは赤い液体の入った小瓶。治癒の水薬(ポーション)だ。なんと恐れ多く、そしてお優しいことか。これは断じて幻影などではない。本物の御方だ。シズは折れた手足も厭わず御方の胸──正確には胸骨──へと顔を埋めた。ひんやりと冷たく堅い感触。だが不思議と心地良かった。冷却装置ラジエーターの故障か、シズの頬を透明な液体が伝う。

 

「モモンガ様……」

「ええ!? あの、ちょっと……」

 

(この子泣いて……いや、待てよ。今俺のことをモモンガって)

 

 何が何だかわからないモモンガは激しく狼狽る。何故こんなことになったのだろうか。

 

 ユグドラシルⅡオープニングセレモニーの植物系レイドボスを発見。既に交戦中だったプレイヤーたちの様子を遠隔視(リモート・ビューイング)でこっそりと窺った。しかしボスのレベルは九十。対して彼らのレベルは一番高いプレイヤーでも七十にも満たない。どう見ても適正レベルを逸脱した相手だ。運営の嫌らしさが垣間見える。パワードスーツや神話級(ゴッズ)アイテムなどがあればまだやりようはある。しかし彼らはおそらく皆、昨日今日ユグドラシルを始めた初心者プレイヤーなのだろう。そんな強力なアイテムを持ち合わせてる様子もない。防戦一方のまま戦局は傾き続け、ついには一人のプレイヤーが落ちそうになってしまう。

 

「誰かが困っていたら、助けるのは当たり前──ですよね、たっちさん」

 

 白銀の聖騎士に背中を押された気がした。躊躇いは一瞬。鈴木悟は、モモンガは見ず知らずのプレイヤーを助けるために飛び出した。あの日、たっち・みーが自分を助けてくれたように。勢い余って少女が腕の中にすっぽりと収まってしまった時はどうしようかと思ったが。

 

(この子……何処かで見たような)

 

 記憶の糸を手繰り寄せるモモンガの脳裏に玉座の間にて傅くメイドたちが過った。戦闘メイド(プレアデス)。この少女はまさにそのうちの一人。名までは思い出せぬが確かガーネットが創造したNPCだ。何故拠点NPCがこんなところに。しかも自らの意思があるかのように動いているのか。これも仕様変更の一環なのだろうか。それともギルメンの誰かがここに? 尽きぬ疑問符がモモンガの頭の容量を埋め尽くそうとして、

 

 

「モ゛モ゛ン゛ガさま゛ぁあああああ!!」

「ほわぁ!?」

 

 ホラー映画さながら、女郎蜘蛛と粘体の塊が飛びかかってくる。それは混迷をきわめるモモンガの平静さを失わせるには充分だった。

 

「た、〈時間停止(タイム・ストップ)〉!」

 

 思わず詠唱してしまう。時計の針が凍りつく。世界が停止した。それでもプレアデスの勢いは止まらない。他ならぬギルメンたちの手により時間対策は万全なのだから。自らの首を小脇に抱えて爆走するデュラハンにどくどく流血するまんまるタマゴのドッペル・ゲンガー、めちゃくちゃ顔を舐めてくる赤毛の狼。モモンガは勢いそのままに押し倒されそうになる。姿勢制御の常時発動型特殊技術(パッシブスキル)で辛くも持ち堪えた。

 

 

「モモンガ様、モモンガ様……!」

「うわぁああああん」

「くぅーん」

「やっと、やっとお会い出来ました……」

 

 思いが決壊する。押し殺していた感情が爆発した。六姉妹が揃っていたとはいえ、不安だったのだ。自分たちは見捨てられたのだろうか。不要と判断され、捨てられたのかもしれない、と。喜憂だった。御方が御自ら迎えに来て下さった。迷子のプレアデスはやっと己が居場所を見つけた。

 

 

「…………」

 

 精神が鎮静化したモモンガは改めて彼女たちを観察する。自分に縋り付くその姿は泣いている子どもにしか見えなかった。悟の脳裏に、幼き頃に死別した母の記憶が去来した。遠出した折り、幼い自分が迷子になってしまった時。母と再会した安堵に涙したではないか。彼女たちはあの日の自分によく似ていた。

 

「ええっと……」

 

 精神が鎮静化したモモンガは出来るだけ優しく、小さな子どもに諭すように語りかける。やり場に困っていた骨の両手をぎこちなく少女たちに乗せた。

 

 

「その……とりあえず、落ち着いてくれませんか。話を聞かせてください」

 

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 

 体勢を崩したブレインとクレマンティーヌは前のめりにつんのめる。寸でのところで何とか踏み止まった。抱いた重さが突如として消え失せたのだ。一体何が起こったというのか。

 

「もう大丈夫です」

 

 背に降りかかる声。重症を負っていたはずの二人が側に立っていた。メイド服すら元通りに全快している。いや、そんなことは些末なことだ。ブレインは思わず怒声を上げた。

 

「大丈夫って何がだよ! 早く逃げないと死じまうぞ!?」

「だから大丈夫っすよ」

「あのお方が来てくださいましたから」

 

 ルプスレギナ、ナーベラル両名はまるで恋する乙女のような熱い視線を空へと送っていた。釣られて見上げるブレインらの顔が驚愕に染まる。

 

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)がいた。黒衣を翻すその者は単身、あの化け物に対峙している。まさかたった一人であれに挑もうというのか。勇気と無謀を履き違えている。

 

「馬鹿な! 自殺行為だ」

 

 声を張り上げるブレインは途端、えもしれぬ安堵感に包まれた。分厚い壁や、城壁の中にいるような気がする。ザイトルクワエの存在感が希薄になったとさえ錯覚した。あの魔法詠唱者(マジック・キャスター)の背を仰ぎ見ているだけで。

 

 

 瞬間、空に巨大な立体魔法陣が展開した。

 

「なっ──」

 

 魔法は門外漢の二人だがあれが規格外というのは肌で感じ取れた。特に元漆黒聖典第九席次の肩書きを持つクレマンティーヌの驚きは一入だった。全身に悪寒が走る。

 

(何よあれ……第七? 第八? 違う、もっと上)

 

 同聖典に属していた魔法詠唱者(マジック・キャスター)の第三、四、十一席次を遥かに上回る。

 

「まさか……第十位階」

 

 クレマンティーヌは息を呑む。自身の言のありえなさに乾いた笑みが浮かんだ。存在すると言われているが誰も目にしたことがない伝説の位階。呟いたクレマンティーヌにルプスレギナが吹き出した。

 

「ぷっ、違うっすよ」

「だ、だよねー。そんなわけ──」

「モモンガ様のお力は既に位階など超越なさっているわ」

「ッ!?」

 

 続くナーベラルの言葉にクレマンティーヌが絶句した。

 

 

「おおお、おおおおお!! あれはぁあああ!!!?」

「フールーダ様!?」

 

 瀕死の重症を負っているはずのフールーダ・パラダインが絶叫する。興奮するフールーダに肩を貸すバジウットとニンブルが目を白黒させた。微笑むユリは泣き止まぬレイナースをあやしながら空を仰ぐ。

 

「ご覧下さい。あれこそが我らが創物主、至高なる御方のお力」

 

 

 人獣四足獣(ゾーオスティア)に横座るソリュシャン、エントマもまた空を見上げた。

 

 

「守護者の方々も及ばぬ位階を超越せし神の御技」

「超位魔法ぉ!」

 

「…………綺麗」

 

 シズの翡翠の瞳が蒼白の光を映し出した。

 

 

 

 

 

(よし、ここは一つ良いところ見せるか。となると……やっぱりあれだよな)

 

 悟が選んだのは自身が修得する七百を超える魔法の中でも一際ド派手なもの。魔法と言ってもその特性上、むしろ特殊技術(スキル)に近い。本当は〈浮遊大機雷(ドリフターズ・マスターマイン)〉からの〈隕石落下(メテオフォール)〉で苦しみますツリーのコンボも考えたが、時期外れな上にウケなかった際の虚しさを鑑みて没とした。モモンガは取り出しかけた嫉妬マスクをそっとインベントリの奥へと仕舞い込む。

 

 

「いあいあいあいあいあいあ」

 

 驚異を感じ取ったザイトルクワエがモモンガに無数の触手を穿つ。破城槌の雨が降り注ぐ。予め唱えていた〈光輝緑の体(ボディ・オブ・イファルジェントベリル)〉により殴打ダメージを無効化した。モモンガは虚空から取り出した砂時計の感触を確かめるように軽く握る。超位魔法を即時発動可能にできる課金アイテムだ。すぐにでも握りつぶしてもいいが、

 

 

「フレンドリーファイアが解禁されているとは……思い切った仕様変更だな」

 

 眼下に視線を送る。モモンガの命により、プレアデスが亜人たちの避難誘導をしている姿が目に入った。一体何人集っているのやら。彼らが効果範囲外へと後退する時間稼ぎには丁度良いだろう。新規プレイヤー大量参入はゲーム全体の盛り上がりに繋がるため、一プレイヤーとして非常に喜ばしい。ただ、そこはあの運営の所業。オープニングステージでいきなり高レベルレイドなんて初見殺しにも程がある。ペロロンチーノの罵り声が聞こえてきそうだ。古参プレイヤーとして手を貸すべきだろう。

 

 

「にしても……よくできてるなあ」

 

 表情豊かにぬるぬる動くアバターにプレイヤーと見紛う超高度なAIを備えたNPC。最新のDMMORPGすら遥かにしのぐ出来栄えだ。異世界転移という設定も一見ありきたりだが王道ともとれる。舞台を九つの世界外へ自然な流れで移行でき、古参プレイヤーに未知をもたらすと共に新規プレイヤーが参加しやすい土台を築いていた。後は旧世界へのアクセスやコンソールパネル、GMコールなどのバグが改善されるのを待つばかり。それらも何は時が解決してくれるだろう。モモンガは瞳を輝かせる。

 

 

「ふふふ……この世界を見て回るのが楽しみだ」

 

「いあいあいあいあいあいあ」

 

 忘れ去られしザイトルクワエが口を窄めて存在を誇示する。甲高い音と光が収束していく。その段になりやっとモモンガがそちらに視線を向けた。

 

「お、抵抗する気か? だが──」

 

『モモンガ様、避難誘導完了しました』

『こちらも』

『オッケーっす!』

『完了ですわ』

『完了ですぅ』

『……避難誘導完了』

 

 プレアデスからの〈伝言(メッセージ)〉が次々に届く。

 

 

「もう遅い」

 

 モモンガはザイトルクワエに見せつけるように砂時計を握り潰した。硝子が粉々に砕け散る。

 

 

「〈失墜する天空(フォールンダウン)〉」

 

 天空が堕つる。暗雲に大孔が穿たれた。太陽そのものと見紛う光球が膨大な質量でもってザイトルクワエを押し潰す。天に届かんとす巨躯が丸ごと呑みこまれ、白い光が世界を塗り潰した。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 

 冒険者たちは我が目を疑った。先刻まで一か八かの特攻をかけようとするラキュースをガガーランが羽交い締め、蒼の薔薇総出で押し留めていた。周辺国家で唯一蘇生魔法の使える彼女の存在は稀有だ。他のアダマンタイト級全員と比しても天秤は傾くまい。それでも聞かない彼女に痺れを切らした朱の雫のアズスが力ずくで姪を避難させようと手を伸ばして、

 

「ッ──」

 

 圧倒的な光に中断させられた。

 

 イビルアイと互いに殿を譲らず額をぶつけ合っていたリグリットは驚愕に空を仰ぐ。冒険者たちを止めたのは圧倒的な質量を持つ蒼白の光球。閃光と爆炎の向こう、天地を隔てるザイトルクワエの巨躯があたかたもなく消え失せていた。後に残るのは抉れ、灼熱を纏う大地。

 

 そして、

 

「…………」

 

 空より地上を見下ろすアンデッドの魔法詠唱者(マジック・キャスター)。吹き飛んだ暗雲の隙間から朝焼けが立ち昇る。邪悪なオーラを纏うアンデッドに後光が差す。その姿はむしろ神々しささえ感じさせた。

 

 

 

「一体……何が起こったの?」

「信じられねえ……」

「……樹海が……消えていく」

 

 周囲の樹海が急速に枯れ果てていく。トレントや邪悪なる蔓(イビルツリー)などその全てが根でザイトルクワエと繋がっていた。言うなれば巨大な一個の生命である。核となる存在が消滅したのだから自明の理。ユグドラシル風に言うのであれば、ボスを倒したから無限湧き(POP)する雑魚モンスターも消滅したのだ。ただ、その事情を知らぬものにはどう映るだろうか。

 

 

「モモンガ様の勝利よ!」

「わーい、モモンガ様ぁ」

「……さすがモモンガ様」

 

「「………………」」

 

 プレアデスが無邪気に歓声を上げる中、人や亜人たちは茫然自失としていた。この目で見てもまだ信じられなかった。自分たちが死力を尽くしてもなお勝てなかった難敵、ザイトルクワエ。あの十三英雄すら力及ばず、封印するのがやっとだった世界を滅ぼしうる存在。それが、たったの一撃で滅ぼされた。ならばあの存在は。あの魔法詠唱者(マジック・キャスター)は。

 

 六大神。

 

 八欲王。

 

 善悪問わず世界にその名と爪痕を刻み込んだ者たち。彼らと同等の存在に他ならない。

 

 それ即ち、

 

「世界の……揺り返し」

 

 (プレイヤー)の降臨。

 

 リグリットはやっとの思いで言の葉を絞り出した。

 

 

 

「…………チッ」

 

 訪れた静寂にプレアデスが痺れを切らす。亜人共は御方の御力の素晴らしさのあまりに感動に打ち震えているのだろうが、これ以上の静寂は失礼にあたる。亜人を支配するソリュシャンが苛立たしげにアイアンブーツを打ち鳴らした。エントマも追随する。

 

「何を呆けているの! モモンガ様の勝利を讃えなさい!」

「きしゃぁー」

 

「も、モモンガ様! モモンガ様!」

 

 一人の亜人が声を震わせる。二人、三人と声を合わせ、やがては万を超える亜人たちが神の名を讃えた。

 

 

「モモンガ様、モモンガ様、モモンガ様!!」

「万歳! 万歳!」

「モモンガ様、モモンガ様、モモンガ様!!」

「万歳、万歳、万歳!!」

 

 声を揃えて喝采する。喉が張り裂けんばかりに叫び、手を千切れそうになるくらい打ち鳴らした。万雷の喝采は大気を震わせ地平線の彼方まで轟いた。

 

 

「……なんだか照れくさいな」

 

 モモンガは気恥ずかしそうに頬を掻く。亜人種ばかりとはいえ、ここまで喜ばれるとは思わなかった。だが応えぬ訳にもいくまい。モモンガはギルドの証をそろそろと、されど誇らしげに掲げる。七色の宝玉とそれを咥える黄金の蛇らが朝焼けを映しキラキラと輝いた。

 

「うぉおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 世界にモモンガという名の伝説が、その最初の一ページが刻まれた瞬間だった。

 

 

 

 


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