干し納豆のことを、セツコさんは「干しごる豆」と呼びます。美里町の人が懐かしがって、甲佐町まで買いに来ます
町の中心から東へと車を走らせると、川辺の景色とは打って変わり、山あいの風景が広がります。細いくねくねとした道を上ると、西寒野(にしさまの)集落が見えてきました。
ここで、昔ながらの手法で干し納豆や漬物を作っているのが松井セツコさん(82)です。旧砥用町出身の松井さんは子どものころ、母親が作った干し納豆をおやつ用にポケットに入れ、野山を駆け回っていたそうです。
熊本県産大豆を炊いて、2日間寝かせた納豆
1959(昭和34)年に甲佐町に嫁いでからは、しゅうとめから納豆づくりを任されました。あるとき、集落の寄り合いで納豆と干し納豆を振る舞ったところ、そのおいしさが評判になり、物産館「ろくじ館」への出品を勧められました。松井さんの干し納豆は、今では人気商品。「これがないとビールが進まない」というリピーターもたくさんいるそうです。
「セツコさんの干し納豆」(160g、350円)「セツコさんのねばねば納豆」(200g、270円)
「うちの干し納豆は、お天道様のおかげで、おいしくなるとですよ」と松井さん。そこで作り方を教えてもらいました。
まず、ゆでた大豆を丸2日間、たるの中でじっくり寝かせます。発酵して十分に〝やねがひく〟(粘りが出る)状態になったら、塩と小麦粉をまぶし、1日から2日間ほど天日干しにします。季節によって寝かせる時間を調節するなど、天候や気温と会話しながら作る作業は、長年の勘が頼り。「ねばねばの納豆を、ころころの干し納豆にするだけばってん、これがなかなか、コツがいるとですよ」と松井さん。
セツコさんの漬物。干し納豆、ねば納豆、梅干しなどと一緒に「ろくじ館」で購入できます
「どれも田舎の味ですけど、食べてみてください」と娘の髙橋由加里さん(55)が勧めてくれたのが、干し納豆や納豆、高菜などの漬物、おからのみそ漬けです。遠慮なく一番にいただいたのが干し納豆。こりこりと独特の食感で、かめばかむほど深い味わいがして、ビールが欲しくなりました。
セツコさん手作りの絶品「おからのみそ漬け」(300グラム1000円・注文生産)。おからにニンジン、昆布、シソの実、しぼり豆腐などが混ぜ込んであります
松井セツコさんと娘の髙橋由加里さん。髙橋さんは、コンピューターのインストラクターです
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