蓑毛鍛冶屋の本店は、人吉市紺屋町にあり、品ぞろえが豊富です
親子三代で鍛冶屋を営む「蓑毛(みのも)鍛冶屋」は江戸時代の創業です。下薩摩瀬町の矢黒バイパス(国道219号)沿いの工房を訪ねると、9代目の蓑毛稔さん(55)が800度を超える火床から真っ赤に焼けた鋼(はがね)を取り出し、“粗たたき”という成形作業の真っ最中でした。
「カーン、カーン、カーン」。工房内に響く甲高い金属の音。鋼の微妙な色の変化で温度を見極めながら槌(つち)を振るうたびに、ぱちっぱちっと火の粉が散ります。「金づちを刃物に垂直に当てるのがコツ。手の感覚が頼りだけん、言葉じゃうまく伝えられんとですけどね」と、手を休ませずに稔さんは話します。
そんな父親の様子を真剣なまなざしで見つめるのが、息子で10代目の勇(いさむ)さん(30)です。勇さんは昨春、海上自衛隊を退職し人吉に戻り、家業の鍛冶職人としての新しい人生を歩き始めました。
9代目の蓑毛稔さん(左)と10代目で息子の勇さん。勇さんは、1児のパパ
蓑毛鍛冶屋の工房。ここでは、鍛冶作りの体験(小包丁3500円、三徳包丁5000円)もできます
火床で熱せられた鋼をたたく作業。峰の部分を先にいくほど細くするなど、熟練の技が必要です
幼いころから、祖父と父が刃物づくりに取り組む姿を見て育った勇さんは、高校卒業後、鍛冶職人になるつもりでしたが、「社会を見てからでもいいんじゃないか? それでも継ぎたいと思うなら、その時考えればいい」と言った父の稔さんのすすめに従いました。
稔さんは、そのときの心境を「あのとき息子から『後を継ぎたい』と言われてびっくりしました。鍛冶屋は、一本でも切れ味が悪ければ、客が離れていくという厳しい世界ですからね。それに切れない刃物は、事故の元になるので常に真剣勝負なんです。だけん私の代で終わりだと思って、実は、ほっとしとったとばってん(笑)」と言いながらも、後継ぎの誕生に目を細めます。
「父が高校卒業後にこの仕事を始めたときは、祖父から2年間は火床に入らせてもらえないくらい厳しかったようです。私には、そんな祖父と父という師匠がいてくれ、恵まれてます」と勇さん。
そんな鍛冶の世界を自分も体験してみたいという人は、この工房では、「包丁作り体験」ができます(1人3500円~。所要時間1時間程度)。
鍛冶屋では「剣(けん)」と呼ばれるものを、毎年仕事始めに作り、壁に飾ります。左から蔵の鍵、槍(やり)、鎌を模してあり、商人、武士、農民を表しています
冷え切った工房内でも、火床の前に立つと汗ばむほど
また、「人吉クラフトパーク石野公園」内の鍛冶館でも包丁作り体験することができ、勇さんの祖父で蓑毛鍛冶屋8代目の裕(ゆたか)さん(83)が指導に当たっています。包丁も販売されており、自分の好みの長さや幅、大きさに合わせたオーダーメードの包丁の注文も気軽に応じてくれます。
旅の記念にと、蓑毛鍛冶屋の包丁を購入すると、裕さんが名前を刻んでくれました。台所でその包丁を手にするたび、ほがらかな蓑毛さん家族の笑顔が浮かんできます。
人吉クラフトパーク石野公園にある物産館では、工芸品からおみやげものまで人吉名物がそろいます
金曜から月曜までは、人吉クラフトパーク石野公園の鍛冶館で働く蓑毛鍛冶屋8代目の裕さん
購入した包丁に、裕さんが名前を彫ってくれました
人吉クラフトパーク石野公園内にある鍛冶館では、鍛冶体験だけでなく、たくさんの種類の包丁やナイフが購入でき、オーダーメードもできます
人吉クラフトパーク石野公園
- 人吉市赤池原町1425-1
- TEL.0966-22-6700
- 営/9時~17時(最終体験受付は16時)
- 休/年末年始
- ※鍛冶館は金~月の9時~17時オープン。
鍛冶作り体験(小包丁3500円、三徳包丁5000円)
各情報は掲載時のものです。料金や内容が変わっている場合もあります。