27日の同番組で「テラスハウス」の打ち切りを報じた際も三田アナは一度も下を見ることなく、カメラを見つめ、「番組の打ち切りで終わらせるのではなくて、何があったのか、防ぐことはきなかったのか、木村さんがどれだけ辛い思いをされていたのか、しっかりと受け止め、検証していくことが、私たちがすべきことだと、そう思います」と話した。
私は局を代表して自分の言葉で視聴者に語りかける、その姿に感動すら覚えたが、一方で「いくら、番組の顔のアンカーとは言え、一つの命が失われた件への局の責任をすべて背負わされるのは、あまりに酷ではないか」とも思った。
この5年間、フジの定例社長会見を取材し続けてきた私は、遠藤社長が自分の言葉を持つトップだと言うことを知っている。
昨年6月7日、東京・台場の同局で行われた就任会見。数々のバラエティー番組出演でもおなじみとなった183センチの大柄な体に照れ笑いを浮かべ、約100人の記者の前に現れた遠藤氏の父は「沈黙」「海と毒薬」などで知られる芥川賞作家・遠藤周作氏。私自身の記憶としては「沈黙」などの名作に読みふけるはるか前、72年の「ネスカフェゴールドブレンド」のテレビCM、「ダバダ~」という音楽とともに「違いのわかる男」として登場する映像の方が、くっきりと記憶に残っている。
「狐狸庵(こりあん)先生」としてユーモアたっぷりのエッセーでも知られた父上同様、遠藤氏の周囲には常に笑いがいっぱい。就任会見でも「好きな本は?」と聞かれ、「著者は忘れちゃったんですが、『沈黙』という小説です」と、周作氏の代表作の名前を挙げ、記者たちを爆笑させた。
そんな、ユーモアたっぷりの横顔の反面、2005年、堀江貴文氏(47)のライブドア(当時)によるニッポン放送の株式取得とフジの経営権奪取騒動の際には広報部長として矢面に立ち、取材対応にあたるなど数々の修羅場も経験。私自身、社長就任前の専務時代から、どんな質問にも時にユーモアもまじえ、それでも真っ正面から答えてくれる姿に大人(たいじん)の風格を感じ取ってきた。
だからこそ、今回ばかりはコロナに負けず、たとえ「記者は1社1人」の制限をかけてもいいから、遠藤社長の書面には書き切れない、あふれる思いを生の声で聞きたかった。トップとしての説明責任もあると思った。
それでも、もう何も言えない木村さんと違って、私には生きている限り取材のチャンスが、これからもある。先が見えないコロナとの闘いの中、いつになるか分からない次回の会見に、私は必ず駆けつける。そして、手を挙げて、遠藤社長に聞く。「何が木村さんを追い詰めたと思いますか」と―。
なぜなら、レスラーとして夢にも希望にもあふれていた22歳の死を、絶対に風化させたくないから―。(記者コラム・中村 健吾)
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