2006年03月19日

講座:イスラム圏の性事典『匂える園』(2)体位、接吻

81bdded2.jpg チュニジアは古代にはカルタゴ王国やヴァンダル王国の栄えた輝かしき土地でありました。
 しかし長所であるはずの地の利のよさは弱点ともなり得ます。多くの征服者がこの豊かな国を奪いました。
 中世以降のチュニジアは、イスラム世界のいわば一地方となりました。小さな王国が生まれては消えてゆきました。
『匂える園』が書かれたのは推定1519年ですが、当時の王国も弱体化していたようです。十数年後には海賊に首都を奪われるという不名誉な事件が起き、やがてオスマン帝国に併合され、オスマンの属領となったのです。
 斜陽の時代に文化の粋を集めて書き残された書物。そう思って『匂える園』を読みますと、少しもの悲しゅうございますね。

 さて、中身の紹介を続けます。

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★2:性愛術

 いわゆる正常位やそのバリエーションなど、11の体位が記されております。
 またインド伝来の29の体位も記されております。
 インド伝来体位のほうがおもしろいです。滑車を使う「首吊りの体位」とか。http://mixi.jp/view_diary.pl?id=315599&owner_id=5644
 インド人の創意工夫ぶりには著者マホメッド・エル・ネフザウィ氏も驚いたようです。「実用に際して不可能なものも少なくない」と嘆いています。

 不可能なものに言及してしまった罪を償うつもりでしょうか。ネフザウィ氏、次の章では体格が著しく異なる男女に対して、まめに体位の助言をしてくれています。

 愛撫のテクニックに関する記述が少ないのは残念。
 しかし接吻についてはこまごまと書かれていました。

  接吻がなかったならば、どんな愛の行為も本当の歓びを得る
  ことはできないであろう・・・最も優れた接吻は、濡れた唇
  を触れ合わせ、互いの唇や舌を吸い合い、特に、甘く新鮮な
  唾液を交換し合うことである。・・・そのうち女は清水に溶
  けた蜜よりも甘く、繊細な、特別の唾液を分泌するようにな
  る。それは、ふだん口の中にある唾液とはまったく別のもの
  である。・・・

 ところでネフザウィ氏のイチ押しは、「杵つきの体位」と申すものでございます。
 姫方が殿方と向き合って座り、脚を殿方の腰に巻きつけ、「おもむろに男茎を玉門におさめ」、殿方は姫方の腰を上げ下ろしし、姫方も殿方の動きに合わせて動くのだそうです。
 カップルの方々はさっそく試してみましょう。

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 閨事をしすぎると体によくないことはつとに知られていますね。
 粘液質・多血質・胆汁質・憂鬱質という言葉を、皆様聞いたことがおありでしょうか。古代ギリシャのヒポクラテスが命名した、人間の気質の分類法です。『匂える園』にはこの分類法が出てまいります。さすがは地中海世界、さまざまな思想が混交しているのですね。
 ネフザウィ氏はさる賢者からの引用として、こう書いています。
“粘液質・多血質の男は月に二度か三度を超えるべきではない。胆汁質・憂鬱質の男は月に一、二度を超えるべきではない”。

「なんだよ、最高でも三度しかできないじゃんかよ!!」と思ったそこの殿方。がっかりめされるな。
 ぬかりないネフザウィ氏は、いたしすぎて元気が失せた場合の治療法についてちゃんと付け加えていますよ。
 いわく、雄山羊の血と蜂蜜を混ぜ、ちむ×に塗れば、また素晴らしい悦楽が得られるそうでございます。
 荒淫の殿方はさっそく試してみましょう。雄山羊の血が手に入ればの話ですが。


***画像***
好色本の挿絵。19世紀。(『中近東のエロティック・アート』)


追記:
 「お互いの陰毛をぴったりと密着させる」という記述がございました。
 あたくし、中近東のイスラム圏の姫方は毛を剃るものだと思っておりましたが、チュニジアまたは北アフリカでは剃らなかったのでしょうか?現在はどうなのでしょうか?
 この点をご存じの方がいらしたら、ぜひ無知なアンナめにご教示をお願いいたします。m(_ _)m

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この記事へのコメント
初めまして。エントリー、楽しく読ませて頂きました。「匂える園」は我が国では発禁本の定番だったようですね。1970年頃、「えろちか」という雑誌でこの性典が紹介されていたのを読んだ記憶がありましたので、懐かしい思いが致しました。今後とも楽しいエントリー、期待しています。
Posted by 下等遊民 at 2006年06月18日 07:49
初めまして。エントリー、楽しく読ませて頂きました。「匂える園」は我が国では発禁本の定番だったようですね。1970年頃、「えろちか」という雑誌でこの性典が紹介されていたのを読んだ記憶がありましたので、懐かしい思いが致しました。今後とも楽しいエントリー、期待しています。
Posted by 下等遊民 at 2006年06月18日 07:50
うす。ご多忙と聞きますたが優雅な君に忙しいのは似合わない!だがお転婆な君ならチュニスどころか空爆のレバノンにも行きかねない!この夏後半は優雅でいなはれ。書物に埋もれて。…ハイ、催促です。続き書けよ~
PS,お祭り見ましたよ
Posted by ゴルゴン at 2006年08月06日 00:55
ギャッ。長らくコメントに気づきませんでした。

>下等遊民様

反応がたいそう遅れて申し訳ございません。こちらのコメントにも書きました通り(http://blog.livedoor.jp/maririanna/archives/50292731.html)、枯れ果て過ぎて休眠状態でございまして。
発禁本だったとは存じませんでした。70年頃にもまだ禁止だったのですか。今となっては信じられないほどの当時の日本の純情ぶりですね。
ところで「えろちか」という本、ひらがな表記が色っぽいです・・・。


>ゴルゴン様

えー、失礼ですが、どちら様でしょうか・・・(汗)なぜ私の周囲には妙な名前を名乗りたがる人が多いのか・・・August 06「お祭り見た」ってどのお祭りかしらん・・・
ハイ、おてんばモードも優雅モードもお休み中です、スイマセン。8月はまったり・だるだるモードで過ごしました。あーそろそろ何とかしなきゃ。
Posted by アンナ at 2006年09月22日 02:50
>チュニジアまたは北アフリカでは剃らなかったのでしょうか?

全然関係ない話ですけど北アフリカに属するチュニジアには女性器切除の習慣が無いようです。同じ北アフリカのエジプトにはあるのに。
Posted by 釣本直紀 at 2007年07月28日 02:06