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 世界の主要国のなかでロシアのプーチン大統領(67)は突出して長く、その座にいる。それでもなお任期を延ばし、2036年まで続けることも可能にする憲法改正が実現する。

 旧ソ連だった隣国の領土を一方的に併合し、核軍拡にも進もうとする長期政権である。権威主義がますます強まることを懸念せざるをえない。

 国民投票の結果は、8割近くが賛成したと選管は発表した。だが、投票に至る手続きはあまりに問題が多かった。

 1月にプーチン氏が改憲を打ち出した際は、24年に職を去るはずだった。ところがその後、与党議員からの要請を口実に、任期をリセットする内容が突然盛り込まれた。

 政権は投票呼びかけのCMを大量に流したが、任期延長にはほぼ触れなかった。年金水準の維持、伝統的な価値観の継承、主権と領土の擁護など、賛成しやすい内容を連呼した。

 プーチン氏は投票最終日の前日、第2次大戦のソ連兵の記念碑を背に、国民の団結を訴えた。反対派の集会などは、コロナ禍を理由に許可されなかった。多岐にわたる改憲項目を抱き合わせにして賛否を問う設問も、批判を招いた。

 任期延長が狙いなのに、それを覆い隠して愛国心をあおり、国民投票を思惑通りの結果に導く。そんな政権の不誠実さが際立つ改憲プロセスだった。

 プーチン氏は00年に初当選した際は「法の独裁」を訴えていた。腐敗と暴力が支配する当時のロシアでは説得力を持った。しかし、権力者の専横を抑制するはずの憲法を、まるで終身大統領制のように改変してしまう今のロシアは、すっかり「プーチンの独裁」の様相だ。

 憲法には新たに、領土の割譲を禁じる条項が盛り込まれた。これは日本との平和条約交渉に影響しそうだ。

 隣接国との国境画定については例外とする規定もあるが、そもそもロシアは日本との国境は第2次大戦の結果として画定済みとの立場だ。

 北方四島のうちの一部であっても、ロシアが日本への引き渡しに動くことは非現実的だと考えるべきだ。

 第2次大戦勝利はこれからも政権の求心力強化に使われるだろうし、国際秩序の不安定化を画策するプーチン氏の手法は、改憲後も変わるまい。

 日ロ首脳会談は当面実現が見込めない。安倍政権はこれを機に、プーチン氏に懇願するだけの対ロ外交を見直すべきだ。

 その際、四島返還路線からの転換など、これまでの不透明な交渉経緯を国民に説明する責任があるのは言うまでもない。

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