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 職場で「在日は死ねよ」などのヘイトスピーチを含む文書を配布され精神的苦痛を受けたとして、東証1部上場の不動産大手「フジ住宅」(大阪府岸和田市)で働く在日韓国人3世の50代女性が、同社と会長を相手取って3300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が2日、大阪地裁堺支部であった。中垣内(なかがいと)健治裁判長(森木田邦裕裁判長代読)は同社と会長に計110万円の支払いを命じた。

 この訴訟で原告側は「人種差別・民族差別的な言動にさらされない権利」を掲げ、同社が職場環境に配慮する義務を怠った違法性があると主張していた。

 判決は、国籍による差別的取り扱いを禁じた労働基準法の趣旨などを踏まえ、会社の使用者が嫌悪感情に基づき、在日を含む特定民族を出自とする者らを「死ねよ」などと中傷する文書を社内で配布すれば、そうした出自を持つ労働者の名誉感情を害すると指摘。

 さらに、今回の中傷文書の配布は社員教育の一環としたうえで、使用者から差別を受けるのではないかという危惧感を労働者に抱かせ、労働者の内心の静謐を害するとも指摘した。そのうえで原告の差別的取り扱いを受けない人格的利益を侵害する恐れを発生させており、文書配布を「社会的に許容できる限度を超えている」と違法と判断した。

 原告側は訴状などで、会長は遅くとも2013年以降、「悪事を批判されるとすぐに『差別ニダ!』と大騒ぎする在日朝鮮族」といった記事やネット上の書き込みなどを印刷し、従業員に多数配布したと主張。在日韓国人である女性の人格権を侵害したなどと訴えていた。

 女性はさらに、就業時間中に教科書展示会に動員され、アンケートで「新しい歴史教科書をつくる会」の元幹部らが編集した育鵬(いくほう)社の中学教科書に好意的な回答を書くよう求められたことで精神的苦痛を受けたとも主張していたが、判決は「業務と関連しない政治活動で、原告の政治的な思・信条の自由を侵害する差別的取り扱いを伴うもので原告の人格的利益を侵害して違法だ」と述べた。

 被告側は、文書は史実に基づく「政治的な意見論評だ」としてヘイトスピーチに当たらないとしたうえで、文書を読むことは強制しておらず、会長らの表現の自由を制限してまで原告の法的権利を保護する必要はないと反論していた。

 被告側は教科書展示会への動員については、参加を強制した事実はなく、展示会への参加を呼びかけること自体は違法にはあたらないと主張していた。(遠藤隆史、山本逸生)