20-1. 阿漕、奔走する

さて、阿漕はただ一人、相談できる人もなく、心は千々に乱れて、立ったり座ったりと忙しくしていた。

今夜こそは、姫に恥ずかしい思いをさせるまいと、姫の部屋を少しでも見栄え良くしようと、落窪の塵を払って、あれこれせわしく部屋を整えた。

しかし、部屋に屏風や几帳といった調度品が一つも無いので飾り立てることも出来ず、困り果てていた。

肝心の姫はまだ心もおぼつかない様子で寝ている。

寝床の敷物をきれいにしようと起こすと、顔が赤くなって、本当に苦しそうで、目は真っ赤に泣きはらしている。

あまりにもあわれだったので、なんとか気分をなおさせようと、阿漕は

「さあ姫様、おぐしを梳きましょう。」

と、落ち着いて大人びた様子で姫の髪をすいた。

それでもまだ姫が気分が悪そうなので、仕方なく阿漕はまた一人で部屋を整え続けた。

こんな姫だが、姫は少しばかりの道具を持っていた。

亡くなった実の母親のもので、鏡などは実に見事な細工が施されたものだった。
「これだけでも持っていて良かったこと。ほら、部屋が見違えましたよ。」
阿漕は鏡を綺麗に拭いて、枕元に飾った。


このように時には大人の女房のように采配をしては、時には子供の女の童がするような雑用までこなし、阿漕は一人忙しくあちこち奔走した。
「もう少将がおいでになるころね。姫様、あたしのお古で大変畏れ多いのですが、まだ二回くらいしか着ていない袴があるので、それをお召しくださいまし。昨日はあんなおいたわしい姿でさぞ辛い思いをなさったでしょうから。」
そう言って、阿漕はまだ新品のように綺麗な自分の袴をひっそりとさしあげた。

「馴れ馴れしいと存じますが、誰も姫様の後見として衣装を用意してくれる方がおりませんので。辛抱くださいまし。」
姫は自分の女の童から袴をもらうのを恥ずかしく思ったが、一方で今夜も昨夜と同じような思いをしたくはなかったので、阿漕の親切を感謝して受け取った。

「薫物(たきもの)は、前に三の君が裳着をなすったときに、少しばかりいただいた物を取っておきました。」
そう言って、香を薫いて、着物をかぐわしく匂わせた。
「どこにでもある調度品の三尺の几帳が最低でも一ついるわね。何もないってのはさすがに良くないわ。さあ、どうしたもんかしら。誰に借りましょう。」

そう部屋を眺め回せば、姫の夜具が薄っぺらいのも気になった。
すると一人、阿漕の脳裏に阿漕の叔母が浮かんだ。

阿漕の叔母はかつて宮仕えをしていたのだが、今は和泉守(いずみのかみ)の妻になっていて、羽振りがいいようだった。

さいわいその叔母はひどく阿漕を可愛がっていて、自分の家で働かないかと誘ってくれていた。

阿漕は落窪姫が気になるばかりに断っていたが、叔母が阿漕を可愛がってくれているのには変わりなく、頼れるのは叔母だけだった。

そうと決まれば善は急げ、阿漕はさっそく叔母に手紙を書いた。

 

 

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姫はあまりの恥ずかしさに寝込んでしまいました。
やはり、みすぼらしい姿を人に、特に少将のように立派な、一夜を共にした人に見られたのがこたえたようです。

一方、阿漕の本領発揮です。

気がきく、というのが彼女の売りですから、こういう物を手配采配するのは彼女の十八番です。

少将の単と阿漕の袴、これで姫君の身なりは整いました。

でも、部屋はまだ殺風景な落窪のままです。

どうする阿漕!

 
 

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