社員が20人以下の会社ならば、承認や決済をもらう相手もたかが知れている。下手をすれば、ハンコをもらう上司は隣の席に座っていることもあるだろうし、パソコンのネットワーク上でやって、これまで通り紙を打ち出してハンコをもらっても、業務面ではそこまで劇的に効率化しないだろう。
何か事を進めるために組織内を駆けずり回って、いくつもハンコをもらわないといけない巨大組織の場合、ハンコ業務をなくすことで劇的に業務効率が改善されるが、アットホームな小さな組織の場合、そこまで目に見えて大きな効果はない。そのため、小さな会社の経営者たちは、「わざわざそこまでやらなくてもいいだろう」と、社員たちに従来のハンコ業務を惰性で続けさせてしまうのである。
つまり、この「小さな会社になればなるほど、そこまでIT化の必要に迫られていない」というのが、脱ハンコの最大の障壁なのだ。
実は誰も必要に迫られてない?
ハンコ文化のベースにある産業構造
日本企業の99.7%にあたる419.8万社で働いている約2784万人の労働者にとって、「脱ハンコ」というのは、一部の大企業や意識高い系の企業が始めた最先端の取り組みであって、自分たちのワーキングスタイルとあまり関係のない、別世界の話だということがわかっていただけるだろう。
それはつまり、この問題に関してハンコ業界やはんこ議連、ハンコ出社を強いる上司を憎々しげにディスることは、ほとんど意味がないということだ。「印章文化を守れ」とか、「日本の社畜文化が悪い」とか、そうした類の話でもない。
言ってしまえば、この問題の根っこは「産業構造」にある。「小さな会社が異常なほど多い」という日本特有のバランスの悪い産業構造を変えないことには、どんなに使い勝手のいい電子印鑑や電子承認システムができようが、政府が補助金をバラまこうが、「脱ハンコ」は進まないのだ。
なぜ、それほど自信満々に言えるのかというと、歴史が証明しているからだ。
日本人は忘れっぽいので、この「脱ハンコ」というムーブメントは、組織内のITインフラの整備が進んだ近年になって騒がれ始めたことのように誤解をされているが、そうではない。