「ひきこもり」はもはや日本だけの話ではない。今の時代を象徴する世界共通の問題であり、それがコロナ禍による若者世代を特に直撃し、ますます根深い社会問題となっている。「8050問題」を抱える日本の「ひきこもり」が100万人(100人に1人の割合)を超える一方、フランスでも「Hikikomori」という言葉のままに20年程前から徐々に問題視されている。
現在コロナ禍で就職の目処がたたなくなり、挫折や閉塞感から将来に希望を失った若者が増えることが懸念されており、当問題は今後見えないところで深刻化することは避けられない。若年層に深刻化しているフランスの「Hikikomori」の現状とは。
日本は「ひきこもり現象の研究所」
先日フランスの公共放送(フランス5)で「Hikikomiri」のドキュメンタリーが組まれ、数年前からフランス社会に影を落とす同問題を取り上げた。同番組では日本を「ひきこもり現象の研究所」と例えたが、フランスの精神科医や研究者たちは、多様なケースを報告する日本の専門家と定期的に交流の場を設け、解決のヒントを探っている。ひきこもりから抜け出すために実家を出て、当番制で自炊をしながら共同生活をする寮の存在も、模倣の候補として目をひくようだ。
フランスで多くの場合把握されているひきこもりのケースは14〜25歳の若者に多く、40代以上が半数以上を占める日本とは少々異なる。「Hikikomori」は日本政府が定義する「6カ月以上自分の部屋から出ず、社会と断絶してしまう人」のことだと紹介しているが、仏の精神科医にとっても未だに解明しきれないことが多い。
約20年にわたって「ひきこもり」の症例を診察しているパリの精神科医・ゲジュ先生は、ひきこもりの原因について、「ひとつだけではなく様々な要素が絡み合って起きるもの」だと語る。学校や会社などでいじめや屈辱的な出来事の経験、親の病気や死別、家族の崩壊といったことが引き金になるという。その結果、「ひきこもりになる人は、感じた苦痛を緩和することができず、(親の)家から出られなくなってしまう」のである。今まで何となく感じていた、社会で「普通に」生きることへの違和感がこういった経験と重なることで引き起こされる問題なのかもしれない。
ゲジュ先生の患者の一人であるラファエル(26歳男性)は2年前からひきこもっているが、きっかけは職場でのいじめだった。その結果、社会でのストレスに耐えきれず、外出に拒絶反応を起こすようになった。夜中の2時に寝て、朝は10時から13時の間に起き、そのままパソコンの前に座る毎日を繰り返す。
「起きたとき、まだ生きていたんだと思う」と語る。ビデオゲームのプログラマーになる専門学校に通った後就職するもすぐに辞め、24歳で実家に戻るとそのままひきこもるようになった。母親は、「(社会復帰は)『したくない』からといったわがままではなく、本当に『できない』という状態だった。大人の世界に踏み出すことをどこかで怖がり、勝手に判断をされたり偏見をもたれたりすることを恐れ、未だに私たちも答えを見つけられない」という。
ひきこもっている人の何人かが口をそろえて言うのは、「気分が楽になったのはひきこもった最初のうちだけだった」ということだ。その後は、「まるで潜水艦の中に閉じ込められたような気持ちになる」という。つまり外界の音も聞こえない、自分の声も届かない、そんな孤独な殻からどうしても抜け出せない感覚を抱えるということだろう。