緊急事態宣言が解除されて1カ月が経過した。とはいうものの、東京では新型コロナ感染者が再び増加しつつあり、引き続きの警戒が必要そうだ。そして2月以来の「自粛」と4月に出された緊急事態宣言は、6月現在もメンタルヘルスの土台を静かに切り崩し続けている。今後、アルコール依存症と回復への深刻な影響が、明らかになっていくだろう。誰に資金を渡せば、悪影響を最小にできるのだろうか。
新型コロナとアルコールの密接な関係
新型コロナウイルス感染症は、人間の身体に「総攻撃」というべき幅広いダメージを与える。
まず、もともと持病がある場合、ダメージが拡大しやすい傾向がある。たとえば肝臓疾患を持つ人は、肝臓にダメージが発生しやすい。しかし、それは肝臓が特にダメージを受けやすいということではない。発症時、飲酒によってダメージが拡大する可能性はあるけれども、それは通常の感染症と同様だ。もちろん、「感染すると酒が飲みたくなる」という症状が知られているわけでもない。では、どういうことか。
今年2月から5月にかけての日本では、不要不急の外出を避けることが推奨され、外出や社交の機会が激減していた。新型コロナの影響による経済的打撃を受けなかった幸運な人々も、外出を控え、100円均一ショップでの爆買いからパチンコや風俗に至るまで、気晴らしの機会が極度に減少した毎日を送ることになった。他者と接触する機会が減少することは、人間関係ストレスの軽減に役立つ場面もあるが、孤立感をもたらす。
テレワークと休校は、共働きの親と子どもが毎日を共にする機会となり、満員電車での通勤から多数の人々を解放した。しかし、職場や学校と私生活に境界線を引く「通勤」や「通学」がないことは、新しいストレスの源ともなる。そこに、先行きの不透明感や、見えないウイルスによる知らない間の感染への不安が重なる。1月以前と比較すると、全体的に孤立感やストレスが増加していたことは確かであろう。
孤立感やストレスは、飲酒の契機となったり、飲酒量が増大する背景となったりしやすい。そして、今年2月から5月にかけての時期は、孤立感とストレスが増大しながら持続していた。緊急事態宣言下、居酒屋の多くは営業自粛要請や休業要請に応じていたが、一般向けのアルコール飲料販売は全く制限されなかった。この時期の日本社会は、アルコール依存症者の大量生産装置となっていた可能性がある。
酒類小売とコンビニの実績が示す酒への需要増加
実際のところ、新型コロナは日本人の酒量を増やしたのだろうか。それとも減らしたのだろうか。まず、販売実績から見てみよう。
酒類小売大手のカクヤスが4月3日に公表した株主向け文書によると、売上高の前年同月比は1月103.7%、2月104.6%、しかし3月は81.8%と急激に落ち込んでいる。特に飲食店やホテルを対象とした業務向けの売上高の減少が激しく、3月は前年同月比で71.7%となっている。カクヤスによれば、さらに「夜間の外出自粛が強化されてきたこともあり、影響は拡大してきて」いた。
しかし同時期、家庭向け消費の売上高は、前年同月比で、1月は99.9%、2月は108.1%、3月は107.8%と増加している。カクヤスによれば、「在宅勤務や外出自粛等による家庭内消費の増加にともな」うものである。
次に、コンビニの売上動向を見てみよう。「セブン」「ファミマ」「ローソン」をはじめとする大手コンビニチェーンが加盟している日本フランチャイズチェーン協会(JFA)は、毎月「コンビニエンスストア統計調査月報」を公表しているが、売上の推移は「日配食品(毎日配送される食品)」「加工食品」「非食品」「サービス」の括りとなっており、酒単体での変動は不明だ。しかし、解説に売上が伸びた商品と理由が記載されている場合もある。
同月報によると、1月は「新型肺炎の影響等によりマスク等の衛生用品の需要が増加」、2月は「新型コロナウィルスの影響により、マスク等の衛生用品、トイレットペーパー等の紙製品や(略)中食の需要が増加」し、総売上高は前年同月比で増加していた。3月に入ると、「外出自粛等が来店客数に影響」し、売上は減少に転じるが、中食は「引き続き好調」、冷凍食品やレトルト食品は「まとめ買い需要が増加」となっている。
緊急事態宣言が発令された4月も売上は減少しているが、「冷凍食品、レトルト食品、酒類等のまとめ買い需要」が述べられており、はじめて「酒類」が出現している。5月も売上は不振だが、「冷凍食品や酒類等のまとめ買い需要」があるという。この間、客単価は1月の645円から5月の696円へと伸びている。客単価を押し上げた要因の一つは、酒の購入であろう。
カクヤスとJFAのレポートを見る限り、コロナ禍が家庭内での酒の消費を増加させた事実は、確かであろう。しかも、家飲みは安上がりだ。居酒屋に入ると、たいていは300~500円程度の「お通し」が出てくる。良質な日本酒1合(800円)を2杯、さらに2品を注文すると、費用は3500円~4000円程度となる。しかし家飲みなら、同じ金額で、同じ日本酒を1升と、良質な缶詰やレトルトのつまみをいくつか購入できる。さらに、居酒屋のスタッフや隣席の客のような「飲み過ぎストッパー」はない。特に単身者かつテレワークの場合、毎日泥酔して朝も昼も夜もケトン(アルコールが体内で分解される際に生成される物質)やアルコールの臭いを漂わせていても、誰にも気づかれない。
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