「井森だからイモリ」売れなかったアイドルが“バラドル”に

西日本新聞

放送作家・海老原靖芳さん聞き書き連載(37)

 女性アイドルの登竜門にホリプロタレントスカウトキャラバンがあります。芸能事務所ホリプロの新人発掘オーディションで、第1回の榊原郁恵から堀ちえみ、深田恭子、石原さとみらがグランプリを獲得し、アイドルや女優として芸能界で活躍しています。

 TBS制作の公開コメディー番組「爆笑・一ッ気族!」(1985~87年)の担当作家だった私は、プロデューサーの桂邦彦さんにあることを頼まれました。「ホリプロにイモリってのがいるんだけどさ、歌やドラマではいまひとつなんだよ。事務所がプッシュしているんだけどエビちゃん、何とかしてくれない?」。井森美幸のことです。

 井森は84年のスカウトキャラバングランプリ。11万人を超える応募者の頂点です。すごい競争を勝ち抜いたではありませんか。応募者の数は福岡県大牟田市や春日市の人口とほぼ同じ。世界に目を移せば太平洋に浮かぶ島国、キリバスの人口にも匹敵。大牟田1位、春日1位、キリバストップが井森美幸です。でも、なかなか売れなかった。

 さてどうするかと思案した私たち。いろいろな役をやらせましたが、いまひとつ。会議で誰かが発言しました。「井森だからイモリにしようよ」。実に短絡的でしたが、これが当たりました。次の収録から、両生類イモリの着ぐるみ姿の井森を登場させました。

 私が書いた台本で、一家だんらんの場面でも井森だけはイモリの着ぐるみ。時代劇も井森だけはイモリの着ぐるみ、トークも井森だけはイモ…。最後まで井森は有尾目イモリ科イモリ属のイモリで通しました。

 1話完結のコメディーなので、設定やストーリーは毎週違っていましたが、どんな場面でも唐突にイモリを登場させ、山田邦子や大竹まことと絡むようにしました。邦子も大竹も意図を分かっていてアドリブでいじります。井森は最初戸惑っていましたが、回を重ねるにつれアドリブで返せるようになりました。

 

 時には大竹の私生活暴露ネタをこっそり教え、本番での逆襲ネタに使わせました。会場は大爆笑。井森も自信を付けたようで、笑いを取れるアイドルとして定着。ホリプロもそれが分かったらしく、担当マネジャーから「この路線でいきます!」とうれしそうに言われました。

 井森はバラエティーアイドル、いわゆるバラドルと呼ばれた第1号だったと思います。

(聞き手は西日本新聞・山上武雄)

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 海老原靖芳(えびはら・やすよし) 1953年1月生まれ。「ドリフ大爆笑」や「風雲たけし城」「コメディーお江戸でござる」など人気お笑いテレビ番組のコント台本を書いてきた放送作家。現在は故郷の長崎県佐世保市に戻り、子どもたちに落語を教える。

※記事・写真は2019年07月30日時点のものです

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