作家として充実した日々 名物プロデューサーから“頼み事”が
放送作家・海老原靖芳さん聞き書き連載(36)
コント台本を書き続けた「ドリフ大爆笑」の実績のおかげで、私は仕事の幅を広げることができました。TBSの名物プロデューサー桂邦彦さんに依頼され、私が台本を書いた公開コメディー番組「爆笑・一ッ気族!」(1985~87年)もその一つです。
「一ッ気族!」は山田邦子、シティボーイズ(大竹まこと、斉木しげる、きたろう)、桜金造らをメインにコントを新宿コメディシアターで収録。東京ローカルの番組ながら、お笑いオタクたちの支持を得ていました。「ドリフ大爆笑」は月1回の放送で複数の放送作家で分担していましたが、「一ッ気族!」の作家は私1人だけ。重圧がかかりましたが、自由に書かせてもらいました。
邦子が拝一刀(おがみいっとう)、金造が大五郎役で「子連れ狼(おおかみ)」のパロディー時代劇をやったときは、一刀の敵、柳生烈堂役の大竹をタキシード姿で登場させるなどちょっとシュールな番組でした。
正月のスペシャルは江戸の博徒をコントにした「新春ヤクザ対抗バクチ大会清水一家VS黒駒一家」。今なら放送できないタイトルですが、特別ゲストで坂上二郎さんや小松政夫さんが出演し、笑いを取りました。そういえば、グラビアで活躍した堀江しのぶさんも出ていました。健康的な方でしたが、23歳で早世されたのは残念です。
スラップスティック(体を張ったドタバタコメディー)のような笑いが好きだった私は、米国のサイレント映画出身の喜劇役者チャールズ・チャプリンと並ぶバスター・キートン、ハロルド・ロイドが特に気に入っていて、その影響も受けていましたね。
収録が終わると、桂さんをはじめスタッフや出演者が邦子の家に集まり、飲み会を楽しみました。彼女は料理上手。舞台では主役の邦子もこのときは脇役に回り、共演者やスタッフにおいしいものを振る舞い、周囲を喜ばせる気さくな性格でした。
一体感があって充実し、やりがいを覚える仕事。ある日、桂さんに飲みの席に呼ばれました。頼み事のようです。
「あのさあ、アイドルを使ってくれよ」
そのアイドルはオーディションで、なんと11万人以上の応募者の頂点に立ったというではありませんか。同じオーディションで審査員特別賞だった女優鈴木保奈美よりも上のグランプリを獲得したのです。
さて、誰でしょうか。(聞き手は西日本新聞・山上武雄)
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海老原靖芳(えびはら・やすよし) 1953年1月生まれ。「ドリフ大爆笑」や「風雲たけし城」「コメディーお江戸でござる」など人気お笑いテレビ番組のコント台本を書いてきた放送作家。現在は故郷の長崎県佐世保市に戻り、子どもたちに落語を教える。
※記事・写真は2019年07月29日時点のものです