「ん?」
人の叫び声が遠くから聞こえてくる。それも一つや二つではなく複数だ。女性の悲鳴、男達の喚くような声。それが、皇城内にあるこの謁見場に聞こえてくるという事は··········。
「客人がこられているというのに騒々しい。しかし、どうやら何か起こったようだな·····」
最初は兵士が喧嘩でもしているのかと考えていたのだが、明らかにそんなレベルではない。喧騒は益々大きく、そして近くなっている。
やがて、この場にいる誰にでもわかるほど、慌てて荒々しく駆けてくる足音が聞こえてきた。
「·····それも歓迎すべき事態ではなさそうだ」
ジルクニフの言葉と同時に、謁見の間の扉がバカン! と勢いよく開かれ、部屋の中に完全武装した金髪の女性騎士が飛び込んできた。完全に礼を失している行為だが、それだけのことなのだろう。
ちなみに、扉が開くより前にバジウッドが皇帝を守れるポジションに移動していたのは流石だ。もちろん足音の主はわかっていただろうが、彼女には皇帝に対する忠誠心はないし、護衛として正しい行動だろう。
女性騎士は顔半分を金色の布のようなもので覆っているが、露出している部分をみると整った顔立ちをしている。
「失礼いたしますわ、陛下」
ツカツカと中に入り、素早く臣下の礼をとる。
「"重爆"客人の前だぞ。·····緊急事態だな?」
一応注意はしておくが、そうせざるを得ないということは理解している。
「申し訳ございません·····手順を守る余裕がございませんでしたので。陛下、アンデッドが暴れております。それもこの城内で!」
帝国四騎士の一人、"重爆"レイナース・ロックブルズは、ありえない事態をサラりと告げた。
「なんだとっ! 馬鹿な·····」
思わず椅子から立ち上がる。
(ありえんっ! 帝国でもっとも安全なこの場所で!? それに兵もいるのだぞ?)
帝国の兵士は、専業であり訓練を積んでいる。多少のアンデッドくらいに対処出来ないはずはない。
「アンデッドですって·····私ドキドキします」
「怖いのか?」
「ううん、怖くはありませんわ。サトルがそばにいるもの·····」
「ラナー。君は俺が守るよ」
「はい。守られます」
囁き合う二人の声が聞こえる。
(まったく·····やれやれだな·····)
ジルクニフは客人に対して怒ることもできず、心の中で愚痴るしかない。
「·····対応出来ないとすると·····」
それはつまり、そのアンデッドは相当強いという事になる。ジルクニフは一つ気になる事があった。確か以前強いアンデッドの話を聞いた事があるのだ。
「まさか·····
傍に控えていた白髪白髭の老人が険しい顔になる。
「詳しくはわかりませんが、身の丈は2メートルに達し、大きな盾を構えているとか。食い止めようとした兵士は、一撃で戦闘不能になったようですわね。陛下、正直逃げた方がよろしいかと思いますわ。もう、逃げてよいかしら?」
この提案はもちろん拒否された。
「ぐわっ!」
「ぎゃあああっ!」
叫びが段々近くなってくる。
「ここで食い止めろっ!」
「おおおっ!」
決死の兵士達。しかし、その声もあっというまに聞こえなくなった。
そして、謁見の間の扉が砕け散り、レイナースの情報通りに大きな盾を構えた死の化身が姿を現した。
「グガアアアアア!」
身の毛もよだつような叫び声。兵士のいく人かは、驚きすくみ上がってしまっている。
「やはりデスナイト·····」
老魔法使いが驚きの声をもらす。ここにいるはずが無い存在なのだ。
「陛下やばいぜ、コイツは·····やばい!」
「やはり逃げるしか·····」
遠ざかろうとするレイナースの首をバジウットは掴み踏みとどまらせる。
「くそっ、四人がかりで食い止められるかわからんレベルだ」
本能が危険だと叫んでいる。
「あれがアンデッドさんですか、個性的で可愛いですね」
場違いなラナーのはしゃぐ声が響いた。
いつもありがとうございます。
感想など、返せず申し訳ない。