王位戦7番勝負 最年長VS最年少の魅力

2020年7月1日 07時47分
 将棋の王位戦七番勝負が一日に開幕する。最年長で初タイトルを手にした苦労人、木村一基王位(47)の防衛か。最年少棋士の天才、藤井聡太七段(17)の奪取か。ファンでなくとも注目の対決となる。
 六十一期を数える王位戦。通算で最多の十八期獲得を誇る羽生善治九段(49)をはじめ、名棋士たちによる過去の戦いにまして今期が注目を集めるのは、やはり挑戦者が藤井七段であるためだろう。
 六月二十三日の挑戦者決定戦での戦いぶりも見事だった。
 中盤の勝負どころでは、一時間三十六分の長考。わずか一手を指すのに、四時間ある持ち時間の四割をも費やしたのだ。持ち時間を先に多く使うと、終盤では不利に働く。だが、ここぞという局面で落ち着いて深く考えられない棋士には、勝利も成長も訪れない。
 対局後には、七番勝負への抱負として「ゆっくり考えられるのは楽しみ」と述べた。持ち時間が倍の八時間に増えるためだ。
 また、敗れた永瀬拓矢二冠(27)も立派だった。藤井七段には、棋聖戦の挑戦者決定戦に続く敗北。目前のタイトル挑戦を二つも逃した悔しさは、察するに余りある。
 しかし負けが決まると、十歳も若い後進に潔く頭を下げ、「藤井七段に追いつけるように、また勉強して頑張りたい」と述べた。なかなか言える言葉ではない。
 思えばコロナ禍の中、この国では「短慮」がもたらす残念な行動が相次いだ。一方、何かと「スピード感」を強調する政府が、マスクの配布などで不手際と弁明を重ねたことも思い起こされる。
 牽強付会(けんきょうふかい)のそしりを恐れずに言えば、こうした世相にあってこの若い二人の戦いぶりは、時間をかけて考えること、つまり熟慮の意味や、潔さの大切さを体現しているようにも思われる。
 藤井七段は七番勝負でも、熟考が生む驚きの指し手を見せてほしい。将棋への真剣な姿勢で棋士仲間からも尊敬される永瀬二冠は、捲土重来(けんどちょうらい)を期してほしい。
 七番勝負で藤井七段を待つのは「将棋の強いおじさん」こと木村王位。相手の攻めを粘り強くしのいで勝つ「受け」の第一人者だが、「これに勝てばタイトル奪取」という対局で八回も敗北。昨年、史上最年長の四十六歳で初めてタイトルを得て涙した姿は多くのファンの胸を打ち、「中高年の星」とも呼ばれる人気棋士だ。
 年の差は三十歳。世代も違えば棋風も、棋士としての魅力も異なる二人だ。名勝負を期待する。

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