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殺人犯がいた職場での話し 前編



これは公に書くことが出来ない、
書きたかったけど書けなかった。

たぶん・・すぐ消すんだろうけど。

ひとりの元警察官とひとりの元受刑者
そんなエッセイを今、思いだしひっそりと書こうと思う。

■ 「そして彼はまた人を殺す」

「どうして殺したの?」

あの夜、私は一生で一度きりになるだろう質問をした。

この問いかけに人殺しである彼はこう答えた。

「アイツは決まりを破ったんだ・・死んで当然だろ?」

死んで当然・・・彼は自分や自分の周りにある、
流儀や掟に反したものを殺すことは・・・当然。

「悪いことでは無い」と考えていた。

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・・ときどきニュースで奇怪な事件を目にすることがあるはずだ。
『大したこともなさそうな理由』で人を殺してしまう事件だ。

目が合った。肩がぶつかった。声がうるさかった。車を煽られた。

だから『面子を守るため』に殺す。

・・そんな理由で人を殺すのか?と誰もが思うはず。
とても信じられない話だが・・・どれも現実あることだ。

そして・・・彼は「また」人を殺そうとしていた。



■ 「元警官というレッテル」

私の勤めていたブラック企業は採用率100%
すると・・いつの間にか前科者ばかりが集まる様になってしまった。

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だいたいの犯罪の前科モンがここにいる。
暴行とか薬とか強盗とか詐欺・・・で・・・あと殺人。


まぁ元々はそうでもなかったのだが・・・・ここ数年で、
地元で「あの会社はヤバイ」という噂が広まりすぎた。

まともな人材はもう入らない・・・・
どうしたって類は必ず友を呼ぶ。

そもそもウチの社長だって前科者だ。
さほど気にもしていなかった。

しかし・・こうして元犯罪者が集まると・・
さすがに社長もすこーし焦り始めた。

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気付くのが遅すぎた。



すると新入社員が入社してくると必ず朝のミーティングで、
社長は私を指さしして大声でこう言うようになったのだ。


「ここには色んな人がいるけど、
 彼は元々警察官だったんだよ!!!」


その一言で一瞬・・・・オフィスがいやーな空気に包まれる。



・・・・・はぁ・・・なに言ってんだよ・・・これには参った。

なぜ社長は・・・こんなことを言うようになったのか?
・・・恐らくは集まりすぎた新人元犯罪者たちへの威嚇か?

・・・それとも間違って入社してしまった
一部の善良な若者たちに安心感を持ってもらうためか?

まぁとにかく私はこの「元警官」と言われることが・・・
もう・・・嫌で嫌でたまらなかった。

でも・・・・会社のため。仲間のため。

そう思って手の代わりに足の指先をギュッと握って
私はいつでも笑顔を崩さなかった。

「元警官」そう言われることが
どうしても嫌だった理由は2つ。

1つは私は子供の頃から夢だった警察官を
たった半年で辞めさせられたのだ。

当然だが「恥ずかしい」「悔しい」という思いもあった。
そんなこと人前で公言されるのは気持ちのいいことではない。

そして2つめの嫌な理由は・・・・・・・・

「元警官」というレッテルは、ある一部の界隈では・・・
とてつもなく嫌われてしまうからだ。

つまり前科のある新人。

彼らは元警官と聞いた瞬間に私を睨みつけ。
無視。舌打ち。憎悪すら見せる。

役職者である私は新人教育をせねばならないのに・・・
さぁ・・・これで・・・・第一印象は最悪だ。

・・・だがさすがに私もある程度慣れてくると。

元警官という第一印象の悪さを逆手にとって、
元犯罪者と仲良くなる術を身に着けていった。

ほら・・・ヤンキーがちょっと良いことをすると
すごく良い人に見える現象ありますよね?

あれの逆ですよ。

元警官が愛想よく元犯罪者に接し続けると・・・
なぜか「おっ元警官のクセにまともに話せるじゃねーか?」となった。

これは何度も言われたことだから間違いない。

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「元警官のくせに常識あるんだな~」
「元警官のくせに怒鳴ったりしないんだな~」
「元警官なのに偉そうにしないとこ好きだよ~」

コレなぁ・・・実際に元犯罪者勢に言われたことだけどさ、
ふふっ・・・なんかおかしいでしょう・・?


チグハグなんだよ。
生きる世界が違う。


法だとか。筋だとか。ルールだとか。掟だとか。価値観だとか。
なにもかも・・・・こちらとは・・・・違うんだよ。

そんな彼らを・・・私はいつだって愛していた。

わたしが善人だとか良い人間だとか
そういうことじゃない。

・・・・それがこの場所で私に与えられた役割だったからだ。

■ 「暴走族の少年」

そう・・・・その日は特に強烈な視線を感じた。
振り返るとそこに時代遅れのソリ込みを入れた

眉毛の無い金髪の少年がいた。
(まぁこの会社で金髪などさほど珍しくはないのだが)

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「元警官なんだって・・んじゃケンカ強いの?」

たしか・・これが最初に言われた言葉だったと思う・・・
首を傾げて。細い目をさらに細くして睨みつけてくる。

わたし?

わたしは・・・

「えへへっ」と笑って終わりだよ。

で・・・優しく。笑顔で。いつものセリフを彼にも言う。

「もし・・わからないことがあったらなんでも聞いてね?
 同じ質問を何回しても絶対怒らないから!!」


・・・彼はフンッという感じで去っていった。

いまだけ。いまだけさ。来月にはきっと仲良くなってくれる。
そうなるように・・・私はがんばるのだ。

彼は見た目通り元々は暴走族にいたそうだ。
それからケンカか何かで少年院にいたらしい。

「オレは3対1でケンカに買ったことあるよ!」

「へーそうなんだ?」

「ヘルメットで相手の頭をカチ割ってやったんだ!」

「そうかぁ・・・」

彼がそんな武勇伝を話すたび、
他の同僚たちは妙に可愛がった。

「へーおまえ暴走族か!今時珍しいな!」と
異様なほど興味津々だった。

こんな気合の入ったヤンキーは珍しいからね。

まぁ・・・みんなが彼に関心を集めたのには理由があった。
つまり「あんな風貌で契約が取れるのか?」ということだ。

わが社の仕事をシンプルに言うと。
『健康食品などを飛び込み営業で売る会社』

ほら!想像してみてほしい。

家のチャイムをピンポーンと鳴る。
「はーい!」と玄関を開けたら。

頭にソリ込みを入れた。目つきの悪い。眉無しの。金髪の。
どうみても柄の悪いヤンキーの少年が家の前に立っている。

おかしい・・・おかしすぎる・・・契約するだろうか?


・・・で・・・・この少年が
健康食品の定期購入を勧めてくるわけだが・・・・
あなたなら契約を交わすだろうか?

会社のみんなも興味津々だった。

「あいつに契約が取れるのか?」
「無理だろ・・さすがに・・・」
「あいつでも訪問先でトビラをバタン!って
閉められたら・・・心が折れたりすんのかな?」

誰もが彼を疑う中。

ただ一人「いや・・あいつは絶対にとってくる!」

そう・・・言い続ける男がいた。
少年の上司であり。私の友人でもある。

マサさんだ。

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・・・・・彼の顔面はズタズタに裂け傷だらけだったので・・・・
なんとも言えない説得力があった。

■  「キラキラ」

それから数週間が経ち。

その暴走族上がりの少年が、
なんと・・・・・『5件もの契約』をとって帰ってきた時。


オフィスがかつてないほど・・・ワーッと湧いた。

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なんでだろうなぁ・・・
私もこの事実を目にして感激してしまった。

『格好と口先だけのクソガキ』誰の目にもそう映ったはず。

・・・・それは間違いだった。
彼はキッチリと結果を出した。

この飛び込み営業というものに基本マグレはない。

・・・なぜなら私たちが扱っていた商材は
スーパーでよく打っている『どうでもいい健康食品』
わざわざ営業マンから買おうなどと思う人は皆無に等しい。

『自分のことを気に入ってもらって買ってもらう』
これ以外に契約を獲得する方法は一切無いのだ。

売り手に魅力があるのか?ないのか?
興味をもってもらえるのか?もらえないのか?

つまりそこだ。クソみたいな商売だとは思うが。
これが難しい。自分の人間力が問われる商売なのだ。

・・・・彼にはあんな風貌であっても、
『人を引き付ける何かがあった』ということだ。

これには社長も大喜びで。
ミーティングの時に彼を褒めたたえ。
みんなの前でピッチ(営業トーク)を披露させた。

・・それを見てまたビックリした。

トークが始まると。お客さん役の同僚に。

「お忙しい所恐れ入ります!」と90度に頭を下げ。

マサさん譲りの・・・見た目とは正反対の・・・・
真っすぐで。腰が低く。丁寧なトークをしてみせたのだ。

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なるほど・・・そのギャップ・・・たまらない。
お客さんも感じたことだろう。

伝わってくる・・・彼が懸命に努力していること。
契約が獲得できた理由が伝わってくる。

そうか・・・そういうことか・・・

・・・もちろんそんな彼の成長を
誰よりも喜んだのは上司であるマサさんだった。

「よぅがんばったな!!!」
部下には厳しいマサさんが珍しく誉め言葉を口にする。

すると少年の目から・・・わずかだけれど・・・
キラキラと光るものがこぼれ落ちていた・・・・

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・・・・・・・・・・・・


■ 「少年の明日」


そして・・・いつしか暴走族の少年はTシャツを脱ぎ。

スーツを着るようになり。
派手な金色の髪を少し整えて。地味な赤茶色に染めた。

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なんだかホストみたいだったけど・・・よく似合っていた。


少年がずっとこんなクソみたいな会社にいることはないんだろうけど・・・
せめてここが・・・社会に出る良い足がかかりになって欲しい。


私は・・・いつだってそう思っていた。
マサさんもそう願っていたはずだ。

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・


うん・・・ああ・・・・・だけどなぁ・・・・
どうしても・・・これを話さなければいけない。


わたしも気が重い・・・・


あー・・・・少年が『血だるま』になって・・・・・
病院に搬送されたのはその直後のことだった。

殺人者

つづく



【続きの後編です】
https://note.com/keikubi/n/nd65bfe602b8b



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コメント (3)
こ…これは気になる…気になり過ぎます…!
後編待っています!
ああ、良かったと思ったら、なかなかの衝撃展開!
あまりにも続きが気になりすぎて、
noteを初めてから、初めてコメントしています。。!
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