音楽における調(キー)というのは、以前書いたように簡単に言えば「使う基本音をしばるもの」です。この基本音のセットのことを「スケール」と言います。
ハ長調(Cキー)なら「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」が基本。(他のを使っちゃダメというわけではないんですけどね 汗)
ヘ長調(Fキー)なら「ファ・ソ・ラ・シ♭・ド・レ・ミ・ファ」が基本といった具合です。
で、調は別の調との間に一定の関係性を持つ場合があります(関係調)。これにはそれぞれ名前がついています。
そのうち、今回は「並行調」と言われるものについて、その違いを説明してみたいと思います。
1.並行調はスケールが同じ
そもそも並行調ってなんだ、という話なんですが、並行調はある長調(メジャーキー)とまったく同じスケールを持つ短調(マイナーキー)のことです。
いやん、難しい。もうちょっと我慢してください。
長調というのは、聞くと明るい感じがする調です。
一方の短調は、聞くと暗い感じがします。
まあ、実際は細かい話があるのですが、この辺はよく分かんなくてもいいです(笑)
で、ハ長調はさっき書いたように「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」というスケールです。
じゃあ、その並行調は? というと、これがタイトルに出てくる「イ短調」なのです。
「イ短調」(Aマイナー)は「ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ」というスケールになります。
イ短調は主音がラ(A)なので順番が違いますが、使っている組み合わせはハ長調とまったく同じです。#や♭が出てこないですね。(ちなみにアルファベットで書くとキレイにAからGが並びますw)
このような同じスケールを持つ調のことを並行調と言います。
2.ハ長調とイ短調は何が違うのか?
並行調は使っているスケールが同じなので、単純には区別がつきません。
まあ、聞くだけなら「明るいから長調、暗いから短調」でもいいのですが、理論的には何が違うのかともっと追求したくなる方もいると思います。
それに作曲したいときに理論を知っておくと、+アルファができるかもしれませんよね。明るい、暗いとか言われても、意識的につくるのはちょっと難しいですし。
というわけで、ここからはいよいよ本丸に入っていきますよ。
3.違いのカギはコード進行にあり!
結論から言うと、ハ長調とイ短調の違いはコード進行に現れることが多いです。
具体的に考えてみましょう。
ここではその道具として、ディグリーネームを使います!
ディグリーネームというのはスケールの音を根音(一番低い音。ルート音とも言う)にした場合のコードにⅠからⅦの数字をつけたコードの呼び方です。
なお、コードというのは音を重ねた「和音」のことで、ディグリーネームは根音から1つ飛ばしした音を3つ重ねたコードを並べたものです。Cコードなら「ド(C)・ミ(E)・ソ(G)」です。
で、コードには一定の機能があるのですが、この機能によって曲の調を強調することができます。
どんな機能があるのかというと、大きく3つで、それぞれ「トニック」、「サブドミナント」、「ドミナント」と言われます。
- 「トニック」(T)は「あぁ~落ち着くわ~」という効果
- 「サブドミナント」(SD)は「不安定」という効果
- 「ドミナント」は(D)「不安定だからTに行きたい」という効果
みたいな感じです。(雑な解説 笑)
そして、ディグリーネームを使うと、TはⅠのコード、SDはⅣのコード、DはⅤのコードになります。
もし、ハ長調(C)なら、スケールをアルファベットで書くと「C・D・E・F・G・A・B」なので、
C、Dm、Em、F、G、Am、Bm(♭5) ←コード名
という順でⅠ~Ⅶの番号が振られています。(小文字のmはマイナーコードという意味です。ここではそういうもんなんだと思っておいてください 笑)
よって、TはCコード・SDはFコード・DはGコードが該当します。
じゃあ、それ以外のコードは関係ないのかというと、それ以外のコードは代理コードと呼ばれていて、T、SD、Dの補欠みたいな感じで各機能に所属しています。
具体的には、
- TはIがメイン、ⅢとⅥが代理コード
- SDはⅣがメイン、Ⅱが代理コード
- DはⅤがメインで、Ⅶが代理コード(ただⅦは使い方が難しい)
です。
そしてこれらは、
- T→SD→D→T
- T→SD→T
- T→D→T(終わりに使われるとドミナント終止と呼ばれる)
の3つのパターンで進むことが基本とされます。なお、このようにコードが変わっていくことを「コード進行」と言います。同じ機能内でコード進行してもOKです。
ただし、同じ機能に所属するコードを使う場合、「代理」→「メイン」で進むのは避けるべきと言われます。(実際の曲ではありますけどね。かっこよければ理論は無視でもOKなんです)
ハ長調の場合、
- TはCコードがメイン。Emコード、Amコードが代理。
- SDはFコードメイン。Dmコードが代理。
- DはGコードメイン。Bm(♭5)コードが代理。
という分類になります。
そして、イ短調であるAmキーの場合は、スケールが「A・B・C・D・E・F・G」なので、「Am、Bm(♭5)、C、Dm、Em、F、G」の順で番号が振られています。
なので、
- TはAmコードメイン。Cコード、Fコードが代理。
- SDはDmコードメイン。Bm(♭5)コードが代理
- DはEmコードメイン。Gコードが代理。
となります。
これらの機能を頭に入れたうえでコード進行をつくると、長調・短調を意識した曲をつくることができます。
実際の曲で、これが使われているのか見てみましょう。
4.実際の曲のコード進行
例1:きらきら星
まずは、「きらきら星」。この曲はハ長調です。
序盤は、
C F C F C G C
という進行です。
最初のC→F→Cは、長調のT→SD→Tパターンです。次も同じ(初めのコードがかぶっていても構いません)。
最後はC→G→Cで、長調のT→D→Tパターンです。
要は、T→SD→T→SD→T→D→Tです。最後はドミナント終止で「あ~終わった~」感が出るとされる進行です。
次~。
例2:アゲハ蝶(ポルノグラフィティ)
こちらはJ-POPの曲なので、必ずしも理論通りではありませんが、例外に目をつむれば何となく分かってきます。この曲はイ短調です。
簡単に書くと(7thは省略)、
Am Dm F G Am Dm F G A
みたいな感じでAメロが始まります。
最初の5コードは、短調なので、T→SD→代理T→代理D→Tとなっています。これはきれいな進行です。
もう少し見てみます。次も同じパターンの進行で最後だけAになっています。本当はAmですが、ここはメジャーコードを使っていますね。まあ、同じようなものだと思いましょう。
となると、並びとしては、
- T→SD→T→D→T(×2)
となります。こう見ると意外に理論は使われています(もっとも理論にしばられて曲をつくっているわけではないのでしょうけどね~)。
次!
例3:わたがし(back number)
この曲もイ短調です。序盤の進行は、
Am Em F C G Am
です(簡単にしてます)。
- T→D→代理T→代理T→代理D→T
T→D→Tの進行を2回繰り返すきれいな進行になっています(同パターンの進行でも代理コードを入れて雰囲気を少しだけ変えるのはよくあります)。
疲れてきたので、最後!(笑)
例4:チェリー(スピッツ)
この曲はハ長調です。序盤の進行は、
C G Am Em F C F G
です。
- T→D→代理T→代理T→SD→T→SD→T
「T→D→T」のあと、「T→SD→T」を2回繰り返すきれいな進行をしています。
いかがでしょう。実際の曲でもある程度理論が反映されていますね。
ぜひいろんな曲で試してみてください(全部当てはまるわけじゃないですけどね……)。
5.まとめ
まとめますと、
- ハ長調とイ短調は使う基本の音は同じである
- ただ、ハ長調は明るい感じ、イ短調は暗い感じに聞こえる
- これは理論的にはコード進行が異なるために起こる
という感じです。
でもハ長調の曲でもAmを使えば、一瞬イ短調っぽくなります。
また、ハ長調の曲のサビでSDであるFコード始まりのことがあって、すごくいい感じに聞こえることがあります。不安定なSDなのになぜでしょう?
実はこれはFコードが短調ではTなので、ここだけイ短調に転調した感じに聞こえるために起こる現象です。(明るい曲の中に、一瞬暗さが混じると、世界観が深いものになりますよね)
こんな感じで、長調あるいは短調の曲でも、使うコードを工夫することで、「並行調へのこっそり転調」みたいなことができたりします。
実際曲を作っている人が過度に理論にしばられるのはよくないですが、分析したり、答えを知りたいときに音楽理論は便利なツールになります。
興味ある方は色々調べてみると面白いですよ!
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