「PCRしなくていいんですか?」へのお返事

2020/04/30
薬師寺 泰匡(薬師寺慈恵病院)

 4月26日時点の岡山県の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者数は22人です。多くが県外からの持ち込み症例で、僕が居住する総社市に限ればCOVID-19患者さんはゼロです。PCR検査は約1000人に行われており、大雑把に見て陽性率は2%です。この後は、以上の前提を踏まえてお読みください。かなり地域差が生じており、逼迫した中で医療を続けている皆様の前で恐縮です。

 最近、保健所を通して患者さんが紹介されるケースが増えてきました。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染を疑っているけれども、濃厚接触者でもないし、国外、さらには県外にすら行っていない。そういう状況なので、「まず一旦診察してほしい」というお願いです。ウイルス性上気道炎を疑う、ちょっと鑑別に難渋するようなものから、明らかに細菌性肺炎であろうという患者さんまで様々ですが、診断の後に患者さんからこう言われることがあります。

 「PCRはしなくていいんですか?」

 しなくていいんですかと言われたら、川平慈英のモノマネをする博多華丸師匠よろしく、「いいんです!」と言って差し上げたいところです。

 近頃、世間の話題は「コロナ」一色です。しかし、当地で疑いが濃厚な人を寄せ集めて検査しても、陽性率は2%なのです。検査で陰性だった98%の方々についても、COVID-19ではなさそうだからといって、その他の鑑別診断をないがしろにはできませんし、どんなに特異度の高いPCR検査といえども、偽陰性・偽陽性が問題になってきます。PCR検査はとても疑わしい時に、偽陰性の場合まで想定して行うのでなければむしろ危険というのが個人的な考えです。

著者プロフィール

薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院)●やくしじひろまさ氏。富山大学卒。岸和田徳洲会病院(岸徳)での初期研修を経て救急医療の面白さに目覚め、福岡徳洲会病院ERで年間1万件を超える救急車の対応に勤しむ。2013年から岸徳の救命救急センターで集中治療にも触れ、2020年からいきなり管理職。地方二次救急病院で診療しながら、岡山大学の高度救命救急センターでますます救急にのめり込んでいる。

連載の紹介

薬師寺泰匡の「だから救急はおもしろいんよ」
ER×ICUで1人盛り上がる救急医。愉快な仲間達と日本一明るい救命センターを目指して日々奮闘し、「ER診療の楽しさ」の伝承にも力を入れています。出会った患者のエピソードや面白かったエビデンス、ERを離れた救急医の日常までを綴ります。

この記事へのコメント(4件)

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  • 薬師寺泰匡(2020/05/29 16:13)

    >匿名さん コメントありがとうございます。事前確率を上げることがとても大事です。それこそが我々臨床医の仕事だと思っています。

  • 薬師寺泰匡(2020/05/29 16:12)

    >H.K.様 コメントありがとうございます。早期にCOVID-19をピックアップすることはおっしゃるように大事なことだとおもわれますが、疑い時点で拡散防止策をとることで、代用できます。スルーはしません。PCRよりも感度を高めて広めないようにしていけばよいのです。検査が回らなくなった期間があったかもしれませんが、基本的には必要なところには検査はいきとどいていたと僕は認識しております。

  • 匿名さん(2020/05/07 16:50)

    COVID-19の封じ込めに関しては各方面のエキスパートの方々が議論を尽くされている所であり、一介の医療者がコメントするのも差し出がましいとは存じますが、少しコメントさせていただきます。 テレビ番組やニュースなどを見ていると、一般の方はPCR検査が万能であるかのように考えているように思えます。そんな中で偽陰性が出た場合はその人が感染を拡大させる恐れがあります。また、偽陽性であった場合はCOVID-19ではないにも関わらずCOVID-19の患者と同室で管理されるため、不必要な感染リスクとなる懸念もあります。 そのことを考えると、疫学的見地や、臨床所見から事前確率をある程度高くしてからPCR検査を行うことは妥当であると考えます。そして感染拡散の予防は疑わしき患者の自宅待機や3密を避けるなどに重点を置くべきではないでしょうか。これは医療従事者だけでなしえる事ではなく、行政やマスコミなどによるところが大きいかと思われます。 医療従事者の中でも意見の割れるような難しい話だとは思いますが、なるだけ早くにCOVID-19が収束し、日常を取り戻せるようにという思いは皆様同じだと思います。船頭多くして船山に上るとも申します。我々は目の前の患者さんに集中して、大きな方針は各方面のエキスパートに任せるのも大事ではないでしょうか。 薬師寺先生の記事、H.K.様のコメントを見て少々刺激を受けましたのでコメントさせていただきました。

  • H.K.(2020/05/02 09:34)

     前触れなく突然にCOVID-19に遭遇する可能性がある救急の現場で活躍されておられる先生方には、患者さんの命だけでなくご自分の命も大切にしていただきたいと切に願っております。それだけに、今回の「PCRはしなくていいんです」とのご意見には驚きました。何度も読み返しましたが、私にはそう断言される根拠がよく理解できません。  感染率が少ない地域で検査をすれば、真の陽性より偽陽性の数が多くなるのは承知しております。そして、それを想定した上での対応が必要なのではないでしょうか。来院したすべての症例に対してCOVID-19対応が可能であればPCRせずにその後の治療を継続する方法もあるでしょうが、おそらくそれは困難(可能なのであれば失礼な事を言って申し訳ありません)。出来るだけ早期にCOVID-19症例をピックアップして拡散を防ぐことは、むしろ蔓延していない地域でこそ必要です。  偽陰性の例をどうするんだというご意見ですが、100%スルーするより70%をブロックする方が大切です。いずれは感染の侵入が避けられないとしても、そのスピードは抑えられます。  最近「コロナの話題は飽きた」というような記事さえ見るようになりました。これは危険だと考えます。今の第1波さえ終息が見えていません。この後の第2波、第3波にどうやって対応するか、データを解析して、よりよいシステムを造る(あるいは造り直す)事が必須なのに。  先生の記事が出た丁度同じ日に、PCR検査現場からのレポートも掲載され興味深く読みました。それによれば、この国ではPCRキットの数自体がひっ迫しているらしい。とすると(私の想像ですが)再検査が必要な症例が増えれば新規感染者の報告数は減る、ひっそりと亡くなった症例は検査する余裕が無いからCOVID-19による死亡数報告は減る、そのような、いびつなデータで作文された報告書によって医療システムが考えられる、あるいは、変える必要が無いと判断される。このような事態は許してはならないと、私は考えています。

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