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トランプ大統領が武器輸出攻勢、苦境続く日本の防衛産業に追い打ち

  • F2後継戦闘機で国産断念の報道、「日本主導の開発必要」と三菱重
  • 輸出解禁も実績はほぼゼロ、豪潜水艦受注は失敗

安倍晋三政権下で防衛費が増加を続ける中、国内関連産業に逆風が吹いている。トランプ米大統領が、近年輸入が急増している米国産装備品をさらに売り込もうと攻勢をかけているためだ。世界中で貿易摩擦を仕掛ける強敵を前に、業界は技術基盤が失われると危機感を募らせている。

Japan's New Stealth Fighter Jet Makes Its First Test Flight

F2(左)とX2

Photographer: Kaz Photography/Getty Images

  当面の焦点は航空自衛隊の戦闘機F2の後継機開発だ。運用中の約90機が2030年頃から退役するのを見越し、三菱重工業やIHIは09年度からステルス機能など先進技術を搭載した実証機X2の開発に取り組んだ。後継機につなげる考えだったが、今年に入って防衛省が高コストを理由に国産を断念したとの報道が相次いだ。

  三菱重工業の阿部直彦執行役員は先月5日の事業戦略説明会で、F2後継機について「国内産業が持続していくため、わが国主導の開発は必要ではないか」と訴えた。16年にはX2の飛行実験にも成功し、国産で「十分やれる力はある」と強調した。

  調達を担当する防衛装備庁は、国内開発・生産基盤の維持・強化を掲げているが、日米共同で開発したF2の後継機を巡る姿勢は定まっていない。小野寺五典防衛相は「国産開発を断念したという事実はない」と話している。朝日新聞は、国際共同開発を軸に同省で検討を進めるが、米国製の戦闘機F35-Aを追加購入する代替案もあると報じている。

  防衛費は第2次安倍政権発足後、北朝鮮の核ミサイル開発や中国の東シナ海進出などを背景に6年連続で増加、18年度は5兆1911億円と過去最大を記録した。うち戦闘機や護衛艦などに支払われる装備品等購入費は8190億円と15.7%を占める。安倍首相は先月の国会答弁で「真に必要な防衛力については今後ともしっかりと強化を図っていく必要がある」との考えを示した。

FMS

  安倍政権下の防衛装備で目立つのは輸入の増加だ。当初予算(契約ベース)の輸入比率は11年度の7.4%から16年度には23.3%まで拡大。このうち、米政府を通じて高性能な米国製装備品を購入する「有償軍事援助(FMS)」は実績値で、13年度の1117億円から16年度には4倍以上の4881億円に急増した。15年度はF35-Aやオスプレイ、イージス・システムなどの調達が総額を引き上げた。

  これに加えて、トランプ大統領は昨年11月の日米首脳会談後の記者会見で、「重要なのは米国から大量の兵器を買うことだ」とさらなる輸入増を促した。

「FMS」調達額

安倍政権発足後、3年で4倍以上に急増

出所:防衛装備庁

  三菱重工の阿部氏は、FMSでは国内部品メーカーに「仕事が降りてこない」と指摘、技術基盤を支えてきた企業が「いなくなっていく」と懸念を示した。防衛省が16年に公表した調査では、関連企業72社の約7割にあたる52社が、「部品等を製造する企業の事業撤退、倒産による供給途絶が顕在化した」と回答した。

  国内企業が主に建造を担う護衛艦や潜水艦、戦車と比べ、戦闘機開発の分野で日本勢の苦戦が目立っている。F2の生産が終了した11年前後には、関連企業が相次いで事業継続を断念した。住友電工は防衛省向けの製品は成長性に乏しいと判断し、07年から順次縮小・撤退。横浜ゴムも10年に同省向け航空機用タイヤ事業を終了した。

  拓殖大学海外事情研究所副所長の佐藤丙午教授はFMSの増加について「明らかに日本の防衛産業が防衛省が望む物を作れていないことの証明。良い事態ではない」と指摘した。

防衛大綱

  政府は年末に「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」を改定する。今後の装備品調達の方向性などを打ち出すが、技術基盤維持を唱える自民党と経費削減を求める財務省とのさや当てが早くも始まっている。

防衛費、18年度は過去最高に

安倍政権発足後、6年連続増

出所:財務省

  自民党の合同部会は先月1日、北大西洋条約機構(NATO)が目標とする対国内総生産(GDP)比2%を参考値に現在1%以下の防衛費の増額などを安倍首相に提言した。若宮健嗣・国防部会長は国内産業の維持・強化が「大きなポイント」とし、国際競争力を国内企業にも持たせる必要性を訴えた。

  一方、財務省は、国内防衛産業の高コスト体質を問題視する。同省の審議会は5月、麻生太郎財務相に「費用対効果に優れる機種」への切り替えを提言した。例として挙げたのは価格上昇が著しい輸送機だ。1機あたり208億円する川崎重工業のC2に対し、米国製のC130J-30は98億円。航続距離はC2の半分に落ちるが、東シナ海や北朝鮮を想定した展開は十分可能との主張だ。

  桃山学院大学の松村昌廣教授は、国産装備品は「工芸品を作っている」イメージだと指摘する。米など実戦でも使用している国では量産され「使い捨て」となるが、自衛隊は長期間使い続けるため購入量が少なく、価格高騰につながっているという。

輸出解禁も受注競争で苦戦

  若宮国防部会長は、5月の党会合で、「海外にある程度受注できるようになれば当然のごとく規模の経済で単価が下がってくる」と述べ、海外輸出を増やせば自衛隊の調達コスト削減にもつながるとの考えを示した。政府は14年に防衛装備移転三原則を策定し、国産装備品の輸出に道を開いたが、オーストラリアの潜水艦受注で日本勢はフランスに敗れるなど実績はほぼゼロだ。

  経団連の吉村隆産業技術本部長は、日本企業も海外で防衛装備品の展示会に参加しているが、性能に関して情報開示の規制が厳しく商談に発展していないとし、改善を求めている。企業側は「使命感のもと、歯を食いしばって続けている」が、「各社の努力も限界に来つつある」と窮状を訴えた。

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