公益通報制度 告発者の善意守らねば
2020年6月29日 07時10分
企業や役所の不正を内部からあぶり出す公益通報者保護法が改正された。通報窓口の担当者に守秘義務が課されるなど前進はある。だが、善意の告発者を守るための根本的な解決策はまだ足りない。
三菱自動車のリコール隠しや雪印食品の食品偽装などの不正は、内部告発によって明るみに出た。そのため告発した人が通報を理由に、解雇や降格など不利益な取り扱いを受けないように二〇〇四年に法が制定された。
〇六年の法施行から初となる今回の改正点は、三百人を超す法人に対して内部通報制度の整備が義務付けられた。保護の対象は「労働者」から、役員や退職後一年以内の元社員に拡大された。通報窓口の担当者に守秘義務を課し、情報を漏えいした場合には三十万円の罰金が科される。
告発者を守る措置の一環であるから前進と評価できるが、物足りない点もある。取引先が不正を知る場合もあり、保護対象者を限定的にすべきでない。
法は通報の報復として人事上の不利益な取り扱いを禁じるが、組織は別の理由を持ち出し左遷したりする。
そんな抜け道を許さないために本人に不本意な人事行為そのものを禁ずる考え方もあろう。違反すれば行政機関が勧告し、組織名を公表する策もある。
告発できる不正行為が制約を受けている問題もある。主に個人の生命や消費者の利益などに関わる法律違反に限られる。税法や政治資金規正法、公文書管理法などは対象法からすっぽり抜け落ちている。これはおかしい。決裁文書の改ざんなど数々の不正を考えても、「公益全般」まで視野に入れた制度に改良すべきである。
法律の専門家でない個人がどの法律違反に該当するか判断するのは困難である。使い勝手は必ずしもよくない。
米国では証券取引委員会(SEC)が企業から百万ドル超の制裁金を得るのに成功した場合、通報者には10〜30%の報奨金を出す仕組みを採用している。
善意に基づく不正の告発は組織への「裏切り」ではない。長い目でみれば組織の利益にもかなう。広く国民全体の利益、社会益になるとの考え方に立ち、米国流の制度も参考にすべきである。
法令順守が叫ばれながら、組織ぐるみの不正は後を絶たない。内部からの勇気ある告発を尊重するためにも、通報者を守る環境づくりは万全を期したい。
関連キーワード
PR情報