子どもは体重が減り、このまま餓死する人も出るかも…沖縄「貧困家庭」の現実
新型コロナウイルスの影響で、経済的打撃を真っ先に受けたのは低所得者層である。日本政府の経済的支援政策は有効だったのか。試金石となるのが「沖縄」だ。子どもの貧困率が全国1位であるかの県では、自粛要請中の約2カ月間、「餓死する人も出るのではないか」といわれるほどの事態になっていた。ジャーナリストの瀬川牧子氏が取材した。
沖縄の貧困現状 母子家庭の17%が失業中
沖縄県での自粛要請が一部緩和された5月末、県内最大の大型ショッピングセンター「イオンモール沖縄ライカム」(北中城村)は、マスクを着けた客たちでにぎわった。買い物を楽しむ人々に、館内放送はこう呼びかけた。
「新型コロナウイルス 感染拡大影響で、臨時休校になり、給食がないため、健康不安や栄養不足などの問題を抱える子供たちがいます。困難な状況にある子供たちを支える為、皆さまの温かいご支援、ご協力をお願い申し上げます。集まった募金は支援が必要な家庭へ食材を届ける活動に役立てていきます」――。
同じアナウンスは続けて3回、放送された。東京では一度も聞いたことのない呼びかけである。
同行していた友人が「このままだと餓死する人もでるよ」とつぶやいた。彼女の知人にも、明日の食事に困り、米を融通している家庭があるという。4人の子がいるのだが、母はコロナによって食品工場のパートをクビになり、父も整備工場の仕事が激減。現金収入が十万円以下に落ち込んでしまったためだという。
子供への食料支援を募る放送はここだけでなく、読谷村の閑静なリゾート別荘地でも聞かれた。
貧困率が全国でも高いことで知られる沖縄県。調査によっては1位にかぞえられることもあるが、年収122万円を下回る困窮層の割合は全体の25%で、これは日本全体の約14%の約2倍に値する。子供の貧困率は約30%と、こちらも全国平均の約2倍の深刻さだ。
離婚率も全国1位、母子家庭率も他県と比べて断トツに高い。母子家庭の収入源は、約32%がパートかアルバイト、17%が失業中だという。小中学校の子供を持つ困窮世帯に実施されたアンケート調査では、約16%が「子どもを医療機関に受診させることができなかった」、約32%が「子どもに新しい服や靴を買うことができなかった」と回答している(参照:平成30年沖縄県子ども貧困現状調査、厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査」)。
新型コロナウイルスの感染拡大で、沖縄経済を支えて来た観光業は深刻な打撃を受けた。倒産する企業も現れ、職を失った県民も少なくない。母子家庭を中心とする困窮世帯は崖っぷちに立たされているのだ。こうした世帯および子供たちを救うべく活動する3つの団体の取り組みを紹介したい。
通常食は菓子パン、カップラーメンなどの保存食 懸念される「著しい学力低下」
うるま市のNPO法人「ちゅらゆい」は、ひきこもりや不登校の中学生たちおよそ30人を支援している団体だ。私が訪れた5月29日、市役所などを通じて、肉や米などの支援物資がダンボール10箱分届いた。スタッフの屋部千明さん(34)は「子供たちは菓子パンやカップラーメンなどを食べてばかりなので、お肉がとても嬉しいです」と話す。
「もともときちんとした食事をとる習慣のない子供たちが多かったところへ、コロナでの自宅待機や自粛要請となり、さらに食生活がひどくなっているように思えます。先日、自宅を訪問した中学3年生の男子生徒は、コロナ前より3~4キロ痩せていました1日1食の食生活が当たり前になっている子です」
話を聞く限り、子供らは炭水化物などを中心にした最低限の食事しかとっていないようだ。感染防止の観点から屋部さんたちの食事場所提供も制限され、子供が自宅に籠ることが多くなってしまったという。
栄養状況の悪化と同時に、屋部さんの一番の懸念は「学力の著しい低下」だという。他県と同様、沖縄でも休校中のオンライン授業が行われているそうだが。
「まず困窮家庭にはネット環境がありません。親御さんの携帯でさえ、料金未支払いで止められている状況が普通にあるくらいです。授業を受けるためのパソコンやタブレット代はもちろん、1カ月5000円のネット代を支払うだけの余裕がない人もいます。沖縄の貧困を救うのは“教育”しかありません。学習支援をするために、せめてパソコンが10台でもあれば子供らの未来を変えることができるかもしれないのですが……」
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