コロナの届け出「ファックスで保健所に提出」がやめられない理由

この機会に明らかにすべき本当の問題
奥村 貴史 プロフィール

検体管理の問題

最後に、患者検体の管理に関わる問題がある。患者から得られる検体は、さまざまな検査施設に送られうる。それぞれの検体には、採取した患者の情報、検体がどこに送られているかという移動情報に加えて、その検体の検査結果に関する情報が生じる。そのうえで、検査の結果を効率的に臨床側(病院側)に伝える必要がある。

今まで自治体は、それぞれが独立してこの検体情報を管理してきた。この検体情報を全国的に統一して管理する基盤は存在しなかったため、全国で何件検査が行われ、何件陽性が出たかという最低限の管理をするためだけに、全国的な情報集約に相当な手作業が介在することになっていたわけだ。

ひとつの検体が、精度管理のために複数の検査機関に送られるケースもあるため、管理の手間はさらに複雑となる。医師側からみると患者発生届に意識が向くが、情報システムは、この検体と検査結果情報を全国レベルで管理する手法にこそ価値を発揮する。

システムを整備する場合には、このように、地方自治体を含む公衆衛生行政の情報管理と合致する必要があり、それができなければ、コロナ禍が去った後にそのシステムの扱いに難しさが残る。

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ウェブ化だけでは解決しない

医療機関からの報告をウェブ化することそのものは、技術的には容易な話である。しかし、医療機関側から見えないところに、感染症対策におけるさまざまな業務が存在する。患者発生届は、そうした公衆衛生活動における情報のやり取りの一部に過ぎない。

仮にこの発生届をウェブ化するとしよう。しかし、その結果、保健所側での業務が増す懸念がある。導入には解決すべき様々な課題があり、実際、迅速な投入を行うことはできなかった。そして、効率的な統計取得に至るまでに相当な作業を要しながらも、公衆衛生に存在する情報共有上の根本的な問題解決には繋がらない。本稿では割愛したが、情報セキュリティ上のリスクも孕んでいる。

ここで根本に立ち返りたい。出来る限り短期間に、どうすれば医療機関と保健所双方の負担を下げることができたか。患者発生届に限定して述べれば、まずは煩雑な患者発生届を必要最小限のものへと簡素化し、保健所側でOCR処理(手書き等の文字を自動的に読み取り処理する技術)すれば良かったものと考えられる。