まず、医師の患者発生報告をオンライン化するとして、そもそも(提出者が本当にしかるべき人物であるかという)「認証」をどうするかという問題がある。要するに、医師に「アカウントとパスワードをどう配るか」という問題である。
もともと、医師をオンライン上で認証するために、保健医療福祉分野公開鍵基盤(HPKI)という仕組みが整備されてきた。しかし、この方法は現時点で普及しているとは言い難い。今回、オンライン報告を希望する医師にアカウントを配ってしまうのも手だが、医師はとりわけ「気難しい顧客」で、一般的な情報システムと比べて、ユーザーサポート体制を充実させる必要がある。そうした体制を短期間に立ち上げるためには、相応のコストが掛かる。
仮にコストをかけて体制を作り、アカウントを配布したとしよう。しかし、単一疾患(今回の場合は新型コロナウイルス感染症)の患者報告にしか利用できないアカウントは非効率である。そもそも医療機関と公衆衛生行政の間には、感染症発生届に限らずさまざまな情報共有上の課題がある。そうした論点を整理しないまま、既存の政策との整合性が取れない施策を進めるのは問題の解決を遅らせる。
仮に認証の問題が解決し、これで希望する医師によるウェブ報告可能となったとする。しかし、それで医師の負担が下がるかどうかは、医師個人や施設毎の差が大きい。
そもそも医療機関では、個人情報の保護のため、患者情報の入った情報システムは基本的にインターネットに接続しないことになっている。ネットに接続した少数の閲覧用端末は外来や病棟にあるだろうが、電子カルテから患者の氏名や住所等の情報を持ってくることができなければ、「二重入力」が生じる。
電子カルテをネット接続できるよう改造するのは極めて高コストであり、短期間にできるものではない。